これからの僕たちは

 すっかり日も沈んだ午後7時。校庭の桜の下には、懐かしい顔ぶれが集まっていた。その中から、灯は杏と悠一の姿を探した。最後に見かけた時から数年経っていたものの、杏のことはすぐに見つけられた。灯は思い切って声を掛けた。


「久しぶりだな、杏」


 振り返った杏は、一瞬驚いた様子で、すぐに微笑んだ。


「……灯? うん、久しぶりだね。元気だった?」

「ああ、元気だよ」

「……本当、久しぶりだね。こうやって話するの。悠一は、一緒じゃないの?」

「……実は全然連絡取ってないんだ」


 灯は正直に言った。


「そっか……。私も卒業してから連絡取れてないの。だから今日、2人に会えることを期待してたんだけど……。でも私は、灯に会えて嬉しいよ」

「オレも、もう一度杏とちゃんと話がしたかった」


 その時、杏の左手の薬指で何かが光った。


「杏、それって……」

「ああ、これ? ……うん、そういうこと」


 杏は左手をかざした。


「杏にも好きな人ができたんだな」


 その一言に、杏の顔が曇った。


「やっぱり、読んだんだね。私の手紙」

「……! いや、それは……」

「いいよ。なんとなくわかってたから」

「……ごめん」

「悠一も読んだんでしょ?」


 灯は静かに頷いた。


「そっか。まあ、私が読めって言ったようなものだからね。私ね、結婚した訳じゃないよ。これもただの魔除け。私の気持ちは今でも変わらないから」

「本当ごめん」

「でもね、あの頃と少しだけ変わったところもあるの」

「え……?」

「灯と悠一のことだけは、もう一度信じてみようかなって。だって、やっぱり寂しかったから。2人から告白されて、あの時は本当に戸惑ったけど、不思議と嫌じゃなかった。会わなくなってからも、私、一度も2人を忘れたことないよ。ずっと、また会いたいなって思ってた。でも、きっかけがなくて」

「杏……あのさ」

「ちょっと待った」


 灯が何か言いかけたところで、どこからか悠一が現れた。


「悠一? どこにいたんだよ」

「悪い、木の影で全部聞いてた。……杏ごめん、手紙を読もうって言ったのは俺なんだ。灯は悪くない。俺も、杏や灯とどう接したらいいかわからなくなって……」

「あのさ、杏、悠一」


 2人は一斉に灯を見た。


「オレともう一度友達になってくれないか?」

「え? ……うん、なりたい」

「ガキかよ。……けど、なるに決まってるだろ」

「ありがとう。……杏と悠一は?」

「そんなの決まってるだろ。俺たちもその……友達、だ」

「うん」


 3人は照れたように笑った。


「ねえ灯、それは?」


 杏が灯の持っている手紙を指さした。


「ああ、これは10年前の自分に宛てた手紙だ。後で埋めようと思って」

「じゃあ私も書こうかな。ね、悠一」


 杏が誘うように悠一を見る。


「わかったよ、俺も書く」

「それで、いつ掘り出すの?」


 以前のような3人の姿を、月明かりが優しく照らしている。



『 拝啓 あの日の僕たちへ

 僕らは今、3人で楽しく過ごしています。こうなるまでに、少し時間がかかってしまったけど、僕たちはもう、きっと大丈夫です。だから安心してください。この手紙を掘り出す日が来るかはわかりませんが、いつかその時が来たら、また3人でここに集まりたいと思います。これからの未来も、楽しみにしていてください。 敬具

 20××年 3月14日 杏、灯、悠一』

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拝啓あの日の僕たちへ 夏野 ヒヨ子 @pi4_pi4

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