第3話~信じたい気持ち~
自分と幸男は、共に街中の警察署にいる。すべてはあの警察官と会い、事情を話してから、何故尚子を疑っているのかを聞くためであった。
本当は内心自分でも、まだ完全には信じていない。尚子は殺人犯でもないし、自分を育ててくれた大切な人物でもあるため、やはりまだ気持ちの整理がついていない状況でもあった。
隣には大切な友人の幸男がいてくれて、共に尚子のことを調べてくれようとしてくれている。これだけでも感謝なのだが、もしも本当に尚子が殺人犯だったら、そればかりを思うと、時が止まってくれとばかり感じていた。
しかし、今日例の吉田という刑事は他の案件で外出中だということを聞かされた。そのため、仕方なくそのまま帰ることにした。
幸男とは近くの駅で解散することにしたが、彼は優しい笑顔で
「何かあったら言えよ」
自分は小さく頷く。幸男はそのまま奥へと歩いて行った。自分としては気持ちが決して晴れやかではなかったが、それでも幸男の後ろ姿を見るたびに何故だか、安堵する自分がいた。
「ただいま」
自分は声を曇らせながらも、玄関でいつも通りに発した。すると、奥からいつも通りに尚子が笑顔で「おかえり」と言ってきた。
至って変わらない、いつも通りに光景に安堵を覚えながらも、既に用意されていた食事を前に、ふと感じた。
このまま幸せの時だけ動いてくれたらいいなと。キッチンで片づけをしている尚子の後姿を見ながら、そう思っていた。
部屋着に着替えてから、自分は用意された料理を口にすることにした。今日の料理は自分の好きなオムライスである。ケチャップソースには小さくハートマークが書かれており、それもいつも通りのことである。
「今日は学校どうだった?」
尚子は笑顔で聞いてきた。それもほとんど毎日聞いてくるほぼ日課みたいなものであり、少しでも嫌なことがあると、常に相談に乗ってくれたのは尚子だった。
「普通通りだったよ」
自分も笑顔で答えた。今回のことは当然尚子には口が裂けても言えないし、心配や不安な気持ちにさせたくないのも一理ある。
でも、よく考えたら、こんないつも通りの暮らしがいつまで続くか・・・
自分は永遠に続くと思っていた・・・
ふと思い返せば、自分が小学校の時、女子生徒からひどいいじめを受けた時でさえ、尚子はいじめを受けた側を叱責して、必死になって守ってくれた。
小学校の運動会の時も、自分には父親がいない分、全力で応援してくれた。
今もそう。自分を養うためにライターという仕事をしながら稼いでいる。自分が食事をしている間も、入浴している間も必死になって執筆作業をしている。
やはりありがたい存在であり、決して殺人犯に見えない。そう思い込んでいた。
翌日の朝、自分はいつも通り起床し、一階のリビングに入った。すると尚子は疲れていたのか、パソコンの前で眠っていた。
その眠っている様子がまるで普通の母親・普通の女性の風景に感じた。こんなこと考えること自体おかしいことなのだが、あの話の流れだとそう思うしかない。
少し涙がこぼれそうになりながらも、上に毛布をかけた。
そのまま自分は、学校に向かうことにした。今日は比較的暖かい気候だったため、爽やかな感情を持ちながらも、自転車を漕いでいく。
学校に着くと、玄関には偶然幸男の姿があったため、自分が呼び止めた。
幸男は相変わらずに笑顔で「おはよう」と言ってきた。しかし、自分は大事な話があったため、幸男を連れて屋上へと足を踏み入れた。
一体何の用か幸男は分からなかったため、少し戸惑いながらも
「なんだよ急に」
自分は少し怒りをにじませた口調で、本当に尚子を疑っているのかを聞いてみた。やはり自分にとって尚子は大切な母親でもあるし、殺人者だと思えないときつい言葉を投げた。
自分でも大切な友人である幸男にこんなことは言いたくなかったが、それでも涙をいくら流しても、尚子を信じたい。
そんな気持ちで溢れていたのだ。
すると幸男が、少し落ち着いた表情で
「亜弥。恐らくだけど、尚子おばさんは亜弥の本当の母親じゃない」
それはどういうことだと思い、もう少し話を聞いてみると、自分の生まれた病院はどこだと聞いてきた。
確か自分は市内の総合病院で産まれたと母親から聞かされた。しかし、幸男が言うにはその総合病院では2002年に小沢亜弥という女性が産まれた記録は一切ないという。
それに気になることが一つだけあり、2002年の4月に産まれた女児の両親が四か月後に殺害されているらしく、その女児が現在も行方不明の状態であることが明かされた。
続けて幸男は一言。調べる価値はあると。
確かにそう言われてみれば、産まれた日も病院も全てが違っていた。それに同じ時期に自分の産まれた病院を女児の両親が殺害されて、女児も行方不明。
確かにこれは調べなくてはいけないことだ。しかし、まだ半分受け入れられてない自分もいて、涙が溢れてきた。
その時幸男がそっと、自分を抱きしめてくれた。
「大丈夫。俺が付いているから」
~終~
私の母親 柿崎零華 @kakizakireika
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