第2話⁂最終話⁂

 


 時は1900年の中国。


 17歳のシンと16歳のオ-ロラは本当に仲が良い。2人はいつの間にか、お互いに淡い恋心を募らせている。


 それでも…いつも思う事だが、こんな綺麗なお嬢様をこんな汚い家に住まわせるのはどうかと、心苦しく思うシン。


 山に山菜摘みに行ったり、野山を駆け巡り美しい花々を摘んだり、2人はいつもどんな時も一緒。


「ウッフッフッフ~」


「ワッハッハー」


 幸せそうな2人。微笑ましい2人。


 しかし…こんなお嬢様が、こんな貧乏所帯の質素な食べ物など、本当に食べれるのか?


 ……それが?このオ-ロラは食事を一切取らない。

 それで心配になり、夜に一度だけオ-ロラの寝床を見に行ったシンなのだが、どこにも居ない?


「これは変だ?」


 シンは不思議に思い、次の日も……また次の日も……寝床を見に行った。

だが、やはり寝床に姿は無い?


 一体オ-ロラは夜中に抜け出して、どこに行っているんだろう?不思議な現象ばかりが起きているが、オ-ロラは本当にこの世の者なのか?

 

 ……まだ何も分からない?何の手掛かりも見付からない?


 一体オ-ロラは何者?


 只々途方に暮れるシンなのだが、不思議なことにオ-ロラが家に来てからと言うもの、どこからともなく金品が湯水の如く溢れ出て来る現象が起こっている。


 実に不思議な事だ。


 例えば母親の内職の反物が、今までは安く叩き売りされていたのに、オ-ロラが家に来てからと言うもの法外な値段で売買されている。


 また父親がシュウの家の要らなくなった材木を活用して、少しでもお金にならないかと思い、手を加えてまな板や置物を作っていたのだが、今までは二束三文だった木工品が飛ぶように売れて来ている。

 そんな摩訶不思議な現象が起きている。


 ◆▽◆

 ある日の事、オ-ロラとシンが、偶然一緒にいるところを見掛けたシュウは、あの美少女の事が片時も忘れられなくなっている。


 そこで、ある日シンに聞いた。


「オイ、シン!お前この前、可愛い女の子と歩いていたが、あの子は誰だい?」


「あぁ~?あの子ね。オ-ロラって言う女の子なんだ。行方不明になっている娘なんだ?」


「そうか?俺が父に頼んで家を探し出してやる。お前はオ-ロラに近付くな。分かったか?アッそれから……今オ-ロラはどこに居るんだい?」


「あぁ~?僕の家で預かっているんだ」


「チッ!俺の家に連れてこい!あんなあばら家じゃ可哀想だ。」


「ウ ウン!分かった。じゃ~大切にしてくれ。早速連れて来るから」


 本当はオ-ロラを手放したくないシンなのだが、あんなあばら家ではオ-ロラが、可哀想に思いオ-ロラに打ち明けた。


「シュウが、君を綺麗な住まいで贅沢な暮らしをさせてあげたいと言って来たのだよ。だからオ-ロラちゃんは、シュウの家で生活してくれるかい?」


「私は……私は……シンのそばが良いの。汚いだなんて……そんな事全然関係ない。シュウの家に行きたくない」


「アッそうかい?本当は僕もオ-ロラが、僕の家にいてくれる方が嬉しいんだ」


 こうしてシュウにオ-ロラの気持ちを伝えたのだが、シュウが怒り狂って暴言を吐いている。


「そんな事を言うんっだったら、シンのお父さんの首が飛ぶぜ?それとお前の学校のお金も打ち切りだ。それでも良いのかい?」


「あぁ~良いとも!」


 何故こんな大きい態度を取れたのかと言うと、最近家がにわかに潤っているのもあるが、成績優秀なシンは先生から嬉しいお言葉を頂いていた。


「師範学校だが成績優秀だから特待生制度を活用できる」

こうして…学校の授業料は全額免除されている事を知っていたシン。


 オ-ロラの事が忘れられないシュウは、尚もシンに食い下がる。


「じゃ~!みんなで一緒にパ-ティ―をやるから、オ-ロラちゃんと一緒に来てくれ!」


 ◆▽◆


 そして豪華なパ-ティ―の日は、やって来た。


 目を見張る食事の数々、100年以上前なのにステ-キやフカヒレ姿煮にお寿司、更にはデザ-トのケーキやクッキー等々。


 シュウはオ-ロラのことを思うと夜も眠れない日が続いていたが、今オ-ロラを目の前に、嬉しくて仕方がない。


「オ-ロラ僕とダンスを踊ってもらえませんか?」


「はい!喜んで」


 美しき青きドナウの旋律にのせ、一斉に会場はワルツを踊る美しい女性の花々で咲き乱れ華やいでいる。

 


 ダンスが終わるとシュウはオ-ロラに「今度また遊びに来てください」


「はい!喜んで」



 🔶🔷


 あれからというもの、オ-ロラはシュウの家にシンを迎えがてら顔を出すようになっている。

 ある日シンを迎えがてらいつもの様にシュウの家に行った。


「今日シンは居ないの?」


「今日は学校の授業が遅くなり居ないんだよ。上がって!上がって!」


 そううながされシュウの部屋に入った。

 そして…話に花を咲かせていた2人だったが、突然シュウが思いつめた表情で話し出した。

 一体何が有ると言うのか?


