『枯れない向日葵』その言葉をはじめて聞いた時から一ヶ月経った頃。大体お盆が過ぎて夏休みも終盤に差しかかるところだった。窓から差し込む生温くて気持ちの悪い風を受けながら音楽を聴く。網戸に張り付いた蝉が激しくなくのが耳に響いて頭が痛い。そんな音達をインターホンの音が遮る。

「ねぇ、ちょっと出かけよ?」

 訪問者は日向。彼女は幼馴染で親友であった。

「え、どこに?」

「いいから! 早く着替えてきて!」

 やはりその日も唐突だった。いつもそうだったんだ。何の前触れも無く現れて、自分勝手に私を振り回した。私も、いつも通り何も知らぬまま適当に準備をして外へ出る。

 ただ歩いていた。何を話すわけでもなく歩いていた。日向は私より前に出て振り返り話し出す。


「ね、『枯れない向日葵』って知ってる?」


 その声は体に響く夏の音を消し去った気がした。あの時、図書館でその言葉を聞いた時に見えた神妙な面持ちとは打って変わって、これ以上ないほどに笑顔だった。その言葉に、その笑顔に、私の意識は奪われていた。

「――あお? 聞いてる?」

「あっ、うん。聴いてるよ。『枯れない向日葵』でしょ?」

「そうそう、知ってる?」

「知らないよ。てか、前にも日向に言われたよその質問」

「あれ、そうだっけ」

 日向はそう言って笑った。日向のその笑顔に、私も気付いたら笑ってた。

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