私の青い冒険奇譚

古そうな扉の音

 紙の擦れる音。時計の針が進む音。人の歩く音。木製の椅子が軋む音。時折開く古そうな扉の音。その扉が開いて聞こえる外の音――それは蝉の鳴き声、風に揺れる木の葉、隣の体育館からはボールが床を叩きつける音や人の声なんかも。

「静寂」その二文字が似合うこの図書館で、聞こえる音をただ数えていた。そんな空間に聞こえてきた彼女の声。

「ねぇ、『枯れない向日葵』って知ってる?」

 なにそれ。と一言だけ返した。「枯れない向日葵」突然に聞こえてきたその言葉はなにか不気味さをも孕んでいたような気もする。主に暑い夏に咲く向日葵は、夏が過ぎ涼しくなった秋を迎えると、もう一斉に枯れてゆく。なんと言うか、熱を求めて咲いていた彼らが熱を失い諦め朽ちていくような。なんでもそうだとは思うが、そんな花であると感じている。彼女はそんな向日葵が枯れないと言うのだ。そんな幻想じみた言葉ではあるのだが、私がそれに惹かれない理由は無かった。そんな事を思いつつ言い出した彼女の目を見つめていた。

「いやなんでも」

 彼女は私の言葉から少しだけ間を置いてからそう返した。彼女の目を見ていた私は視線を不意に落とした。表紙に向日葵が描かれた小説と、また別の小説を一冊。彼女はその手に抱えていた。

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