第4話

 スカイブルーの水面下の白い砂が見える。

 サンゴ礁は所々、綺麗に咲いていた。

 おいで、おいで、と波打って。

 カラフルな魚が私たちの周りを泳ぎ回る。

 私と毛利君は苦も無く泳いでいた。

 ここには自由がある。

 山の川でも自由があったかも知れない。

 けれども、由比は海に私を帰したかったのだろう。

 私は自由になりたかった。

 窮屈かあるいは何もないあの世に行くよりも、自然に帰りたかった。

 願い?

 そうなのかは、私はわからない。

 ただ、私はいつの間にか家で飼っていた淡水魚の姿になっていたのだろう。

 

 小魚が私と毛利君の間を駆け巡った。

 大きなタコがこちらを見ていた。

「なあ、いっそ中国まで行かないか? それから、世界を泳いで最後に日本へ帰るんだ。きっと、楽しいぞ。でも、なんか凄いよな俺たち」

 毛利さんは魚たちと泳げて楽しそうだ。

 毛利君も自由になりたかったのだろう。

「私はいつまでも沖縄の海で泳いでいたい。でも、妹が心配なだけなのかも知れない」

「それじゃ、自由じゃないぜ」

「毛利さんはここではビールが飲めない。だから、自由じゃないかも知れない」

 毛利さんは笑った。

「俺も、実は死んだんだ。友達と高級車で遊んでいる時にガードレールを突き破って。そしたら、血塗れだけど生きていた友達の一人が俺を見て淡水魚だと言っていた。不思議だった」

 

 サンゴ礁の周りをぐるぐるとまわったり、水面上を通った船を見つめた。

 船が通ると真っ二つの気泡と波が私たちを歓迎した。

 人間に戻る?

 本当にそんなことが出来るのだろうか?

 でも、人間は自由じゃない。

 死んだあとも自由じゃないのは我慢できないけれど、人間は自由じゃないのは当然のこと。

 生きていた時はそれが普通だった。

 けど、死んでしまったら……。

 自由の素晴らしさを得られるのではないだろうか。


 きっと、毛利さんもそう考えているはず。

 高校生活はつまらなくて、大学に行っても、社会人になっても、自由は得られない。

 あの世も自由じゃない。 

 だから、神様は私たちを淡水魚の姿にしたのだと思う。

 願いがいつの間にか叶っていた。

 死んだ後は、皆勝手にしろとも言っているのようにも捉えられるけど……。

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