雨の日よ、去れと願いて
アカサ・ターナー
雨の日よ、去れと願いて
梅雨の時期になると私はどうにも気が滅入ってしまう。梅雨が嫌いなのではない。
雨が嫌いなのだ。
だから遠慮なしに雨を降らせ続ける梅雨時は気が滅入ってしまう。
何か嫌な出来事があったわけではない。ただただ不快なだけだ。
いちいち傘や雨合羽を用意する手間が面倒だ。普段より前方と足元に気を付けねばならないのが億劫だ。飛び跳ねる泥しぶきが嫌いだ。地面や屋根を叩きつける雨音が耳障りだ。急に振り出して無遠慮に衣服を濡らすのが憎いのだ。
雨を待ち望む人には悪いが、雨という在り方が嫌いで仕方がない。おそらく今後の人生においてもこの想いは変わらないだろう。
単なる気象の一つに過ぎない癖に、創作物ではさも特別な何かが起こりうる象徴、あるいは比喩・暗喩として描かれるのが鼻持ちならない。
その上季節毎や振り方の強弱によって名称が細かく分かれているのが不愉快だ。
私は雨の種類を覚え、予報の仕方を学び、雨の被害から逃れる努力をした。
そんな私を指してこともあろうに雨が好きなんですねと能天気に宣う奴らには反吐が出る。嫌いで仕方がない存在だからこそ、よく知るために学んで対策しているというのに。
この世から雨が消え去ってしまえばいいのに。現実的とはいえない夢。心からの願いではあるが現状において雨の予報をして被害から逃れるしか術はない。そう意識するとますます雨が憎々しく思えてならない。
少しでも被害が減らせるように、また他の人が少しでも多く雨を忌み嫌うように努力するのが限界だ。途方もない試みだが、決して諦めたりはしない。
私は気を引き締めて前を見据えた。
『――次の日はまた雨です。雨がうっとおしく感じる日々ですが梅雨が終わりに入っています。
梅雨の終わりを送り梅雨といい、激しい雨に見舞われる地域が――』
「この予報士さん、やたらと雨に詳しく解説してくれるな。おかげで雨の種類いくつか覚えちゃったよ」
「よっぽど雨が好きなんだろうね。そうじゃないとここまで分かりやすく解説出来ないよ」
雨の日よ、去れと願いて アカサ・ターナー @huusui_novel
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