メンバー集めは波乱の予感
九島先生との話で自分が置かれている状況を色々と把握しつつ、一先ずの目標として学年合同レクリエーションで優勝することを決意した。
そのレクリエーションではクラス内で五人組のグループを作る必要がある。
とは言え、だ。俺の場合は入学する前からの知り合いはクラスどころか同じ学年には一人もいない状態だ。そこからメンバーを集めてグループを作るとなると、かなり大変そうだ。
主にチームワークよりも選ぶ段階のコミュニケーションで。
まあ誘いたい奴を一人決めているので早速誘ってみることにした。
「なあタイチ。今度ある学年合同レクリエーションって知ってるか?」
「ああ、さっきのホームルームで九島先生が言ってたやつだろ。詳しい話はまた今度て言ってたけど、もしかしてさっきの呼び出しってそれ関連だったのか?」
「まあ当たらずも遠からずってとこだけど……」
スキルを使うような実技の授業をしていればいずれはバレるかもしれないが、今は俺がユニークスキルを持っていることは黙っておく。
色々きな臭いことが起こってるみたいだし、別にタイチがそういう連中と繋がるがあると思ってるわけじゃないけど用心するにこしたことはない。
「で、先生に聞いたんだけどそのレクリエーションに参加するには五人組のグループを作る必要があるらしいんだよ。それもクラス内でさ」
「まじか~、他のクラスもオーケーならともかくあのクラスには知り合いなんていないぞ……なるほど。お前の言いたい事が分かったぞ。ようは俺とお前で組もうって話だな?」
「おっ、察しがいいな。お前の言う通り、レクリエーションで同じグループを作ろうぜってお誘いだ。どうだ?」
「全然いいぜ! むしろ少しでも気心が知れた相手と組めるならこっちからお願いしたいぐらいだ!」
「よし、これで一人確保だ! 残すは三人なんだが、どうするかな……」
「やっぱり女子がいいよな! 男ばかりで五人組はむさ苦し過ぎるし最低でも紅一点は欲しいところだぜ!」
「お前は本当にそればかりだよなぁ」
「あっ、さっき教室で話してたあの二人はどうだ? 何かお前と仲良さそうにしてたじゃん!」
「あの二人って――もしかして赤嶺さんと七海さんのことか!? いやいや、あの二人を同じグループに入れるって完全に地雷だろ! さっきのあの喧嘩というか言い争いを見ただろ!?」
「目指せ優勝!」が目標なのに優勝云々以前に、内部分裂もしくは空中分解しかねないだろ!?
「じゃあ、二人のうちどっちか一人ってのは?」
「それもなあ……なんかあの二人って妙にお互いに張り合ってるだろ? だから片方だけを選ぶとかなったらいらん角が立つ気がする。入学早々にクラス内に敵というか、そんな刺々しい雰囲気になりたくない……」
「ああ、気持ちは分かるぜ? あんな美少女に目の仇にされるとか普通に凹むよな~」
……何でだろう。コイツとの会話は成り立っていそうで、成り立ってない。
「となるとお互いにクラス内に他の知り合いはいないってことか。どうせ誰も条件が同じなんだったら、健司は誰を誘いたいとかあるのか?」
「……実は一人だけ気になってる人がいる。別に知り合いって訳じゃ無いんだけど、名前が気になってさ。もしかすると知り合いの親族かもしれない人がいてな」
「そっか。じゃあその人を上手く誘えたとして残り二人――っと、着いたぜ。ここが俺の行きつけのカレー屋『ガラムマサラ』だ!」
「すっげー直球なネーミングだな……」
辿り着いたのはいかにも個人経営っぽいこじんまりとして佇まいのお店だった。
店の外でも食欲を刺激するスパイシーな香りが漂って来ている。
そしてお店の看板には確かにタイチが言ったように、でかでかと『ガラムマサラ』と書かれている。
