第2話~母の疑惑~

十八年後の冬。


早朝、寒い空気がこの街を襲い、今でも息が白くなる時間帯。


「行ってきます!!」


そう元気な声で言って、家から出て行ったのは小沢亜弥。とても明るく、天真爛漫という言葉が似合う十八歳の元気な高校生である。


最近は東京大学の受験も終わり、来年の合格発表まで唯一リラックスできる時期であるため、有意義な時間を過ごしていた。


以前は冬なんて人生の三本指に入るほど嫌いだったが、東大受験までの苦しい日々を乗り越えたら、こんな冬なんてたいしたことない、そんな気持ちに変わっていた。


しかし、今日はとても寒かった。ここがいくら東京都はいえ、こんなに寒いのは異常だと思い込んでいた。


それに自転車に乗っただけでも寒い風がひっきりなしに襲ってくるため、少しキレそうになりながらも、ゆっくりと自分が通う高校に向けてペダルを進めた。


それをゆっくりと見守っていたのは、小沢尚子。どこにでもいる優しそうな主婦であり、夫はいないため、母娘の二人暮しである。


尚子の本業はフリーランスのファッションライターをしており、今では月に何十万も稼いでいるほど、人気ライターになっている。十五前からこの仕事を始めたため、この仕事については知らないことはないほどの腕前になっており、担当編集者の間でもとても好評を貰っているため、この仕事には誇りを持っていた。


今日も娘である亜弥を送り出してから、仕事である記事の執筆で一日を過ごす。それがいつものルーティンである。今日は特に「世代特集」の記事を担当するため、より気合いを入れて頑張ることにした。



寒い道のりを駆け抜けてから、亜弥は学校に到着をする。あまりにも寒さに手が硬直しており、危うく事故を起こす場面もあったが、無事に到着することができた。


すると外から大粒の雪が降り始めてきて、とても嬉しい気分になった。雪はいつ降っても、とても心が和やかな気持ちになれる。そんな不思議な天気でもある。


そんなことを思いつつもいつも通り、自転車を駐輪場に止める。雪は降っているが寒さには耐えられないため、中に入ろうとすると


「ちょっといいかな?」


自分に突然声をかけてきたのは、見ず知らずのスーツを着た白髪の男性であった。自分は少し不気味に感じたため、その場を離れようとすると、男性が警察手帳を見せてきて、決して悪いものではないと言ってきた。


警察手帳には吉田と書かれており、この男性は本当に警察関係者だと信じたため、自分は自転車の漕ぎ方に何か不注意でもあったのかと思い、慌てながらも


「わ、私、何かしました?」


吉田も少し慌てながら、そうではないと言い、続けて自分の母親に用事があると言ってきた。一体母親に警察が何の用があるのか、自分はこの刑事に対して不審な感情を抱いたが、念のために要件を聞くことにした。


「自分は、十八年前のとある夫婦殺害事件を調べていてね。もしかしたら君の母親が関係あるかもしれないのだ」


一体この刑事は何を言っているのか。十八年前というと自分がちょうど生まれた時期でもあるし、その時に起きた殺人事件に自分の母親が関わっている?


そんな根拠が一体どこにあるのかと思い、少し不機嫌になりながらも母親は一切関わっていないと否定して、その場を後にした。


凄く失礼な人がこの世の中に入るのだなと思いながらも、玄関にて少し怒りながら上履きに履き替えていると


「よっ、高校一の美魔女」


そう言ってきたのは小学校からの幼馴染である宮内幸男だった。彼は小学校以来一緒に学園生活を送っており、今では親友みたいに仲が良い。いつも自分を見つけては「美魔女」と呼んでくるため、少し鬱陶しく感じながらも、笑顔で「違う」と返した。


すると幸男が突然


「それより、駐輪場で話していたのって誰?」


やはり見られていたか、それに一番見られてほしくない人物に見られたと思い、面倒なことになったなと感じて、不機嫌になりながらも何もないと言った。


すると幸男は自分に顔を近づけて、明るい表情で


「そんな寂しいこと言うなよ。別に誰かに言う訳じゃないし、何かあったら協力はするぞ」


幸男は微笑んでから、その場を離れようとした。でもよく考えてみれば、彼は私の唯一の幼馴染だし、共に学園生活を送ってきた同士だから、折角手を差し伸べてくれているため、自分は大声で呼び止めた。


そこから自分はあの男は刑事で、自分の母親に関して調べていると話した。


「つまり、尚子おばさんが殺人犯で疑われているってことかぁ」


自分は小さく頷いた。


幸男は尚子と仲が良く、家に遊びに来たときは幼馴染ということだけで、お小遣いを渡すほど可愛がってもらっていた。


そのため、少し考え始めてから


「でも、一つだけ気になることがあるんだ」


「気になること?」


幸男から出た一言に驚きながらも、尋ねてみた。



それは三日前のこと。幸男が自分の家に遊びに来た時のことだった。お手洗いを借りに一階のリビングを通った時だった。


尚子がどこかに電話をしており、こう言っていたという。


「整形の件なら、既に五十万円はお支払いしたはずです。もう五十万?・・・分かりました。来週には用意します」


それは自分としても初耳なことだし、それに尚子が整形していたという話は当然聞いたことがないし、それに五十万をどこだか知らない相手に払っているなんて、もちろん知らないことだし、初耳なことだらけに少し言葉が出なかった。


「よし、調べてみよう。お母さんのこと」


いきなり幸男が言ったため、つい頷いてしまった。少し心の整理をつかせる時間が欲しかったが、謎だらけの母親のことも知りたいと思い、行動に出ることにした。



とりあえず、午前中の学校生活を終えてから、二人はそのまま役所に向かった。


半信半疑の気持ちだが、役所には戸籍謄本というのがある。それを見れば、本当に尚子という人物が存在するかどうかを確かめることができる。


話が極端すぎると言われたらそうかもしれないが、念のためという言葉がある。実在していれば、もしかしたら整形という話も、部分的なことかもしれないし、色々なことを想像できる。そのために念のために戸籍を調べることにしたのだ。


しばらくしてから、戸籍謄本を取得して確認することができた。


そこには確かに亜弥の母親は「小沢尚子」という記載がされていた。やはり、整形という話は部分的にしたものかと、幸男は少し落胆していると


「ねぇね、ここ見て」


自分がとある不自然な個所を見つけた。そこには生年月日が「2002年4月22日」と記載されていた。しかし、自分は「4月30日」が誕生日だと聞かされており、毎年その日には誕生日パーティーを開いていたほどであった。


それを聞いた幸男は、すぐに戸籍謄本を確認してから


「確かに俺も4月30日が誕生日だと思っていたし、それに亜弥のお父さんって確か亡くなっていたよな」


確かに自分の父親は生まれる前に病死していると聞いている。しかし、戸籍謄本には父親は死亡しておらず、現在も神奈川県に住んでいるということが分かった。


それは明らかにおかしいことだ。そう思い、自分は幸男を連れてとある場所に向かった。


そう、警察署に・・・・


~第2話終~

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