エピローグ

幸せな英雄


「へへへ……っ。やっとだな……! まったく、待たせやがって!」


「ふふ。お待たせして申し訳ありませんでした。でもお待たせした分、これはらずっと一緒ですっ」


「えぐえぐ……っ! ら、ラキよ……! きっと幸せになるのだぞ……!」


「うぐっ……! この私としたことが……流石にこの光景には涙が止まらないよ……! おめでとう、リリーっ! 綺麗だよ……!」


『おめでとうございます、ラキ・ミリラニ。貴方の決断とこれからの日々を肯定します』


「二人共、本当に良かったね……」


 カラーンカラーンっていう綺麗な鐘の音が上の方で鳴って、綺麗な服を着たリリーとラキは、一杯のフリフリがついたオルアクアと俺達の前でぎゅーってしてむちゅーってした。


 それと同時に、お祝いにやってきた沢山の人からわーって声が上がって、まるで大雨みたいな数の花が空に上がって落ちてきた。


 今日はラキとリリーの結婚式。


 二人共、俺とリズが付き合うより前からずっとラブラブだったのに、それでも結婚するのは俺達より大分後になった。


 ラキがまだ十三歳だったからってのもあるけど、やっぱり一番の原因は人間と魔族をうまく仲良くするためにかかった時間。


 あの大洪水と、海の神さん。

 そしてそこから世界中の水没が元通りになるまで。


 人と魔族はずっと協力したり、ケンカしたり色々あった。


 だけどそれでもみんななんとか頑張って、ようやく二人が結婚しても大丈夫な雰囲気になって、こうして一緒になることが出来たんだ。


「ホーッホッホ……! まさか、この我輩が生きている内に聖女と魔族四天王が縁を結ぶ時がくるとはのう……。時代は変わった、老兵はただ去るのみじゃ……。祝福するぞ小童……いやさ、ラキ・ミリラニよ……!」


「何を言うかヘドロメールよ! お前にはまだまだ私の右腕として働いて貰わなくてはならんのだ! 向こう側の世界の復興は全く手つかずなのだからな!」


「クックック……! そういうこと……! 他の四天王のみんなも、これからもよろしくね……ッ!」


「ハッ! 我ら四天王、これからも変わらぬ忠誠をこの世界と同胞達の平和に捧げると約束します! そうだな、オディウム、ナイン!」


「ヒャハハハ! 勿論だぜぇ! 俺達の次の世代の奴らには、争いのない平和な世の中で活躍して貰いたいからナァ!」


「はいっ! 魔族と人間って別に見た目は一緒ですし……いつか本当にそうなるように、私達も頑張ります……っ!」


「僕もパライソ連邦議長として、これからも頑張りますよ!」

 

「素晴らしい心がけですよ皆さんっ! 私もこの世界の女神として鼻が高い! あ、そういえばですね!? 昨日あちら側の世界で〝海底都市を造って暮らしてた皆さん〟から、あっちの女神だった〝あの子が生きている〟という連絡を受けまして――!」

 

 まあ、こんな感じで。

 あの後も……今だって色々大変なことはあるけど、今日もみんな楽しそう。


 そして、それはもちろん俺だってそう。


「リズ……」


「えぐえぐ……っ! ん、んん……どうしたのだ、カノア?」


「ありがとう。あの時……俺に会いに来てくれて」


「カノア……」


 隣でわんわん泣いてるリズの手を握って、俺はいつもみたいにそう言った


 もう何度も伝えたその言葉。

 もう何度も握った、小さいけど温かな手。


 俺はこれからも、ずっとこの手を離さないぞって思ってる。

 そして――。


 

