第9話


「友紀さん!」


 僕は病院に着いた瞬間、叫んだ。


「せ、先生、どうしたんですか、そんなに急いで」


「そ、それがすごいことが…わ、分かって…それで友紀さんにすぐにでも伝えたくて…それで…急いで…」


「ちょっと、落ち着いてください! ほら、これでも飲んで」


 そう行って友紀は紙コップに注いだ麦茶を手渡してくれる。


 ふう、ちょっと落ち着いた…。


「それで? どうしたんですか」


 僕は一度深呼吸して話し始める。


「実は、結衣ちゃんのことで分かったことがあるんです


 結衣ちゃんは…いや、結衣ちゃんと呼ぶのはおかしいか。あの子は記憶喪失でもなんでもなくて、そもそも『結衣ちゃん』という名前でもないんだ」


「…えっと…それはどういうことですか?」


「ごめん、まくし立てちゃって…。

 まとめると、

 ①結衣ちゃんは1歳になる前に事故にあってそれからずっと意識不明だった。

 ②ご両親は亡くなった。だから、名前が分からないから前の病院でつけられた名前が結衣。

 ③1歳前から意識がないから記憶喪失だと思われていた。

 っていう感じ」


 しばらく友紀の目の焦点が合わなかった。

 無理もない。まさかそんなことだと思っていなかったのだろう。


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あの脳の記憶 白城香恋 @kako_00

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