終話 最大の謎

「私達は口伝で一言一句漏らさず憶えていますよ」


 菊さんが啞然とする様なことを語った。全く、この人達には敵わない。中国さえも手玉にとっていた訳か。


 金丸のことも薄々勘付いていたのだろう。驚きや疲労が見られないのが良い証拠だ。


 豪胆な方々だ。中国なんて拷問の専売特許の国家だろうに。


「さて、菊。今夜は写本を書き上げますよ」


 ある意味超人だ。千年の歴史は伊達ではない。


 二人が奥の間で写本を造っているとカーツ元帥部隊が引き連れてやってきた。


「元気そうで何よりだ。若先生」


「カーツ元帥、日本語喋れたんですね……」


「叡一に教わってな」


「父とはどの様なご関係だったのですか?」


「叡一は技術者としても超一流でな。今のエシュロンの基礎理論を創ったのも彼なんだ。その見返りとして中東諸国の景教の信徒と祖国イスラエルの安全を守って欲しいと懇願してきた。叡一が初めてイスラエルに来た時は感極まって泣いていたのを今でも憶えているよ。で、どうするかね?」


「何がですか?」


「若先生は景教の総首教にもなれるし、牧師にもなれる。どっちの道を取る?」


「まあ、当面は英子さんの指導を受けますよ。総首教って言われてもね。知識もろくにないですしね」


「菊との結婚はどうするつもりだ?


「まずは友達からですかね」


 我ながら気楽な発言だと思う。これからが大変なのだろう。米国との協力を基に景教の復興を少しずつ携わっていかなくてはならないのだから。

教団との折衷も苦労しそうだ。


 まあ、未来を悲観し過ぎないことも人生のコツだ。


 しかし、最大の謎が残ってしまった。

 菊さんの心を読めなかったことだ。


 これはいつの日か語られる日が来るのだろうか。


 あの意味深な科白の意味を考えなくてはならない。


 こればかりは短時間で解けるかどうか。


             ―了―


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探偵牧師物語 最終章 佐藤子冬 @satou-sitou

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