第25話 相談と叱責。そしてふたたび

 とりあえず。

 向こうから戻ってきた俺は。

 ゲートを開き。じいちゃんの家へやって来た。


 玄関を入り。声をかける。

「おお行人。こんな時間に、どうした」

「実は。向こう側へ、行ってみた」


「そうか。とりあえず、上がれ」


 ダイニングに着き。

 いつもの席に座る。

 入れてもらった、お茶をすすりながら、話をする。

「一人には、言ったのか?」


 俺は首を横に振る。

「言っていない。先日、水希と一緒に。登校中襲われたのは。言ったよね」

「お前が、考えなしに。札を向こう側に放り込み。利用された分じゃな?」


「そうだけど。それで、向こう側は、どういう世界なんだろうと、気になって」

「それで。どうじゃった?」


「一般に言う。地獄っぽい感じ? 荒れ果てた星で、普通の人間なら。すぐ生命力が枯渇して、死ぬような世界だと。精霊がが教えてくれた。タワーがあって、その入り口から入ると。地下に、燃え盛る廃墟があって。人らしきものが、再生と消滅を繰り返していた」


「ふむ。実は、文献が少しはある。ただし、これは覗いたものが、すぐに息を引き取ったため。周りにいた者が、聞き取り。ようやく、記録したものじゃ」


 じいちゃんが、紐で綴られた。一冊の古い本を持ってきた。中を見たが、達筆すぎて読めなかった。


「中には、荒れ果てた地。曇天の空。腐った不浄な大気。息苦しく。あっという間に力が抜け、意識が保てない。この地には、来るべからず。すべての者に、徹底させよ。この地は、黄泉なり。鬼は、物の怪。生ける物では無し。と書いてある」


 それを聞き。素直に理解ができた。


「昔、あちら側に行った人も。幾人か、いたんだよね?」

「皆、帰って来ていないと、なっている」


「そうなんだ。あっそれで、帰ってくると。富士山に、出たんだけど」

「富士一帯は、地球の力が集まる地。龍脈も多い。向こう側のタワーか。それも何か、因果があるのじゃろう」



「さて行人。先日の札の件と言い。今回。一人で向こう側への潜入。ちっと、思い上がりが強すぎじゃな。確かに、お前は常人とは思えない力を得ているのは、確かじゃが。一人の人間じゃ。周りの人間を、もっと頼れ。確かに、今回わしらが居っても。向こうには渡れん。精霊の言う通り。すぐに死んでしまい、役には立つまい。それでも、長年の知識と業がある。これは、少しでも役立つかもしれん。お前を待っている。家族もいる。悲しませるなよ」

 かなり、じいちゃんには珍しい、厳しい顔でそう言われる。


「ああ。まあわかったよ」


 じいちゃん家の玄関を出て、ゲートを家の玄関に向けて開く。

「行人。絶対。人に見られるなよ」

「ああ。わかっている。それじゃあね」

 ゲートをくぐって、家へ帰る。



「現世で、空間をつなぐか。行人には、かなわんな」



「ただいま」

 そう言って、玄関を開けた瞬間。水希が飛んできた。


「どこへ、行っていたの?」

 何だろう? 背後に般若が見える。


「精霊が教えてくれたの。行人との、接続が切れたって」

「ああ。ちょっと向こう側に。行ってきた。父さんたちも、交えて話をするよ」

「危険なことは、無かったの?」

 お怒りマックスだな。美人顔だから、怒ると迫力がある。


「いやまあ。今考えなおすと。ちょっと、まずかったかなと」

「私。行人君が、居なくなっちゃうと、耐えられないかもしれない。事情は分かっているつもりだけど。すこしは、考えてくれると嬉しいな」

 そう言って、悲しそうな顔に変わる。

「ああ。ごめん」




 その後。両親を交えて、経緯と結果を説明する。


 そして。やはり、呆れられ、叱られた。


「行人。話を聞くと。どう考えても。向こう側は、黄泉だ。生きて向こうに向かうなど、無謀以外の何物でもない。力があるのは分かっているが。調子に乗ると、取り返しがつかなくなるぞ」

「ああ。じいちゃんにも。叱られた」

「そうか。まあ、力になれるか、わからんが。少しは周りを頼れ」 

「うん」

 そして、同じことを言われる。




〈なあ。あの光景と、状態をみて。考えたんだが。浄化って分かるか?〉

〈ええ。それは神様の領域。行人くんが、いま。一生懸命、抑えようとしている力〉

〈えっ??〉

〈本人が、気が付いていないのが、おかしいけれど。周りの人。反応を見ていればわかるじゃない。あの、おかしな行動をする先生とか、神気にあてられて。がくがくしていたじゃない〉


〈…………〉

〈もしかして。この力。思いっきり出すと。向こうの生き物? 浄化できたのか?〉

〈たぶんね。それに、光も乗せれば。もっと効果的だと、おもうわ〉

 早く。言ってくれよ。

〈あらっ? 聞いてくれれば。良かったのに〉


 そんなことがあった、数日後。

 とある山中。

「この場所では、行人。わしらの火は使いにくい。頼むぞ。水希さんもよろしく頼む」


「はい」

「ああ。父さん。ちょっと試したいんだけど。いい」

「なんだ。ちょっと、光に神気を乗せてみる」

「神気?」

「ああ。精霊が言うには、奴らに有効らしい」

「そうか。まあ。周りに影響がなければ、いいだろう」


「あっちに、三体固まっている。この感じだと、色付きだね」


 鬼は色付きで、シカを捕まえ。食らっていた。


「この辺りからでも、大丈夫だろう。いくよ」

 照らすイメージで光を出して。それに、神気を乗せる。こうだな。


 行人から、照射された光に照らされ。鬼たちは、霧のように。その体が消えていく。

「おお。すごいな」

「なんだか。神々しいっていうのが。ぴったりね」

「行人。金剛杵を使ってみるか? 仁王さまになれるぞ」

 にやっと笑って、父さんが。そんなことを言う。


「あれって、力を増幅する機能でも、あるのかな?」

「一応、制御の補助具。扱いかな」

「一回。使ってみるよ」


「それにしても。仁王さまって。おれ、あんなに怖い顔をしていた?」

「顔は素敵だけど。なんだか、キラキラしていて。すごかった」

「まあ。この力が、使いものになるようで、何よりだ。安心したよ。しばらくは、この力を、強化してみる」



 数年後。


「じゃあ。行ってくるよ。たぶん、すぐ帰ってくるけどね」

「ああ。くれぐれも気を付けてな」

 今回は、皆が周りに居る。


「気を付けるも何も。周り全部が毒だからね。みんな。ゲートを開くから。少し離れてね」

 みんなに見守られる中。俺は黄泉へとゲートをくぐった。

 ほどなく、黄泉と言われる地。

 惑星全体を聖なる光が広がり。包み込んでいく。


 地球側。こちらでも同時間。

 富士山を中心に、震度4程度の地震が発生。

 山体全体が、放電なのか。光に包まれる不思議な光景がみられた。

 後日、噴火の前兆だとか、ニュースが飛び交った。



「……ただいま。終わったよ」





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 とりあえず、これで行人の苦行?は終了します。

 彼は、これからも、水希と共に。異世界を楽しむようです。


 読んでくださった方々に、感謝いたします。

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僕はその力で、異世界を渡る。 久遠 れんり @recmiya

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