神通力尾の事件ファイル4「犯行動機の謎事件」
恵武警部が絶望した2日後、営業開始の午前9時ちょうどに神通力尾探偵事務所のドアが開いた。
「こんにちは」
神通力尾は驚いた。アポなしの客だったこともあるが、そこに立っていたのが館員太郎だったからである。
「ど、どうしてここへ。勾留されていたのでは」
「昨晩、不起訴処分となって釈放されたんだ。超能力を使った犯罪なんて立証できないからね」
館員太郎は応接セットのソファに座ると不敵な眼差しで神通力尾を見つめた。
「それで、今日はどのようなご用件でここへ来たのですか」
「君、知りたくないのか。どうしてオレがこんな事件を起こしたのか。超能力を使ってお宝をイースター島に運び、何の証拠もないのに自白して逮捕されるなんて不自然すぎるじゃないか。君なら精神感応でオレの心を読み取ることも可能だろう」
「終わった事件に興味はありません。それに私は他人のためだけに能力を使うと決めているのです」
神通力尾は不機嫌だった。ソファに座ろうともせずデスクに腰掛けたままだ。ミス・シッディもお茶を出そうかどうか困り顔をしている。
「そうか。ではオレの犯行動機を突き止めてほしいと依頼を出すよ。つまり客だ。それなら能力を使えるだろう」
「料金は30万円です。よろしいのですか」
「いいよ」
「わかりました、引き受けましょう。はああ~、カッ!」
神通力尾は大声を上げて立ち上がっただけで、右拳を突き上げて虚空を睨み付けるまでもなくすぐ結果が出た。
「なんたるふざけた動機! 私と遊びたかった、それだけのためにこんな大騒動を引き起こしたとは。恥を知りなさい」
「言ってくれるねえ。オレと同じ能力を持った男がどんなヤツか知りたくなった、それがそんなに悪いことかい」
「もっと別の方法があるでしょう。そんなくだらないことのために、能力を、ふわあ」
言い終わる前に簡易ベッドに倒れ込んだ神通力尾は眠ってしまった。しかし館員太郎との話は続いた。夢の中にまで追いかけてきたからだ。
「私の夢に入り込むとは、なんと迷惑な」
「まあそう言うなよ。今回のことで君の能力はだいたいわかった。能力の種類も威力もオレより勝っているのは間違いないようだ。ただ連続で使用できないのは大きな欠点だな」
「余計なお世話です」
「それにしても勿体ない話だ。こんな探偵ごっこに力を無駄遣いしているんだから」
「私の人生は私が決めます。それに勿体ないのはあなたも同じでしょう。人を騒がすことに能力を使っているのですから」
「オレの人生もオレが決めるよ。君は探偵、俺は盗人。道は違えど己の信念に基づいて行動しているのは同じだ。これからもちょくちょく顔を合わせることになるだろう。よろしく頼むぜ」
館員太郎は夢の中から消えた。同時に現実の館員太郎も消えた。超能力を使って他の場所へ移動したのだ。
「あら、これは」
ミス・シッディはテーブルの上に置かれた小切手に気が付いた。額面は60万円。
「やはりあの人、最初にいらっしゃった館員花子さんと同一人物だったのね。変装がお上手だこと」
無事に依頼料を回収でき、嬉しさに顔が綻ぶミス・シッディであった。
超能力探偵、神通力尾 沢田和早 @123456789
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