知らない街
もう何もかもどうでもよくなった。
私はひとり、電車を乗り継いでとある駅へ向かう。
来たことではない街ではないが、私にとってはあまりなじみもなく、また興味もない街。
彼は、この駅の交番に勤めている。
付き合って6年、彼と結婚するものと思っていた。
「お前と結婚する未来がどうしても見えない」
彼に不満がないわけではなかった。仕事柄、一般の会社員である私とは休みが合わない。彼のシフトにあわせて私が休みを取るのが常だったし、かといって私も休んでばかりもいられず、会えるのはせいぜい月に1回。それでも彼は私のことを愛してくれていると思えていたから、ここまで長く付き合ってこられた。
仕事もうまく行っていない。うず高く積みあがる仕事から離れたい一心だったが、彼から愛されていると思うことで、なんとかここまで凌いできた。
彼に何があったのかはわからない。ただ、おそらく別にめぼしい女ができたのであろう。メッセージのやり取りもぱたりと止まってしまった。
三十をとうに超えた私には、次の彼氏が見つかるはずもない。
改札を出て、駅前の交番を覗き込む。彼が同僚と談笑しているのが見えた。
今から地獄のような景色を見ることになるとは思いもよらないであろう、そんな笑みを頬に浮かべて。
踵を返して、再び駅へ向かうことにした。
おちおちしていると、特急が通過していってしまう。
ホームの端に来た。もう思い残すことはない。彼が私にくれた鞄と腕時計をホーム上に置いた。あと10分としないうちに、通報を受けて駆け付けた彼は、きっと私の姿を見なくとも、何があったかを一瞬で悟るだろう。
「今までありがとう。幸せになってください」
そうメッセージを投げた。すぐに既読はつかない。
通過放送が流れる。特急列車が走ってくるのが見えた。
次に生まれ変わった先では、幸せになれると良いな。
劈く悲鳴と警笛の音に続いて、強い風圧を感じた。
結局ぜんぶ、ひとりよがり。 ほりかわ しおり @hinat
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