「この店は昔からの行きつけでさ、店主は日本人何だけどだからこそ日本人の好みを分かってるというか。本格的なんだけど、どこか安心感のある味で滅茶苦茶美味いんだよ~! しかも基本ナンとライスはお替り自由、追加料金を出せば言った通りラッシーも飲み放題! 中学時代は部活終わりに散々お世話になったんだ」
饒舌にカレーの味やらを語るタイチを見ていると、腹がぐーっと鳴った。
「お、いい具合に腹が減ってるみたいだな。すまんすまん、とっとと店の中に入るか――こんちはー店長、カレー食いにきた……ぜ……」
「ん? どうしたんだよタイチ。なんかあったの……か……」
店内を覗き込んでどうしてタイチが言葉に詰まったのか一瞬で理解出来た。
カウンター席と幾つかのテーブル席が置かれた店内、濃厚なカレーの匂いが充満する一番奥の席――
そこには見覚えのある、それはもう凄く見覚えのある冒険者育成校の制服を着た二人の女子生徒が座っていた。
「奇遇ね、安藤健司」「あら偶然ですわね、安藤さま」
何故か赤嶺さんと七海さんの二人がいた。
しかも学校では犬猿の仲に見える程だったのに、同じ席で仲良くカレーを食べている。
「何だ『
「あ、ああ。ありがとう店長」
何故かバーで働いていそうなおじさま系店長に一朗太と呼ばれたタイチはこっちに視線で意見を求めてくる。
「(おいおい、なんであの二人がいるんだよ!?)」
「(そんなこと知るかよ!? お前が鼻の下伸ばしながらこの店の場所を教えてあとかじゃないのかよ!?)」
「(んなわけあるか!? それよりもどうするんだ! さすがに同席ってのは論外だし、どこに座るのが正解だ!?)」
「(と、ともかく完全に無視するのは態度が悪すぎる。少し距離を取りながらも離れすぎないカウンター席に座るぞ!)」
そんな感じの会話を小声で行った俺達は赤嶺さんと七海さんが座っている席から少し離れた場所のカウンター席に腰を下ろした。
本当になんで二人がこの店に先にいたのかは分からないが、話しかけられたのに無視することは出来ない。
引き攣りそうになる頬を堪えつつ挨拶し返す。
「あ、ああ、さっきぶり。赤嶺さんと七海さんもここに来てたんだね……?」
「ええ、お昼はカレーが食べたくて少し歩いていたら美味しそうな匂いがするお店があったから入ったの」
……少し歩いてたらって、ここ学校からそれなりに離れてるんだけど。
「
……本当にそんな偶然あるのだろうか?
「そ、そうか偶然だな……」
いや、無いだろ。というかそんな偶然あってたまるかってんだ!!
「あ、店長! 今日のおススメってなに?」
「ん? そうだな、今日はチキンカレーが美味いぞ。良い鶏肉が手に入ったからそれを使ってるんだが、それがスパイスと上手く馴染んでくれて――」
タイチは早々に店長と話し始めて逃走を図った。
コイツ、学校の時といいキケンから逃げる能力が高すぎる……っ! その能力を羨ましく思いつつ内心で「使えない奴め!」と罵っておく。
「そ、そう言えば二人が一緒に食べてるなんて意外かも! 何か教室では少し仲悪そうに見えたから!」
言ってから自分の失態に気付く。
何でこの状況で俺はあんな事を聞いたんだ!? もしここで教室の時みたいに喧嘩でも始められたら今度は止め役の九島先生も居ないんだぞ!?
下手したらお店の迷惑になりかねない――
そんな風に戦々恐々としていたが、二人からは落ち着いた声音の返答が返って来た。
「まあ、お世辞にも仲は良くないと思うわよ。でも単純に付き合いが長いから、一緒に食事をするぐらい珍しくはないわ」
「そうですわね。仲が良いとは言えませんが、別に殺したいほど憎み合ってる訳ではありませんから。一緒に食事ぐらいなら気にしませんわ」
……もしかして何だかんだ言って仲が良いのか?
