人工知能カラオケ

#365日ショートショート 170

「これが噂の人工知能カラオケですか！？」

「ええ、まあ、ある意味そうと言えるでしょう。カラオケの楽曲を選ぶ際、辞書よりも分厚い本をぺらぺらとめくり、お目当ての曲を探し、そのコードをリモコンに入力するのが一般的です。しかし、この新開発の筐体なら……」

「とても大きいですねぇ、これは。私が飼っている大型犬なんかすっぽり入っちゃいそうですよ。ははは。いやぁ、インパクトがあります」

「実は開発に随分と難航し、苦肉の策としてこの大きさになりました。しかし、精度はお任せください。さて、実際に曲を入れてみましょうか」

「どうすればいいのでしょう」

「その場で発声するだけです。アーティスト名と曲名を述べてください」

「ええっ。本当ですか。すごい、まるでSF映画の世界だ……。ええと、それでは。ミスアダルトの『旅の終わり』をお願いします」

「さて、少しだけ待っていてくださいね」

「今まさに、人工知能が動いているという訳ですか」

「ほらっ、きました、流れました。間違いなく『旅の終わり』のイントロでしょう？」

「本当ですね。すごい。発声しただけで曲を入れられるなんて。これは電子目次本なんて目じゃないですよ。新世紀のカラオケ産業を牽引するのは、きっとこの人工知能カラオケです！」

「ありがとうございます。それでは、ついでにもう一曲いかがですか」

「ううん。ちょっとマニアックな曲も大丈夫でしょうか」

「試しに発声してみてください」

「アルコバレノの『霧の目』をお願いします」

「おっと、私の知らない曲ですね。果たしてあるかな」

「……むむっ、少し人工知能も手間取っているようですね。さっきより反応が遅い」

「開発が押していたせいか、腱鞘炎なんです」