第2話

 彼の後姿を見送った私は、ショッピングモール内を回り、目的のものを買い込んでいった。

店を出ると、また雨が降っていた。

帰宅した私は彼にメールを送った。

責める言葉が、つぎからつぎにあふれてくる。

けれどわたしは、そのたびに(冷静に。冷静に)と思い返し、何度も文章を打ち直した。

そして、やっとメールの文章を打ち終え、彼に送った。

『お話ししたいことがあります。今夜、ウチに来てくださいませんか』

しばらくして彼からの返信があった。

『今夜八時に』

たったひとことの、そっけないメールだった。

 

 私は部屋に飾ってあったテルテル坊主たちを、すべて段ボール箱に詰めて、押入れにしまいこんだ。

たったひとつ。

ずっと話し相手だった、一番最初にもらった小さいぬいぐるみだけ残して。

 

 八時を少し回ったころ彼が来た。

「あがって」

部屋に入った彼は、部屋中にあったテルテル坊主たちがいないのが不思議そうだった。

けれど、それをおくびにもださずにソファの定位置に座った。

コーヒーを淹れ、彼好みのカフェオレを作ってテーブルに置き、向かい側に座る。

 

 「……昼間の人、きれいな人だね」

「キミには悪いと思ったが…」

「うん。もう、ここには来てくれないんだよね」

「ああ。今夜も、言わずに来ている。理由、聞かないんだな」

彼がカフェオレをひとくち飲む。

「わかってる……テルテル坊主集める女なんて気持ち悪いよね。だから終わりにする。テルテル坊主を集めるのも、あなたとも」

「すまない」

彼は、カップに残ったカフェオレを一気に飲み干す。

 

 無言の時間が過ぎていく。

ふと彼が右手をあげ、こめかみをおさえながら頭を左右に振った。

そしてそのままずるずると、ソファの背もたれに寄りかかる姿勢になった。

「眠ったわね。飲みなれないと、こんなに効くのね」

───私は彼のカフェオレに、もらっていた安定剤を溶かしたのだ。

私は立ち上がって隣の部屋に行き、昼間買っておいたダブルベッド用のシーツを取って、戻ってきた。

彼の頭の上からシーツをかぶせる。

彼の体を、すっぽりとシーツで覆う。

そしてあごの下あたりに、片方の端にフックを結びつけた状態で用意しておいた太いロープを三重にまきつけて結び、フックをつけた端を長く残して、天井の太い梁をまたがせて、下におろした。

おろしたロープの先を持ち、全体重をかけて引っ張る。

そしてフックの先を、廊下の向こう側の金属製の窓枠にひっかけて固定した。

ぶらぶらと揺れる“彼”だったテルテル坊主。

 

 私はぬいぐるみに話しかける。

「これだけ大きかったら、しばらく大丈夫だよね」

 

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テルテル坊主 奈那美 @mike7691

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