もう恋なんてしない

 ―—という感情は皆が持ったことがあるのだと思う。だからこそこの曲が流行ったのだろう。


 初めての彼は、考えられる限りの罵詈雑言をわたしに吐いて去って行った。確かにわたしにも落ち度はあった。彼が見ていた夢に、ついていくことができなかった。少しの否定もした。

 でも、わたしは彼好みの、彼にふさわしい彼女になるために、少なからぬ努力をした。髪を伸ばした。苦手なネイルだってした。しっかりメイクだってした。彼のわがままもできるだけ聞いた。


 それなのに、なのに。こんなことってあるの。

 三日三晩、涙が枯れることはなかった。


 あれからもう7年、わたしはそれなりの会社に就職をして、順調に出世街道を進んでいる。でも、恋愛はできていない。

 あのときつけられた傷そのものはもう消えている。恋はしたい。だが、「次は自分がそうやって相手を傷つける側になるのかもしれない」と考えると、怖くなってしまう。


 わたしに言い寄ってくれる人はいっぱいいた。会社の先輩、友達や親戚が紹介してくれた人。何回かデートをして、告白をしてくれた人だっていた。いい人だなと思っても、一定以上の関係になることができない。ここぞという場面で臆病な自分が出て、結果的にチャンスが逃げていく。


 日曜日の夜、渋谷のスクランブル交差点。センター街へ向かうカップルとすれ違うように、一人駅に向かう。大学の先輩からのLINEの通知を消して、ひとり、山手線に消えることにした。

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