テルテル坊主

奈那美

第1話

アメノヒハ、キライ

ツライコトヲオモイダスカラ。

 

 大好きだった、たった一人の家族…両親が事故で死んでから私を育ててくれた、おばあちゃんが死んでしまった。

お葬式は『遠い親戚』という人達が来て済ませてくれた。

遠い親戚───いわゆる他人みたいなもの。

高校を卒業して就職して、これからおばあちゃんに恩返ししようと思ってたのに。

「これから、どうしよう」

住んでた家はおばあちゃんの家だから、作りは古いけれど住むところには困らない。

仕事しているから食べることもできる。

でも、ひとりぼっち。

天涯孤独ってやつ。

 

 ほんとだったら“シジュウクニチ”とかいう法事を済ませてからするらしいけれど、仕事もあるしと納骨まですませた。

親戚は、手を煩わさなくていいとホッとしているようだった。

お墓から家までの道を歩いていると、急に雨が降りだした。

「サイアク…予報じゃ降るなんて、言ってなかったのに」

おばあちゃんが元気だった時は、急に雨に降られても電話をかけたら傘を持って迎えに来てくれたのに……もうおばあちゃんはいない。

悲しさがこみあげてきて涙があふれてきた。

涙と雨で顔じゅうぐちゃぐちゃにして歩いていたら、ふと降りかかる雨粒が消えた。

 

(?)

 見上げると黒い大きな傘が、頭上に広がっていた。

傘の持ち主は年上の、オジサンとまではいかない男性。

「あ……」

「びしょぬれじゃ風邪ひくよ。この傘、使ったらいい」

「いえ。すぐそこなんで、いいです」

見知らぬ人に声をかけられてうろたえた私はあわてて走り出そうとし……転んでしまった。

痛いのと恥ずかしいのとで、立ち上がれない。

その人はゆっくりと近づき手を貸して立たせてくれた。

そして家まで送ってくれた。

どちらから言いだしたのだろう。

その日は家に入らないまま、ふたりでお茶を飲みに行った。

そのあと何度かデートして、私は彼とつきあうようになっていた。

 

 『心に雨が降った時は、テルテル坊主を作るといい』

つきあってしばらくたった頃、私が泣いていた理由を明かした時に、彼はそう言ってちいさなテルテル坊主のキーホルダーをくれた。

小さなキーホルダーは、私の心のよりどころとなった。

でもしばらくたつと、小さなそのひとつだけでは心が晴れなくなっていた。

私は彼に小さなくまのぬいぐるみをねだって、ポンチョのような服を着せてテルテル坊主の代わりにした。

そして泣きたいときは、ぬいぐるみにむかって話しかけるようになっていた。

数週間が過ぎ、また寂しくなった私は前のより大きめのぬいぐるみをねだって、それもテルテル坊主にした。

数週間おきにぬいぐるみは増えていき、反比例するように彼とのデートの回数は減っていった。 

彼は【大量のぬいぐるみのテルテル坊主】が気持ち悪いからと、ウチに来ることを拒むようになり、外で会っても会話も途切れがちな、気まずい時間を過ごすだけになっていた。

 

 彼に会いたいのに会えない。

眠れない日が続く───私は医者にかかり安定剤を処方してもらうようになっていた。

そんなある日、一か月ぶりのデートの約束を『仕事だから』とドタキャンされた私は、気晴らしのためにショッピングモールに出かけた。

 

 久しぶりの人ごみに気持ちが悪くなって、フードコートで休んでいた私の目に飛び込んできたのは、『仕事』のはずの彼と手をつないで仲良さげに歩く女性の姿だった。

……彼は私の姿を認めたはずなのに、気づかないふりでそのまま去っていった。

 

 

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