変態女と狼少女は結婚して同族探しの旅に出るようです

アサブクロ

第1話 私達結婚しました。

私はミレイ。先月まで冒険者をやっていたが、色々あり辞めた。


今日山菜を取りに、裏山に来ていた。


「お、あったあった……ん?」


目的の山菜の一つであるベニイロソウを発見し喜んでいると、生えている木の後ろに、人間らしき手が見えていた。


「え!?」


そこには、狼の耳にしっぽの生えた少女が木にもたれかかっていた。


耳は片方が半分に斬られていて、半分は膿んでいた。体は傷だらけ、全身血と泥にまみれていた。


急いで癒しや洗浄等の魔法をかけると、怪我は治癒され服も肌も毛並みも綺麗になった。弾かれた魔法もあったのが気になるが確か……


「ん、あ……!?」


ゆっくりと目を開ける少女。


「良かった……ぐはっ!」


ぶん殴られた。痛くはなかったが衝撃が凄かった。


「に、人間!離せ!」


ばっと起き上がりながら地面を蹴って跳び、距離をとると、こちらに向けて毛並みを逆立てて唸りながら警戒する狼少女。


「お前も追っ手!?私に何をしたの!」


「……山菜取りに来たら君が倒れてたの。怪我治して、汚れも綺麗にしたのに。耳、触ってみてよ」


魔法で治癒され、汚れが取れ、白くてふわふわになった耳を触る狼少女。


「……ほんとだ、耳生えてる」


「でしょ?」


「……ごめんなさい」


「いいよ、気にしないで。好きでやったことだから。それよりも誤解が解けて良かった」


「……」


「……」


お互い何を話し出したらいいか分からず気まずい雰囲気になったその時だった。狼少女のお腹から『ぐもおおおおおおおおお』という凄まじい音が聞こえてきた。


「……お腹減ってるの?」


「……」


「……良かったら食べる?今から山菜おこわと鶏肉焼いて食べるけど」


「食べる」


狼少女は、さっきまで警戒していた事なんて忘れて、今はもう飯の事しか考えていないようだった。


いつもより頑張って作らねば。



―――




「美味しい!」


尻尾をぶんぶんと左右に振りながら声を上げる狼少女。


「沢山食べてね」


「ん!!!」


バクバクと、とても美味しそうに食べる狼少女。


こちらとしてもこんなに喜んでもらえて嬉しい限りだ。


とても可愛い狼少女に頬が緩んでしまう。



―――




「ごちそうさまでした」


いつもの癖で無意識に私が言っていると、こてんと首を傾げて私を見る狼少女。


「……今さっきもやってたけど、なにそれ?」


「ん〜えっと、食べ物に手を合わせて感謝する儀式?みたいな」


「……ごちそうさまでした……このやり方で合ってる?」


「バッチリ」


「最初言ってたいただきます、忘れちゃった、儀式なのに……聞けば良かった」


ずん……と落ち込む狼少女。


「そんなに気にしないで。次から気をつければいいし」


勇者君から聞いた感じだとそんなにかしこまったものでもないと思うが。


「と……お腹が膨れたところで名前と年齢聞いてもいい?」


「……フィレア・アルノ。フィアって呼んで。歳は13歳」


「私はミレイ。ミレイ・グレイ。そのままミレイって呼んで。歳は22。話は変わるけど……フィアはなんであんな状態であんな所に?」


「……」


「……いきなり変なこと聞いてごめんね。気になってさ。辛かったら言わなくてもいいんだよ?」


「……言う。ご飯くれたし。……逃げてきたの、人間から。……昔から私の一族は、獣人の中ではとても珍しいから、常に狙われてるの」


フィアは、絞るような声で少しずつ話し始めた。


「やっぱりか……」


確かに、フィアの外見のような狼族の獣人は本の中でしか見た事がなかった。


狼の獣人というのは一般的に毛並みは黒か灰色であり、人間の部分は少ない。獣要素が強いのだ。


だが、フィアの外見は全体的に白い。耳もしっぽも髪の毛も白い。目も白く、白い睫毛に髪の毛、肌、と人間の要素が強かった。それに加え精神生命体である妖精種にも近い雰囲気を感じる。


