図書館

言葉×   (ことばかける)

序章

 ここには、世界のすべてがそろっている。

 その建物はどこまでも真直ぐにそびえ、空を覆いつくさんとするばかりの広さである。

 少年は画集でしか見たことのないそれに、ある種の恐ろしささえ覚えた。

 一体、どれほどの人々がどれほどの年月をかけてこれを作り上げたのか。建物の中にあるものよりも、少年の心を引き込んだのはそれの歴史であった。

 誰もが学ぶことである。およそ600年前、戦争によってそれが全焼した時に、それの歴史を示す資料も同じく失われてしまったと。多くの学者がそれの失われた歴史を救い出さんと資料をひっくり返したが、やはり何も見つかりはしなかったのだ。

 (残っていないはすがない)

 少年は確信している。これほどのものをつくるには、生半端な意志ではかなうはずがない。つくりあげるほどの意志が、たかが惨禍の炎で跡形も残らずに消え去るはずがない。横断歩道ができるよりも、信号機ができるよりも、地下道ができるよりも、駅ができるよりも、空の航路ができるよりもはるか昔から、脈々と受け継がれてきた何かが、どこかに必ずある。

(僕が見つける。彼らの意志を復元する。ここにはなくても、どこかに残っているはずなんだ)

 少年は再び、偉大なる建造物の館銘板に目をやる。

 図書館。

 (としょかん)

 ここには、世界の図書のすべてがある。知のすべてがある。どこを探してもこれほどの規模の知の殿堂は存在しない。そんな偉大なる場に、自分のような子どもごときが入っていってもいいのか。果たして、自分にそこにあるものを使いこなすことができるのか。

 炎天に道路は焼かれ、人々は潤いを欲している。ある者にとっての潤いは水であり、ある者にとっては金であり、ある者にとっては賭け事であり、ある者にとっては名声であり、ある者にとっては神である。

 では、彼にとっては。

 (それを今から見つけに行くのだ)


さぁ、少年よ。求め、溺れてくるがいい。それは我らがためにあるのだ。

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