第24話 体の変化

 最近気になっていることがある。

 ドアノブを握りつぶすような。漫画みたいなことも。

 髪の毛が立ち上がることもないが、意識をすると力が増す。

 手元に持っている、最大100kgの握力計。振り切れた、メモリを見る。


 人間じゃ。なくなってる?

 最近、自分でそう思う。


 行人は、少し前までの。

 力の制御すら、できなかったとき。

 どこかに行って、帰って来れなくなるのが、怖いと言う意識は常にあった。

 実際には。開いたドアは、帰るまでそこにあり。

 行人は、帰ってこれていた。


 今は、意識さえすれば。

 見たところに行けるし、帰っても来れる。

 事態は好転している。だが、4つの精霊から、力を受け。

 それを抑えるための瞑想で、まさか、魂の階位が上がるとまでは、考えていなかった。


 普通に考えが及ば無いのも、仕方がないと言える状態ではあるが。

 さらに、ここへきて。

 体に変化まで、出て来ている。


 考え方によっては。

 これから行う、家業を考えれば。便利ともいえる。


 それに、この力があれば。

 もしかすると、鬼の来る。向こう側。

 なんとかできるかもしれない。と、自身の中で希望的観測をする。


「考えても、仕方ないか」


「本当なら、ランダムに開く場所を巡り。楽しく、冒険でもして暮らそうかと、考えていたのだが。そうもいかない、ようだしな」



 朝になり。

 ドアを開け。普通に水希と共に、学校へと向かう。

 途中での攻撃もなく。やはり札を利用されたものだと確信する。

 向こう側に、札を利用できる者がいるのだと確信した。


 恐縮する先生の授業を受け。

 帰り路。行人は少し回り道をして、河原にある、自然公園でたたずんでいた。

 意識を集中し、空間にゲートを開く。

 すぐに、中へ入り。空間を閉じる。


 水希には、用事があるから。先に帰れと伝えていた。


 そこは。砂と岩。

 それも、赤茶けた世界。光もあまりささず。薄暗い。

 空は、分厚い雲に覆われ。グレーだ。


 行人は、ぐるっと周りを見回し。

 遠くに、いくつかのタワーを視認した。

 その方向に、踏み出そうとしたとき。

 頭の中に、精霊からの警告が響く。


〈ねえ。ここが、どこかは知らないけれど。あまり長くいると死んじゃうわよ。ここは、生命が死に絶え。魔素のみの、歪な空間。魔素で生きれる。モンスター以外には、すごく厳しい。低位の世界みたいよ。普通の人間なら、数十分で、体中から血を噴き出して。死んじゃうわ〉

〈そうか。普通の人間が、生き残っている可能性は、なさそうだね〉

〈そうね。不可能だと思う〉

〈とりあえず。まだ耐えれそうだから、あのタワーに行ってみよう〉


 そういうと、空間をつなげ。タワー近くへ移動する。


 見るとコンクリートではなく。岩をくりぬいた感じ。

 タワーの根元に、入れるような穴が開いている。


 中へ入ると。

 上階へつながる階段と、下階に降りる。崩れかけた階段があった。

 気配を探るが。何も反応がないため、下へ降りていく。


 30分ほど下り続けると。

 開けた、崖の上に出た。

 確かに、地下に降りたはずなのに。

 目の前には、大きなドーム状の空間が広がり。

 壁に、階段は彫り込まれ、続いていた。


 下を覗くと、燃え盛る超高度文明と思える建物が建っている。

 部分的に、何か攻撃を受けたような跡がある。

 距離が遠いため、不明瞭だが。

 よく見ると、黒焦げの人のようなものが点在して、蠢いている。


 それは、しばらくすると消え。

 また、どこからか現れる。するとまた。同じところに倒れこみ。燃え始める。


 行人はそれを眺めながら、もう一度。ドーム全体を俯瞰する。

〈なあ。此処って、地獄かな?〉

〈その、地獄というのは不明です。ですが、先ほども言った通り。生物が生きて行ける。環境では、ありませんね〉



 行人は、先日襲われたのを実は気にしていた。

 水希も、同時に危害を加えられそうになった。

 原因は、自分が深く考えず。放り込んだ札。


 そのことを考え、来るなら。

 奴ら鬼を、先に退治しようと乗り込んできた。

 しかし目の前の光景を見て、もしかすると退治しても。

 また、こちら側の世界で、甦るのではないかと。今は思っている。


 今。見ているのは、たぶんどこかであった、戦争の記録。

 それをひたすら、繰り返しているように見える。

 鬼たちもまた。死んでは、黄泉がえりを。

 ひたすら、繰り返しているように思える。


 そもそも、一人で乗り込んできているのが。

 自分の過信で、無謀な事なのに。

 そこは、思いいたっていない行人。

 さすがに、眼前の世界に。攻撃を与えるようなことはせず。

 帰ることを、選択した。


 これは手に負えない。

 じいちゃんにでも、情報を伝え相談しよう。


 踵を返し。また階段を上り。地上? に出る。


 よくみると、いくつもの塔があり。

 その根元に、入口がある。


「うーん、あの下。全部に、あんな地獄が繰り返されているのか?」


 とりあえず、帰ろう。

 空間を開くため、力を籠める。うーん。げっ開かない。


 そう言えば、じいちゃんが言っていた。

 先人たちが、鬼を封じるため。結界を張っていると。

 そういえば、そんなことを言っていたよな。

 こちらからは、開きにくいのか?


 無理に力を籠めれば開きそうだが。

 もし結界を張っているなら。

 それを壊すことはできない。

 注意しながら、力を込め。ゲートが少し開いたところで、あわてて、体を滑り込ますように飛び込む。


 深呼吸をして。肺に残った、妙な向こう側の空気を。入れ替える。


 はあ、苦しかった。


 ちょっと落ち着き。周りを見る。ここ何処?


 その場で、くるっと回り。目の前にでかい山が目に入る。

 富士山だ。


 行人は、そっと目の前に。ゲートを開いた。

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