「他のみんなが心配だから……探さなきゃ。私はもう行く。楽しかったよ、ミレイ」


「待て待て待て!」


立ち上がろうとするフィアを抑える。


「探すって、他のみんながどこにいるかは分かるの?」


「……分からない……」


しょんぼりと耳を垂れさせ答えるフィア。


「そのまま行っても目立つし、またフィアを狙う人達に襲われるだけだって。今度は殺されるかもしれないんだよ?それに人探しは、情報を集めなきゃ」


獣人というのは地域によっては人に見られていないようなところもあり、剥製にして飾る文化もあるのだ。もちろんコレクターもいて高値で取引されているのだ。


フィアを狙ってる人達が何を目的にしているのかは知らないが半殺しの様な状態にされたのだ。生死は問わない可能性が高いだろう。


「……私、何も出来ない?」


絶望、といった表情になるフィア。すうっと、指先が薄くなる。


まずいと思い咄嗟に声をかける。


「できるよ!」


「……ほんと?」


「うん。ほんと。私が全力で助けてあげよう。でも、その代わり私のお願い聞いてもらってもいい?」


「……お願い?」


「うん。お願い」


「……それで、一族が助かるなら……」


決意した顔つきになったフィア。


「ほんとに?いいのね?」


「……いい」


「なら、私と結婚してくれないかな?」


「え?」


決意していた顔を一転させ、キョトンとした顔になったフィア。


「フィアと結婚したら私も君の一族に加わるでしょ?あと私、ひと目惚れしちゃって……今も抱きしめたい気持ちを抑えてるんだけど……結婚したら心置き無くイチャイチャできるし、いいよね?」


「ミレイ、女だよね?私女だよ?」


「人間は女と女でも結婚できるんだよ」


「……ミレイがいいなら、いいけど……わっ」


いいけど、という言葉を聞いた瞬間押さえ込んだいた欲求が溢れ出てくる。私はフィアを抱き寄せた。


「はああああああああああかわいいいいいいい」


「ちょ、ミレイ!?ひゃぅっ!」


「あ〜しっぽもふもふ〜!耳ももふもふだ〜!よしよしよしよしよしよし〜可愛すぎるっ!キスしよキス」


「んうっ……」


フィアの柔らかい唇を私の唇で塞ぐ。


「……ぷはっ、だ、だめぇっ!」


「……何が?」


「だめ……変な事なだめ!」


「キスは?」


「……す、少しならいいけど、お!?んうっ」


いい、なんて言うのがいけない。再びキスをする。


お互いの唇がどちらか分からなくなるほど長いキス。


唇と唇が馴染んできた頃、舌を絡める。舌の先でフィアの歯をなぞる。


さっき一緒に食べた山菜おこわと鶏肉の味が微かにした。


やはり狼の獣人だけあって歯は人間よりも鋭いな……なんて事を思っていたらその歯で舌を甘噛みされた。


「いへ!」


「ぷはっ、もう……」


効いているようだ。とろんと蕩けたような顔になっているフィア。可愛い。


「ごへん」


「……ミレイの変態」


「あっ」


胸を撃ち抜かれたような衝撃で絶頂しかける。


「ミ、ミレイ?」


心配してくれるフィアが可愛すぎる。


「……大丈夫だよ、そしたらね、今度は私に甘えて?」


「あ、甘える?」


「ただ、私に抱きしめられるだけだから。体を私に預けて?」


「う、うん」


私より一回り小さな体。とても軽い。背中を優しくトントンとしながら、さする。


「よし、よし」


「……これ、落ち着く」


触れるとよく分かるが、フィアの精神はとても磨り減っていた。出会った時から大分まずい様子だったのでフィアを見つけた時に精神を癒す魔法をかけたら弾かれたのだ。


本で読んだフィアの一族の種族特性、『放射魔法による精神干渉を受けなく、防御力も高いが自身の精神的苦痛が限界を越えると体が消滅してしまう』という特性。防御力が高く魅了や絶望の魔法が効かないのは強いが、そのリスクも高い。自分では何も出来ないと思い絶望しかけた時、指先が薄くなったのも種族特性によるものだ。


今フィアの背中をさすっている右手には、精神的癒しをもたらす睡眠を促す魔法を付与してある。さっき食べさせたご飯も、キスもそうだ。精神を癒す為に食材に魔法を練り込んだ。キスは私の唇と唾液に魔法を付与してあった。



「よし、よし」


「ふぁ……」


「よし、よし」


「……すー……すー……」


魔法は直ぐに効いた。


見た目が珍しいからという理由で生まれた時から命を狙われながら生きてきた。フィアは、そんな状態で13年間生きてきた分だけ精神的苦痛が蓄積されていた。


心を支えていた一族の仲間ともバラバラになり、今にも体が崩れてしまいそうだったのだ。


私のフィアをあんな状態にした連中に対する憎悪を可愛い寝顔でなんとか押さえ込む。


フィアを腕の中から離すのは惜しいが仕方ない。起こさないよう強固な警戒系防衛系魔法のかかった寝室に運ぶと、この部屋に精神的な癒しを促す魔法と免疫力を上げる魔法を張り巡らせる。


「準備するか……」


私はフィアと約束した通り旅に出るため、準備を整える事にした。

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