『深海』のような空気感の中で味わう温かな人間模様と隠された真実に期待!
- ★★ Very Good!!
玄海島という小さな島に住む海洋恐怖症の少女が主人公の物語。周囲を海に囲まれた島で暮らしながら、海に対する恐怖を持つ主人公。そのため、海に近づくことが出来ず、生まれてこの方船に乗ったことすらない。
そんな彼女は、ある日、一緒に暮らす祖母と島の住民が口にする“光さん”という人物に興味を持つようになる。それは、過去のとある出来事に関係している人物らしい。いつか祖母に聞いてみようか。そう主人公が思っていた折、祖母が病床に臥し、島外の病院に運ばれてしまう。
“光さん”のこともあり見舞いに訪れたい主人公だが、島を出るためには海を渡らなければならない。親友であり、姉貴分でもある少女・鈴に励まされながらも、海に対する恐怖からなかなか踏み出せない。果たして主人公はどのような決断をするのか。そして、光さんとは誰なのか。その真実を知った時、主人公は島の過去、何より自身の過去を知ることになる――。
独特のリズムと丁寧な描写で描かれるのは、絶海の孤島に暮らす人々の人間模様です。『海』と聞くと、きらめく水面に活気づく港など明るい印象を抱くことが多いのですが、主人公が海洋恐怖症である本作は真反対。深く、暗く、おぞましい未知の場所として描かれています。爽やかさは無く、静かで、だけどどこか惹かれてしまう。まるで『深海』のような雰囲気が物語全体を包んでいて、本作ならではの空気感を出しているように感じます。
そんな空気感の中で描かれる人間模様は、人々の息遣いが聞こえてきそうなほどにありのままで、飾られていない。各所の丁寧な描写のおかげでそれぞれに想いや思惑があるのだと実感でき、1人の「人」としてそこにいる。もちろん主人公も“生きて”いて、祖母を見舞いに行きたい、会って光さんのこと、過去の出来事を聞きたい。でも、海が怖いと葛藤する姿はまさに等身大の人間そのものではないでしょうか。
ともすれば暗く落ち込みそうな物語なのですが、主人公の親友であり姉貴分の少女の存在や登場人物たちが話す方言が良い温かみとなって、物語の空気感を絶妙な塩梅に保ってくれる。そのおかげで心理的な読みにくさも無く、するりと読むことが出来てしまいます。自然、引き込まれてしまって、私自身も光さんのことや主人公が海洋恐怖症に至った経緯、『17年前の出来事』への興味が尽きません。現在公開されている最新話(5話目)時点で祖母が主人公に向けて放つ一言は、もう……。
まだ物語は始まったばかり。ここから“光さん”の話をきっかけに、主人公が知らない過去の謎が明かされていきそうです。なぜ主人公は海洋恐怖症なのか。なぜ祖母と暮らし、両親が居ないのか。祖母が言った言葉の意味とは……。これから明かされるだろう多くの真実への期待と、何より、不思議と惹かれてしまう本作ならではの雰囲気への評価を込めたレビューです。