あまりにも面白くて一気読みした。
登場人物各自の記憶はあやふやなうえに保身と欺瞞(ぎまん)に満ちていて、広大な湖を渡るのに飛び石を伝わねばならないようなもどかしさと知的軽快さを要求される。しかし、その行為自体が実に楽しい。時にはわざと踏み外し、水中に転落してから泳いで手近な飛び石にしがみつくのも一興。
本作最大の特徴の一つに、誰一人として自分の行為に罪悪感を抱いてない点にあるだろう。だからといって過去からは逃れられない。まるで、くすぶりながらもしつこく燃え盛る泥炭のように。粘りつく植物の残骸は、青い彼女の髪かもしれない。
衝撃の結末も含め、大いに堪能した。
必読本作。
何者かによって集められた参加者たちが、強制的に殺し合わせられるデスゲームもの。本作も6人の男女が怪しげな部屋に集められ、部屋の外には既に殺された女の死体が……。
この中の誰が殺したのか疑心暗鬼になりつつも、状況を整理するために彼らは互いにデスゲームに巻き込まれた経緯を語るのだが、実はこの連中は全員皆大嘘吐きだった!
ただの下っ端だったくせにヤクザの組長を名乗る老人や、チンピラまがいの商売をしていながら優秀な弁護士を名乗る男など、どいつも平気で身分や経歴を偽る曲者揃い。そんな彼らの語る身の上話は、カエルのおもちゃを武器にして過去にデスゲームを生き残った話や、VRゲームの世界に取り込まれ殺されそうになった話など、大変バラエティに富んでいて面白い。
互いを出し抜くための騙し合いがどう転ぶのかというミステリー要素も興味深いのだが、それと同時に気になるのが、彼らの話に共通して登場するのが辺見瑠璃という女の名前。
別にそんな嘘をつく必要はないはずなのに、なぜか彼らは作り話をする際に決まって、この女の名前を出してしまう。これはただの偶然なのかそれとも……。
詐欺師たちが織りなすコンゲーム要素とオカルト要素をデスゲームものに組み込んだ異色の一作。果たして最後まで生き残るのは誰なのか!?
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)