「オ-ロラちゃん、ぼっ僕と付き合って下さい」


「急に?急にどうしたの?……でっでも~?私は……心に……秘めた……人が……」


「まっまさかシン?」


「………」


「シンなのかい?」


「………」


「黙ってちゃ分らない?」


「そう・・・そうなのよ!」


 シンにだけは取られたくないシュウは「ダメだよシンだけは、何故シンなんだよ?俺の家の使用人なんかにオ-ロラちゃんを取られてたまるか!」


 そして…オ-ロラにいきなり抱き付いて、強引に自分のものにしようとした。


「ナッ何をするの?ヤッヤメテ————ッ!」


 とうとう衣服まで、はぎ取られそうになっている。

 これは大変。


「キャ——ッ!オッお願いヤメテ———ッ!」


「ダッダメだ!オ-ロラちゃんは絶対僕のものだ——ッ!」


 すると、なんとオ-ロラは「5色の光」を放ちながら巨大な赤い龍になって恐ろしいうなり声をあげて襲い掛かって来た。


「グァ—ッ!ガヮォ————————ッ!」


「ギャッギャ—ッ!イッイッ一体どうしたんだ!」


 そして…真っ赤な炎を吐き出しながら、襲い掛かろうとしている。


「ゴオ————————ッ!」


「グワ————ッ!」


「ヤッ止めてクレ——ッ!」


「私はオ-ロラ姫!オ-ロラ国からやって来ました……オ-ロラ国は生前の行いが良かった人々が集まる黄泉の国……赤や黄色、緑に青の、それはそれは美しいオ-ロラが四方八方にカーテンのように揺れ動いている美しい国……私たちの世界オ-ロラ国は天が裂けた天の割れ目にあります。天空から私は、困っている人達を助けようと祈って、僅かばかりの施し……オ-ロラの雫をたらしたり、念じる事などを(雫が宝石に変わる。念じて良い方向に向かう)しておりましたが……そんな時にある夜私は1人の坊やに目が行きました。余りにもけなげで頑張り屋さんの、その姿に驚かされたのです……夜に外に出て寒い夜も、暑い夜も、雨の夜も、風の夜も、又雪の降る寒い夜も、外に出て一生懸命ボロボロになった本にかじりついている坊やを……やがて私は……その坊やに恋をしました。そして愛しいシンを、天の割れ目から観察していました……一方のあなたの行いも嫌という程見ていました。まだ6歳の坊やにリヤカ—を引っ張らせての駆けっこはあんまり!シンは指から血を流していました……それでも尚、今度は自分が乗っかって引っ張らせていましたね?他にも散々酷い事を……そんなあなたに恋など、どうして出来ましょうか?……それから古代中国では、オーロラは天に住む赤い龍に見立てられ、不吉なことの前触れであると信じられていました。まさにその通り……もう直ぐ恐ろしい戦争が勃発します。それを安じて、不吉なことの前触れであるオ-ロラを頻発させていましたが……人々の愚かな行為は収まりません。もう止める手立てが有りません。でもシンだけは……シンだけは……私のもの。この世界に降りて来たのは、何事にも真摯に取り組むシンを失いたくない一心で、この地上に降り立ったのです……皆様を救いたくてオ-ロラを、頻発させていましたが、誠に残念ですが、愚かな行為はおさまりませんでした。あと20~30年後に恐ろしい戦争が起こるでしょう(第二次世界大戦)」



「なっ何言ってんだい?そんな戦争起こりっこないって~の!こんなお化け、こっちから願い下げだ!」


 ◆▽◆

 それでは幾つか残る疑問を紐解いて行こう。


 ★オ-ロラは何故食事に手を付けなかったのか?

 黄泉の国の人間だから(黄泉の国;あの世)


 ★夜どこに行っていたのか?

 人々を救う為の活動やオ-ロラを頻発させるための活動をしていた。

 


 ★行方不明になったのは?

 行方不明になったのではなく、自分の意志でオ-ロラ国からやって来た。


 ★寒い国からやって来たが夏場はどうしていたのか?

 初夏、真夏、初秋はオ-ロラ国に帰還。



 ◆▽◆


 シンはシュウの奴隷的扱いにもめげず辛抱に辛抱を重ねて、無事中国一とも言われる湖南省立師範学校を卒業した。


 あの時代、特に都市部と内陸部の格差があったが、優秀なシンはそんな事、物ともせずに都市部の高等中学校の先生となった。


 そしてオ-ロラ姫は、今まで人々を救ってきた功績が認められ、人間として蘇ることが出来た。

 こうして愛するシンと結婚して、いつまでも幸せに暮らしたとさ。 


 めでたし!めでたし!

  


 おわり

 


【古代中国ではオーロラは天に住む赤い龍に見立てられ、不吉なことの前触れであると信じられていた。古代中国には赤い蛇のような体を持ち、体長が千里におよぶとされる(しょくいん)神が信じられているが、またその一方で太陽神、火神ではないかともいわれていた】



 


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オ-ロラ姫 あのね! @tsukc55384

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