「あの青に成るように」

「……ぉー、あおー」

 日向の呼ぶ声で目を覚ました。ハッとして起きると私を起こした日向と、森が目に入って思い出した。


「ねぇあお! ちょっとこっち! きて!」

 そう言って私の腕を引っ張って走る。「みてこれ!」日向の指差した先に見えたのは石段だった。その石段は苔に覆われていて人が通った様子はない。さらに、木々の陰に隠れていたためか、すぐに見つけられなかったらしい。

「いこ!」

 日向は、もう一度私の手を取って石段を登る。相当古いのだろう。ところどころ崩れていて、少しつまづきながら登った。私も、日向も、その日で一番大きな笑みを浮かべて登った。古代の海賊が遺したあの伝説の宝とかを探してるような。何か、久しぶりに冒険をしているような、そんな壮大な気分だったと思う。



 数分登ってやっと開けた場所が見えた。登り切った時、見えた景色に言葉も、音も奪われた気がした。そこにあったのは『たった一輪の向日葵』。『その向日葵』は確かに、『ただの向日葵』には見えなかった。高さは大体二階建ての家より少し高いくらいで、山の中開け放たれたこの場所にただ一輪咲いていた。その時にはもう――気持ち悪い。なんて言葉はとっくに消えていた。ただ圧倒されていた。ただ、呆然としていた。そこに日向は、また寝ころがった。それに気づいた私もまた寝ころがって言った。

「あったね、『枯れない向日葵』」

「うん。あったね」

「綺麗だね」

「うん」




「私、あおになりたい……」

 そう日向が神妙な面持ちで呟いた。少し間を空けてから日向はおもむろに立ち上がって、空を指差す。

「あの青になりたいの」


 そんな言葉を吐くと身体を半分こっちへ向ける。夕日が逆光を作っていて表情が分からないまま、また話し出した。

「ねぇ、あの青の向こうにはさ、何があるのかな」


「え?」


「あの青の向こうには、太陽があって、星があって、あの星もまた、あそこの太陽みたいに光ってる。あの星に近づいたらさ、またあの青が広がってるのかな……だから私は、あの青になりたい……なんちゃって、あはは」


 あっけにとられた。ここまで何か真剣に話す日向を見たことが無かったからか、日向の背中も、振り向いた時の笑った顔も、私に何かを語りかけるようなそんな気がした。


「なんか、ヒマワリみたい……私も日向みたいに、ヒマワリになりたい」


 日向はきょとんとした顔をしたあとに笑った。私も、日向と一緒に笑ってた。

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私の青い冒険奇譚 野田 琳仁 @milk4192

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