きたない口ぐせの男の子とちいさな声の女の子
品画十帆
きたない口ぐせの男の子とちいさな声の女の子
「くそったれ」
しょうたくんは、ときどき、この言葉を言います。
汚いない言葉ですね。
使わないほうが、いいですね。
お友だちと、お話しているときも、ときどき言います。
しょうたくんの口ぐせなので、みんなは、気にしていないようでした。
あるとき、クラスの中心の子たちが、しょうたくんに言いました。
「汚い言葉を言う君とはもう遊ばないよ」「お話しもしないよ」
みんなも、しょうたくんとは、遊ばなくなりました。
しょうたくんが、「遊ぼうよ」と言っても、みんなは聞こえないふりです。
しょうたくんのお母さんは、いません。
お父さんは、工事のお仕事をしています。
いつも、お日様にあたって、まっ黒まっくろに、日焼けしています。
ガハハと大きな声で、よく笑います。
でも、ときどき「くそったれ」と言います。
おとななのに、良くないですね。
しょうたくんと、お父さんは、ごはんを食べるとき、ふたりで、アハハ、ガハハと笑って、お話します。
お父さんは、お話しのなかで、ときどき「くそったれ」と言います。
仲が良い人を呼ぶときや、大変だった仕事のお話しを、するときです。
ときどき、口から、ごはんつぶが、飛んでいます。
おぎょうぎが悪いですね。
汚いですね。
しょうたくんが、布団に入って眠る前にも、お父さんは洗濯をしながら「くそったれ」というときがあります。
その次の日のお父さんは、ガハハと大きな声でよく笑います。
しょうたくんが、布団から出ようとする前にも、お父さんは台所で「くそったれ」というときがあります。
その日のお父さんは、ガハハと大きな声でよく笑います。
汚い言葉を言いすぎです。
しょうたくんに、汚い言葉が移ってしまいました。
あいちゃんが、久ぶりに、登校してきました。
病気で、長くお休みを、していたのです。
良かったですね。
担任の先生は、「みんな、仲良くしてあげてくださいね」と言いました。
みんなは、「わかりました」と、良いお返事をしました。
みんなは、「あいちゃん、良かったね」「元気になって、良かったね」と言いながら、話かけました。
あいちゃんは、みんなの方ではなく、机を見ながら、聞こえないぐらいの小さな声で、「ありがとう」と言いました。
みんなが一度に話かけるので、あいちゃんの小さな声は、聞こえないようです。
みんなは、あいちゃんに「聞こえないよ」「聞こえないよ」と言いました。
あいちゃんは、ずっと机を見て、何も言いません。
「先生、あいちゃんが、お返事しません」と、クラスの中心の子たちが、言いました。
先生は、「あいさんは、久ぶりに学校へ来たから、つかれたのよ。きっと、明日になったら、元気になるわ」と言いました。
つぎの日、みんなは、あいちゃんに「おはよう」「おはよう」と、朝のあいさつをしました。
あいちゃんは、みんなの方ではなく、机を見ながら、小さな声で、「おはよう」といいました。
みんなが一度に、あいさつするので、あいちゃんの小さな声は、聞こえないようです。
みんなは、あいちゃんに「聞こえないよ」「聞こえないよ」と言いました。
あいちゃんは、ずっとつくえをみて、何も言いません。
「先生、あいちゃんが、あいさつしません」と、クラスの中心の子たちが、言いました。
先生は、「あいさん、どうしたのかしら。困ったわね」と言いました。
先生は、あいちゃんのお家に、電話をしました。
次の日から、あいちゃんは、ずっと机を見たままです。
顔を上げることは、無くなりました。
みんなは、あいちゃんにあいさつを、しなくなりました。
先生は、顔を上げないあいちゃんを見て、ためいきをつきました。
今日も、あいちゃんは、ずっと机を見たままです。
急に、しょうたくんが、「くそったれ」と言って、あいちゃんのそばに来ました。
あいちゃんは、びっくりして、おもわずしょうたくんの、顔を見ました。
しょうたくんは、「おはよう」と、あいちゃんに言いました。
あいちゃんは、しょうたくんの、顔を見たまま、じっとしています。
次の日も、その次の日も、しょうたくんが、「くそったれ」と言って、あいちゃんのそばに行きます。
しょうたくんは、「おはよう」と、あいちゃんに言いました。
あいちゃんは、怖いのでしょうか、しょうたくんの、顔を見たまま、じっとしています。
十日続けて、しょうたくんは、「くそったれ」と言って、あいちゃんのそばに行きます。
しょうたくんは、「おはよう」と、あいちゃんに言います。
あいちゃんは、しょうたくんの、顔を見たまま、小さな小さな声で、「おはよう」って言いました。
しょうたくんは、少し笑顔になりました。
小さな声なので、みんなには、聞こえなかったようです。
「先生、しょうたくんが、「くそったれ」と言ってあいちゃんを、いじめています」と、クラスの中心の子たちが、言いました。
先生は、「しょうたさん、どうして、あいさんをいじめるの。なぜ可哀そうなことをするのですか」と、おこりました。
しょうたくんは、いすに座ったまま、だまっています。
先生は、「しょうたさん、だまっていないで、あいさんにあやまりなさい」と、もっとおこって言います。
しょうたくんは、だまったままです。
少したってから、あいちゃんが、小さな声で、「くそったれ」と言いました。
小さな声ですが、静かだったので、先生にも、みんなにも、しょうたくんにも、良く聞こえました。
先生と、みんなは、びっくりして、あいちゃんを見ました。
あいちゃんは、机から目をはなし、顔を上げています。
あいちゃんを見ている、しょうたくんは、嬉しそうでした。
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