第49話

 事を済ませて二人はシャワーを浴びて顧問室のソファーに座った。実はこのソファーも経費の余りから捻出してその上でも愛を重ねた場所でもある黒いソファー。ベッドにもなる。(大体はベッドにしていた)


「理事長……見てたかもね」

「かもな」

 湊音も気にしていたようだ。

「理事長にはもう未練はない?」

「未練か……もうしばらく会えなくなるからな」

「どうせ昨日の晩、抱いたんでしょ」

「ああ、朝も」

「それから数時間後に僕を抱いたんだ」

「てことになるのか」

「さすが性欲魔人」

「なんじゃそりゃ」

 二人は笑った。


「そうそう、シバの部屋のベッドの下に落ちてたイヤリングの件覚えてるよね」

「ああ、あの事件の日のことだから」

「結婚のことを三葉さんに報告するために彼と一緒に行ったんだけどね……」

「ほうほう……」

 シバは少し気になってはいた。だが重要案件ではなかったから忘れかけてはいたのは言えなかったが。


「三葉さん、大島さんの浮気気づいてたみたいだよ。それに……」

「それに?」

「彩子先生が事故後に三葉さんに詫びにきたそうだ……」

「うわー修羅場ー、てかもうだいぶ前に」

 湊音はシバの脇腹を小突く。


「お前が言うなよ……三葉さんが言うには彩子先生を送っていくときに轢き逃げにあったようなんだ」

「うげっ」

「で、彩子先生が匿名で救急車呼んで通行人だと言って救急車に乗らずその場から去ったそうだ……車も暗くて分からず情報不足だった」

「……まじか」


 シバはまさかと事実に口をアングリさせた。


「でも三葉さんは彩子さんが通報してなかったら大島さんは助からなかったから感謝したそうだ」

「いや、彩子先生を……不倫相手を送ってなかったら起こり得なかった事故でしょ」

「……話聞いただけでもかなりの修羅場だったのかなって。微笑みながら飄々と語ってたからさ」

「修羅場ー」

 シバは腕に鳥肌が立つ。


「なぁ、もしかしてだけど……彩子先生の子供ってさ」

「……もうそれ以上は知らん方がいい」

「だよな」

 あまりの恐ろしい話に二人は黙る。


「……そのついでに聞くけど湊音は認知した子供いるって話だけど」

「いや、それはついでに聞くなよ。てか修羅場にするなよ。ただ酒飲まされて酔わされて子種植え付けただけだから」

「いや、十分だが……だから女が信じられないとかなんとか」

 湊音は頷いた。


「息子は一度あった」

「そうなんだ。彼氏はそれは」

「知ってる。僕の遺伝子がこの世にあると言うだけでもホッとしてるって」

「そうなんだ……」

「元妻にも報告してさ、てかあいつにはもう新しい恋人できてるからメールで連絡したらお祝いくれた」


 いろんな事実を知ってシバは何も食べていないのに胃もたれをした感覚である。


「それよりもさ、お前の結婚相手の写真ないのか?」

 シバがずっと気にしていたことである。自分に似たようなタイプなのか、反対なのか。


「えっ……恥ずかしいよ。てか平気なの? あんなに抱いたのに僕の相手を見たいだなんてさ」

 よくもまぁ言えるセリフだがシバは頷く。そして質問していく。


「歳は?」

「同い年。シバともだね」

「背丈は」

「182くらいかな。シバより少し小さいけど僕にしたら大きい」

「……背が高いのが好みなのか」

「僕が小さいからさ」

「仕事は?」

「聞くねぇ。営業だよ。バーテンダーもやってたけどやめたばかり」

 その解答にシバは気になる。バーテンダーだった……?


「バーテンダー……」

「うんうん、彼のバーテンダーとしての姿見せてやりたいくらいだよ。顔も小さくて手足も長くて」

「惚気るな」


 湊音は彼の話になると少しテンションが上がる。しかしシバはなんかこの特徴、聞いたことがあると……。


「てかもうこんなに話したら写真見せるしかないよね」

 と照れながらもスマホを取り出した。シバは何故か鼓動が高まるのに気づく。


「この人」

 湊音からスマホを受け取る。


 気を許した時に見せる湊音の柔らかい表情の横にいた人を見てふと声が出たシバ。


「李仁っていうんだ」

「李仁……」


 この顔でその名前の男は一人しかいない。シバが一番好きだったあの李仁だ。

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