幕引き

 人を騙すイタチを騙し、私はここまで生きている。私が騙していたのはイタチなのか、人なのか、永い時の流れの中で区別はとうにつかなくなっていた。人に騙され、イタチに騙され、散々な目に合う人間を私はこの眼で見てきた。私は私のやるべきことを行う、そこに倫理の定規を持ってこようとも、私はそれすらも歪曲してしまうだろう。

 イタチは人を騙すが、人も人を騙す。

 錯視は世界の現実から始まるが、嘘は人の幻想から始まる。人為を介し、偽の業は更に煮詰まる。


 騙された者――――騙されたと気づいた者が学べることは多い。全ては経験、人生の血肉となり、この世を生き抜く糧となる。騙される、そしてそれに気づく。それは成長の餌を与えられ、それを食べるに等しい、尊い形の自然界の受け身と能動である。それは人を真実に縛りつける、尊い世界の営為である。


 偽りの快楽に眠る人々はそんな営為からも解放された、真の自由人である。


 人は誰しも虚構の世界、真実に縛られることのない自由の世界を持っている。その中に生きる夢想で憂き世の暮らしを耐え忍んでいる。そこに眠る他人を私はこの目で見たことがない。


 以外には見たことがない。

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イタチ小叙 かまきりりゅうご @hug

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