幕引き
人を騙すイタチを騙し、私はここまで生きている。私が騙していたのはイタチなのか、人なのか、永い時の流れの中で区別はとうにつかなくなっていた。人に騙され、イタチに騙され、散々な目に合う人間を私はこの眼で見てきた。私は私のやるべきことを行う、そこに倫理の定規を持ってこようとも、私はそれすらも歪曲してしまうだろう。
イタチは人を騙すが、人も人を騙す。
錯視は世界の現実から始まるが、嘘は人の幻想から始まる。人為を介し、偽の業は更に煮詰まる。
騙された者――――騙されたと気づいた者が学べることは多い。全ては経験、人生の血肉となり、この世を生き抜く糧となる。騙される、そしてそれに気づく。それは成長の餌を与えられ、それを食べるに等しい、尊い形の自然界の受け身と能動である。それは人を真実に縛りつける、尊い世界の営為である。
偽りの快楽に眠る人々はそんな営為からも解放された、真の自由人である。
人は誰しも虚構の世界、真実に縛られることのない自由の世界を持っている。その中に生きる夢想で憂き世の暮らしを耐え忍んでいる。そこに眠る他人を私はこの目で見たことがない。
イタチ小叙 かまきりりゅうご @hug
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます