第5話

 そんなある日。

 私は遠洋漁業の人たちに捕まってしまった。

 船に引き上げられ、毛利さんともはぐれてしまった。

 網から抜け出そうとどんなにもがいても、体中を血塗れにして抗っても、一向に網からは抜け出せなかった。

 私を引き上げた人たちは驚いていた。

「人間が引っ掛かってしまった……」

 一番年長の人がポツリと言葉を落とし、やっとのことで私を網から引っ張り出してくれた。

「すまん。この海域で泳いでいるなんて、あんた凄いね。海の中はサメや海蛇やとにかく危険なんだよ。どこからの船から落ちたのかい?」

 親切な年長の人は私の涙を気にせずに、何故泣いているのかも聞かずに私を日本まで送ってくれるそうだ。

「日本に戻れば元気になるから」

 と、年長な人は私を慰めた。

「何もかも終わったんだよ」

 年長の人は急に意味深な顔になった。 

 まるで、何もかも知っているような顔だった。


 涙が溢れ、そして、流れた。


 胸も苦しくなってきた私は日本に帰ることになった。

 もう毛利さんとは会えない。

 淡水魚の姿にもなれない。

 毛利さんは中国へ行ったのだろうか?

 それとも、日本のどこかでビールを飲みに戻ったのだろうか?

 今でも海で淡水魚になっている毛利さんは本当の自由を得るのだろうか?

 きっと、世界各国を泳いでいるのだろう。


これが、私の高校生活最後の思い出だった。

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泡と淡水魚 主道 学 @etoo

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