でもそんなことは口に出さない。それを言った瞬間、また喧嘩が始まるような気がしてならないからだ。
ともかく今すぐに大騒ぎにはならないようでほっと胸を撫でおろす。
さて、まあ二人がこの店にいたのは間違いなく偶然じゃないだろう。
恐らく目的は俺を自分達の所属するクランに勧誘すること。
てっきり今日はもう絡んでこないと思っていたから不意を突かれた形になってしまった。全く嬉しくないサプライズだったけどな。
店内にあの二人が座っているのを見かけたとき、心臓が止まるかと思ったぜ。
とは言え、今回みたいなことが何度もあると俺の心臓が持たない。幸いなことにここには俺とタイチと店長、そして赤嶺さんと七海さんしかいない。
いっそこの場でちゃんと二人の話を聞いて、クランへの勧誘だったらきちんと断った方がいいだろう。
そう思って学校での話の続きを促すように話しかける。
「なあ二人とも、今朝言っていた話があるって件なんだけど、この場じゃ駄目か? さすがに今日のクラスでの騒ぎみたいなのが何回もあると困るんだけど」
「まあ私は別にいいわよ」
「私も異存ありませんわ」
「じゃあ今朝話しかけてきた順番で赤嶺さんからお願いする。て言っても、赤竜への勧誘だって言っていたのは覚えてるからそれが目的ってことだよな?」
「ちゃんと覚えてたのね。じゃあ話が早いわ。その通り、私の話って言うのは安藤健司あんたをクラン『赤竜』へと勧誘して所属させることよ」
学校での騒ぎは何だったのかというぐらいスムーズに話が進んだ。
アレか? もしかして二人ともお腹空いてたのか? 腹が減っていたからあんなに機嫌が悪い感じだったのか?
あり得なくもない……
「じゃあそれに対する返答は『ノー』でお願い。少なくとも今はクランとかに所属せずに自由に冒険者をやっていたいんだ」
「別にクランに所属したとしても、あんたの自由を阻害することは無いわよ。むしろダンジョン攻略へのバックアップや、他にも色々なサポートを受けられるからむしろ得だと思うんだけど?」
「それは……そうかもしれないけど、でも俺はまだ冒険者になって半人前にも満たない初心者だ。その段階で手厚くバックアップなんてされたら、何ていうかその……駄目になる気がする。だからまずは苦労したとしても自分の力で攻略を進めていきたいんだ」
「ふ~ん……いいわね。その考え嫌いじゃないわ。でもそうやって埋もれていった冒険者なんて吐いて捨てる程いるわよ? あんたも同じ結末を辿ることになるかもしれないけどいいわけ」
「だったらその時はその時だし、その時になっても俺の気持ちが覚めて無ければ頭下げて今度はクランに所属させてくれって俺の方からお願いするかもしれないな」
「あはは! 自分の力を周囲に証明したい、でも目的の為だったら頭を下げる覚悟もあると。私も同じようなことを考えているから気持ちは分かるわ! だったら仕方ないわね。パパには私から言っておくわ!」
「そりゃどうも。それで七海さんの方も同じようにクランへの勧誘だったら答えは同じだよ。今は所属する気は無い。七海さんも『蒼海の旅人』の人なんだろ?」
「あら、そこまでご存知でしたのね、ええ仰る通り安藤さまを私達のクランへ勧誘することが話の一つでした。ですがお気持ちが揺るがないのであれば仕方ありませんわね」
「知ってたというか九島先生に聞いたんだけどな」
やっぱりそうだったか。というか思ったよりもあっさり認めたな。
七海さんはもっと条件とかを色々と付けてもっと食い下がってくるタイプかと思ってたんだけど、すぐに引き下がった。
俺の感じた限り赤嶺さんは肉体派で体育会系、七海さんは頭脳派で優等生系って印象だった。
だから赤嶺さんがさっぱりと引き下がってくれたのは納得いくけど、七海さんの場合だと少しだけ違和感があった。
そしてその違和感の正体は続く七海さんの言葉で明らかになった。
「ですので、もう一つのお話の方を致しますわ」
「そう言えばクランへの勧誘は話の一つって言ってたっけ。それで? 他の話っていうのは?」
「ええ、むしろこっちが本題です。安藤健司さま――私と結婚を前提にお付き合いを致しませんこと?」
「「「……はぁ!!?」」」
俺はもちろんのこと、話を聴いていた赤嶺さん、そして隣で聞き耳を立てていたらしいタイチまでもが大声で素っ頓狂な声を出した。
手に入れたのは最弱ステータスと《おかしな》スキルだった。スキルを理解して現代ダンジョンの最前線を突っ走る! 水戸ミト @shiryu777
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