 ――――――

 ――――

 ――



「あー! カノア兄、リズ姉ちゃん! お帰りー!」


「ナーッハッハッハ! たった今無事に帰ったぞリルトよ!」


「ただいま。俺達のいない間になにかあった?」


「よゆーだよ! 浅瀬に乗り上げた船が一隻いたから、俺が助けておいたんだ!」


「そうなんだ。ありがとう」


「ほっほーう? リルトもかなり立派になってきたではないか! これならカノアや私がいなくても平気だな!」


 パライソからずっと離れた海辺の街。

 そこにある家に帰ってきた俺達を、すっかり日に焼けたリルトが出迎えてくれた。


 俺とリズ、それと俺と一緒に働きたいって言って押しかけてきたリルトの三人。

 俺達は今、ここで海で起きた事故からみんなを助ける仕事をしてる。


 リズは大魔王のお仕事もあるからお手伝いって感じ……というか、俺のこの仕事自体リズの会社って感じなんだけど。とにかく、俺達は三人でのんびり働いてた。


 リルトには俺が泳ぎを教えてるんだけど、今では水泳EXほどじゃなくても、海の中なら無敵ってくらいには凄く泳げるようになった。やっぱり父さんの影響なのかな?


「じゃあ俺は帰るね! カノア兄も、今は〝リズ姉ちゃんが大変な時〟なんだから、ちゃんとお手伝いしてあげなよっ!」


「うん、そうするね。お疲れ様、リルト」


「ファーーッハッハッハ! この私に心配など無用ッ! 何があろうと、私と我が子の安全は自力で守ってみせるわッ! クハハハハハハッ!」


 そう言って、リルトはにっこり笑顔で帰っていった。

 リルトもそうだけど、最近は父さんや母さんともそれなりに上手くやってる。


 特にリズに子供が出来てからは、あの母さんがよく手伝ってくれるようになって、俺達も凄く助かってるんだ。


「むふふふ……。今日も幸せに満ちた最高の一日だったのだ……。カノアは疲れていないか?」


「ぜんぜんへーき。今日も俺が料理するから、リズは休んでて」


「ぬわーーーーっ!? わ、私はなんという幸せ者なのだ……! カノアという最高の夫と結ばれ、間もなく我が子も生まれる! カノアと恋人同士になった時は、この瞬間こそ幸せの絶頂だと思ったがぜんっっぜん違ったのだ! あれから毎日最高記録更新中なのだーーーーっ!」


「うんうん、俺もそう。ヤバイ」


 早速部屋のベッドに寝転がってゴロゴロもぎゅもぎゅするリズ。

 そんなリズに、俺はまたありがとうって伝える。


 だって……初めてリズと会った頃の俺を最高だって本気で思ってくれてたのは、この世界でリズだけだったから。


 自分でもそんな風には思ってなかった。

 リズだけが、俺のことを良いって言ってくれた。

 だから、ここまでこれたんだ。


「これからも、ずっと一緒にいようね。俺……もっと頑張るから」


「ふふっ……頑張らなくてもいいのだ。カノアはカノアのまま……初めからずっと素敵なのだ。誰がなんと言おうと……カノアは私の大好きな旦那様で、海の英雄なのだっ!」


「うん……ありがとう」


 昔の俺だったら。

 きっとリズにそんなことを言われても、俺なんて……って言ってたかもしれない。


 でも、もういいんだ。


 リズがそう言うのなら。

 俺は最高にも、海の英雄にも、リズの旦那様にだってなれる。


 りょ、漁師は……。

 漁師は……まだかなり頑張らないといけないかもだけど……。


 でも、頑張る。

 それでリズがこれからもにっこり笑顔でいてくれるなら。

 それだけで、俺はずっと幸せだから……。


『なーお! なーお! ゴロニャーーーーン!』

『アオーン! アオーン! ギャオーーーーン!』


 開かれた窓の外から、サメ猫とサメ犬の鳴き声が聞こえる。

 そしてそれと一緒に、打ち寄せる波の音と、カモメやウミネコの鳴き声も。


 昼まで寝てる日は前よりも少し減ったけど。

 楽しい日はもの凄く増えた。


 色んなことが起きて、大変な時もあるけど。

 たまには漁師みたいに、早起きして頑張らないといけない日もあるけれど。


 それでも俺は今日も泳いで。

 リズと一緒に、この世界で生きている――。





 異世界水没 完


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異世界水没~水没した異世界で、水泳スキルEXの俺は昼まで寝ていたい~ ここのえ九護 @Lueur

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