確かめる二人

「おい! やっぱりお前じゃないか」

 先頭に立っているのは親父だった。

「てことは後ろにいるのが……」

 親父の両脇には村の男たちがいる。さも恐ろしいと言わんばかりに手で顔を覆った隙間からちらちらとフウコを見ている。


「親父、これは……」

「何か変な告げ口でもされたんだろう? 早くソレから離れろ! 始末は我々がする」

「始末ってそんな」

 オレは親父と村人たちの手に棍棒が握られているのを見た。唾をごくりと飲む。振り返るとフウコが手を地についたまま項垂れている。


「なんで」

 オレはなんとか言葉を繋いだ。

「なんで始末されなきゃならないんだよ」

オレの言葉に村人たちは顔を見合わせ始めた。

「コイツは普通の子だ。何が禁忌なんだ?」

 

「ソイツは――!」

 親父が目を見開いた。村人も後退りし始めた。

「なんだ?」

「来るぞ!」

 何をと思っていると、暴風が吹き荒れた。柵がめくり上がり、親父村人共々マグロ40匹分ふっとばされた。

 



「ああ」

振り返るとフウコが鼻水をすすっている。そうか。これが彼女が禁忌な理由――。これだけで、これだけで。

 「気持ち悪いよね」

 フウコの目がじっとオレを捉えた。海に映った月みたいだ。オレはじっくりとその目を見つめた。彼女に感じる気持ちはむしろ逆だ。


「気持ち悪くない」

「くしゃみしたら風が吹くんだよ。みんなが住むお家も、みんなが一生懸命耕したお家も、全部吹き飛んじゃうんだよ?」

 フウコはしゃくり上げ始めた。

「もう嫌……パパとママには会えなかったし、村の人には迷惑かけちゃうし、私なんて2人と一緒に海の底に沈んだらいいんだ!」

 

「やめろよ!」

 気づけば大声を出していた。熱が体中を駆け巡っていた。フウコがそっと顔を上げた。

「悪いのはオレたちだろ! くしゃみが大きいからってだけで親を海に沈めて小さい娘を島に幽閉するなんて! みんなが言ってる噂なんて嘘ばっかりだった! どれだけ一緒にいても穢れが移ることなんてないし」

 パッと彼女の腕を掴んだ。フウコの細い目が見開かれた。

「触れても痛くも痒くもない」

 フウコの顔がほのかに赤くなった。オレの顔も熱くなってきた。明らかに心臓が高鳴ってきている。

 

「さあ逃げよう。死んじゃダメだ」

 遠くの方に目をやった。村人たちが次々と立ち上がっているのが見える。

 彼女はうんと頷き、オレの腕の助けを借りて立ち上がった。そのまま駆け出そうとしたら強く腕を引っ張られた。

 「なんでトオルだけ助けてくれるの?」

聞いてほしいような欲しくないような質問にドキッとした。でも答えは言うべきだ。

「一緒に生きたいからだよ」

 彼女の顔がぱあっと明るくなって笑顔になった。涙が混じったしわくちゃの笑顔に。

「私も! トオルと一緒に生きたい!」

オレは胸を貫かれた感じがした。

「さあ行こう!」

村人たちが憤怒の形相で迫ってくる。オレとフウコは一目散に走った。ひたすら、ひたすら走った。

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ボーイ・ミーツ・アーッチューガール ケーエス @ks_bazz

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