第5話 告白
「今年は海に行きたいなー、プールもいいんだけど」
7月に突入したある日の放課後に俺達、沢田を除いた3人でいつもと同じように他愛もない雑談を広げていた。
「まぁ行くとしたら今年だよなぁ、来年になったら受験とか就活とかで忙しくなるだろうし」
「そだね〜。あとは貴志の部活に合わせよっか。あれ、バスケ部って合宿とかあったっけ?」
「ん〜ん、確か8月後半とか言ってたよ。沢田くんがこの前、話してて去年と同じならって言ってたからさ」
「アイツの勘は当てにならない。でもまぁとりあえず、アイツの合宿に合わせてからでもいいか」
本田も一応、部活動には参加しているがそこまで力を入れている訳でなく合宿等もない。
文化系が活躍するタイミングは、大体秋頃の文化祭からだ。だからこそ、夏休みはほとんど勉強や遊びで消化されるだろう。
「ところで貴志の行きたいところとか聞いてる?私聞きそびれちゃった」
「私も」
「グループがあるからそこで話せばいいでしょ。わざわざ直接聞かなくても」
個人的に沢田は1番忙しい気がして本人に直接言う気にはなれなかった。
3年生が引退して2年生主体となった今、チームの点取り屋として巨体を動かしている彼は、日々部活が終わると家に帰り次第疲れ果てて寝ているらしい。そんな彼の事情を聞くと、ふとしたタイミングでスマホを見てくれればいいと思っている。
授業中でも眠たそうな表情をしている彼だ、碌に寝れていないだろう。
「確かにね〜まぁ、バスケ部の方も少しは休めるでしょ」
⭐︎⭐︎⭐︎
「お、裕介じゃん。どうしたの?もう放課後の時間だけど」
雑談が終わると、本田と綾瀬はカフェに行く約束をしていたらしく、夏休みの計画を話終えた後すぐに教室を出ていった。
俺自身も帰ろうか思っていたが、なんとなく今帰ってしまうのは寂しく感じ図書室で普段全く本読まないのに立ち寄り眺めていた。
そして、気付けば部活動が終了する午後6時。
最終下校の放送が流れて、続々と帰路に立つ生徒の中、自販機で買った炭酸水を片手に夕暮れに照らされる校舎を見ていると、エナメルバックを持った沢田に声をかけられた。
「沢田は部活終わりか?今日は残らないのな、普段自主練しているって言ってたのに」
「今日は良い形で練習出来たから良いんだよ。
普段はさ、なんかしっくりこないからシュート練なりドリブルの練習とかするけどね」
「俺も買っていい?」なんて言いながら購入ボタンを押す。買ったのは同じく炭酸系だが彼はメロンソーダだろう。
蓋を開けて乾いた喉を潤すかのように一気に飲み干した。ペットボトルの残りは一気に半分ほどになっている。
「ん〜、なぁ予定ないならもう帰ろうや。
俺もうクタクタだし、こんな所にいたらいつの間にか寝てるわ」
「そしたら絶対に風邪ひくな…帰り飯でもどう?」
「いいね〜、牛丼行こう!」
たわいもない話をしながら駅の繁華街まで歩く。
夕方であるからか、人の数も多く学生にサラリーマンと上り下りの歩道はそれぞれの方向へ歩いている。
そんな中で俺たちも今日の出来事を話して駅まで歩く。
「部活で監督が厳しすぎた」
「夏休みどこに行くか」
「本田と綾瀬は付き合っているかのように仲が良い」
「今度の英語の小テスト、追試がある」
など今日あった出来事を互いに確認し合うように話し合っていた。
「海かプールねぇ〜、迷うなぁ」
「俺はどっちでもいいんだけど、2人の水着見れればいいや」
「沢田…お前ってさ……」
コイツがいなくてよかった。もし、いたとしたら2人から説教を喰らっていただろう。
けれど、沢田の下心に関して素直な点に関しては好きな方である。下手な言い訳をする奴よりもストレートで分かりやすい。
「でも、2人とも胸がなぁ〜残念なんだよなぁ!あれがもうちょい大きければよかったんだけどね」
「海でも川でもそのことを絶対に言うなよ?2人には」
話しながら歩いているといつの間にか目的の牛丼屋に着いていた。
店内はサラリーマンが多いけど皆、カウンターを座っており俺たち2人はテーブル席へ腰をかける。
「すみません、牛丼の大盛り1つ。それと牛肉炒めの定食でご飯大盛り、それと豚汁もください」
注文を終えて、出されたお冷に口をつける。冷たくて蒸し蒸しとした暑さから歩いてきた身としてはとても美味しく感じられた。
店内を見渡す、箸と丼がカツンカツンと触れる音が聞こえるが人の声なんて外からか店員の話し声しか聞こえない。
俺たちも、互いに話すことが無くなりしばらく無言のままでいた。
そして、店に入ってきて10分ほど経ち沢田の方から話を投げかけてくる。
「裕介は好きな人っているの?」
「…突然だな、どうしたんだよ」
「いやね、少し気になってさ。俺らって女子2人といつも一緒にいるけどそう言った会話ないじゃん?だからさ、気になったんだよね」
「……ほしい言葉ではないと思うけど、いないよ」
「そっか…俺はさ、本田のことが好きなんだよね」
手に持ったお冷を落としそうになる。今まで、全く気づかなかったし互いにそういったフリを見せることすらなかったのだから。
「それって本当か?ちなみにいつから…」
「一年の頃からかな、俺の一目惚れ。優しいし一番最初に話しかけてくれた女子だからさ」
窓の外を眺めながら思い出すかのように語る、一年の時からの親友が他の親友に恋をしていたなんて。物語のような展開に頭が追いつかない
「あ、この事は女子2人には言うなよ。綾瀬なんかに聞かれたらすぐ目に広まるからさ」
「ハイハイ…分かったよ」
適当に返事をして空のコップに水を注ぐ。
水の入っていたピッチャーは、もう空になりかけていた。
過夏の匂い Rod-ルーズ @BFTsinon
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