そしてまた次の手を


 リズが世界を救うために作った機械。

 それは、俺の気持ちを〝もっと上手く伝えられるようにする〟機械だった。


 前にリズが作ってくれたアクアリング。

 あれをもっと大きくして、海の神さんの大きな水の体全部に俺の声を届ける。


 そうすれば、俺達の星に近づきすぎた海の神を動かして安全な場所に連れて行ったり、降り続く雨を止めたり出来る。


 リズが俺に託してくれたのは、そういう機械だった。

 だから、俺は――。



 ――――――

 ――――

 ――



「リリーさん、リズさんっ!? カノア君もっ!? みんな、ご無事だったんですね――っ!」


「ファーーーーッハッハッハ! 当たり前だろう議長よ! 歴代最強の大魔王であるこの私が、世界の危機ごときでくたばる筈があるまいッ!」


「はははっ! そーだぞっ! 見ての通り怪我人も行方不明者も一切無し! 今日もいつもと同じ、無事故で元気に現場作業完了ってやつだなっ!」


「ただいま、みんな」


 ハルさんの力でパライソ議事堂前の広場にぱぱぱーって戻ってきた俺達を、議長のトルクスさんや、他のみんなは一斉に出迎えてくれた。


 最初から上手くいったらここに戻ってくるって言ってたんだけど、広場はマジで数え切れないくらいの人で一杯だった。


「クハハハハハ! よくぞ戻った、我らの世界の英雄達よ! もはや聞くまでもないと思うが、首尾はどうであった!?」


「これはこれは先代さん、お出迎え頂きありがとうございましたっ! それは勿論……私達の大勝利っ! 少しの不安も残さない、完璧な大団円ですともっ!」


「フフフ……。ハルさんの言う通り。貴方の娘であるリズさんとカノア君は、立派に使命をやり遂げたんだ。ついさっきまで〝いくつか立っていた死亡フラグ〟も、一つ残らずへし折れたからね」


「本当に……二人共ご立派でした。そして……ありがとうございました、リズ様、カノアさん……っ」


「ううん……。みんながいてくれたお陰だよ。今までも、いつだって俺はみんなに助けられてばっかりだ」


「ふふ……。今回ばかりは、誰一人欠けていてもここまで上手くはいかなかったであろう。我ら魔族も、人間の勇者達も、そこの受付も――」


『ギョワアアアアアアン!』

『ギャロニャーーーーン!』


「――無論、お前達もな! 皆が力を合わせたからこそ、こうして笑い合っていられるのだっ!」


 そう言って、リズはとってもいい笑顔で俺の腕にぎゅって抱きついてきた。


 本当にリズの言う通り。

 俺だけでも、リズだけでも、他の皆だけでも無理だった。

 ここにいるみんながいたから、こんな風に戻って来れたんだ。


「じゃ、じゃあ……! もう一つの世界を水没させた海の神は、もう倒したって事なの? 僕達の世界は、これで沈まなくて良くなるの?」


「あー! それなんだけどな、実はあいつには――」


「――少しの間、〝そこで待って貰っている〟のだっ!」


「は?」


「なああああああああ!?」


 その時。

 青かった空にもの凄く〝大きな影〟がかかった。


 それに気付いたみんなは一斉に上を見上げて、そこにドカーンって出てきた星よりも大きな水の塊……海の神さんの姿に腰を抜かして声を上げた。


「あ、あばば、あばばばばばばばーーーー!? なにあれなにあれなにあれええええええええッッ!? ぜ、全然ピンピンしてるんですけどおおおおおお!?」


「ど、どういうことだリズよ!? 破壊するどころか、こちらの世界に連れてくるとは!?」


「ナーーーーッハッハッハ! パパ様もトルクスも心配することはないぞ! すでにあの海の神は、〝カノアと友達〟になったのだ! 無論、私達ともなっ!」


「うん……。海の神さんは、色んな世界を回って水浸しにして、その世界に新しい命を作る大切な仕事をしてたんだ。でも、その時に水を降らせる必要がない世界も水浸しにしちゃうことがあって……。それで、海の神さん本人も〝困ってた〟んだ……」


「なので、カノアさんは海の神に〝水の止め方〟を教えたそうです。最初にそれを聞いた時は、僕もカノアさんが何を言っているのか理解できなかったんですけど……」


「私はすぐに気付いたなー。生まれた時からデカイ力を持ってるとさ、それをどう使うのかって意外と分からないもんなんだよ。過ぎた力は身を滅ぼすってな」


「そ、そうだったのか……。だ、だがカノア君。たとえそうだったとしても、別にわざわざこちらの世界にまで来て貰わなくても良かったのでは……!?」


「えーっと、それは――」


 俺やリズの話を聞いたみんなは、ガタガタブルブル震えたまま俺にそう言った。

 うんうん……。

 最初は俺もそう思ったんだけど、これにはちゃんと理由があって……。


「――こっちの世界も今は〝水が多すぎる〟から、海の神さんに持って帰って貰おうと思って」


「持って帰るとは……まさか、世界を水没させたこの水をか!?」


「そのとーり! カノアの話ではやろうと思えばすぐにでも出来るらしいが、すでにこれはこれである程度環境の適応が始まっているのでな! また水がなくなることによる影響を計算し、環境や人々に混乱を与えぬよう、万全を期して水位を下げていくつもりなのだ!」


「そ、そんなことまで出来るんだ……っ! それなら絶対そっちの方が良いよ! また色々大変かもしれないけど、みんなだってまた故郷に帰れるじゃないか!」


「うん。だからちょっとの間、海の神さんにもここに居て貰うから。みんなも仲良くしてあげてね」


 俺達がそう言っている間にも、海の神さんは頑張って空に上がって、俺達の世界を真っ暗にしないように気を使ってくれてた。


 これだけ離れててもわかる。

 海の神さんも、こうしてみんなが喜んでるのを見て喜んでる。


 海の神さんには大切なお仕事があって、また暫くしたら長い長い気の遠くなるような一人の旅が始まるんだと思う。


 けど、きっともう大丈夫。

 これからは、もう海の神さんがみんなの笑顔を水浸しにすることはない。


 みんなのすぐ近くで。

 反対に、ずっと遠くからでも。

 きっと、みんなが楽しく暮らしている姿を見守っていける。


 どこまでも広がる青い空。

 そしてそこに浮かぶ大きくて丸い青い海。


 俺はその海に向かってにこって笑って。

 これからもよろしくねって、確かに伝えた。


「さあ! そうと分かればまずは祝勝会なのだ! 昨日パーティーを開いたばかりだが、早速今日もするのだっ! 二日連続大騒ぎなのだーーーーっ!」


「すごく元気」


「むっふふふ! 今日だけではないぞ……! カノアが一緒にいてくれるなら、私の毎日はこれからもずっと幸せ大勝利っ! 約束されためでたしめでたしなのだ! むちゅーーーーっ!」


「はわわ――っ!?」


 リズに押し倒されて、むちゅーってされて。

 リズと手を繋いで、彼女の小さくて柔らかい体をちゃんと抱きしめた。


 あの時。

 一人ぼっちだった俺の手を、リズはぎゅって握ってくれた。


 だから……。


 これから、もしあの時の俺みたいに困ってる人がいたら。

 一人でどうしたらいいのか分からないって、困ってる人がいたら。


 その時は、次は俺もその人の手を握ろうって思う。


 そうすればいいよって。

 大切なみんなに教えて貰ったから――。


 

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