20.それから
結果として、私は歌劇団の付属学校に合格して、入学することができた。
千草ちゃんも香織ちゃんも桃ちゃんも一緒だった。
四人で合格することができて、私と千草ちゃんと香織ちゃんと桃ちゃんは、ものすごく喜んだ。
合格発表を見に行くときには、自分の番号も気になっていたが、千草ちゃんと香織ちゃんと桃ちゃんが受かったかもものすごく気になっていた。
「私の番号、あったわ!」
「私も!」
「暁ちゃんと千草ちゃんも? 私もよ!」
「嬉しい、みんなで合格したのね!」
合格者の番号の張り出された掲示板の前で、私と千草ちゃんと香織ちゃんと桃ちゃんは抱き合って、泣いてしまった。
「本当によかった」
「これで終わりじゃないのよ。これが始まりよ」
「分かってるけど、スタートラインにも立てなかったらどうしようって思ってた」
「みんな、一緒ね」
泣いている私を千草ちゃんが鼓舞するが、その千草ちゃんの目も濡れている。香織ちゃんは不安を吐き出し、桃ちゃんはみんなで合格できたことに喜んでいる。
合格祝いには、桃ちゃんからリクエストが入った。
「バーベキュー、すごく楽しかったの。私、初めてだったから」
バーベキューで合格祝いをしたいという桃ちゃんに、パパは張り切ってバーベキューセットを用意してくれた。
みんなで食べるバーベキュー。
これからは寮に入るので、気軽にはできなくなる。
私はバーベキューを満喫した。
「暁ちゃん、食べ過ぎないのよ!」
「今日くらいいいじゃない」
「その油断が……まぁ、お祝いだし、いいか」
ママもその日だけはたっぷり食べても私を叱らなかった。
入学が決まると慌ただしく準備に入る。
校則を確認して、寮に持って行けるものを準備して、制服の注文もする。
校則は厳しく、寮に持って行けるものも制限があったが、それでも歌劇団の一員となれるスタートラインに立てたのだという思いが私の胸の中にあった。
四月、私は千草ちゃんと香織ちゃんと桃ちゃんと一緒に、歌劇団の付属学校の入学式に参加していた。
髪が短い私はそのままだが、髪の長い千草ちゃんと桃ちゃんは校則通りに三つ編みにしている。香織ちゃんは私と同じで髪が短いのでそのままだった。
これから二年間、私と千草ちゃんと香織ちゃんと桃ちゃんは、歌劇団の付属学校で勉強していくことになる。
歌やダンスから楽器演奏、普通の授業に、化粧講習まであるカリキュラムをこなさなければいけない。
入寮してしまうと、長期休みにしか家に帰れないようになるので、私は旭くんのことが一番心配だった。
「旭くんが私のことを忘れないように、毎日電話するからね」
「旭くんは暁ちゃんを忘れたりしないわ」
「ねぇね、いってらったい」
「行って来るわね」
入寮の日に旭くんに送り出されて私は泣いてしまった。
それも今ではいい思い出。
二年間、寮で過ごして、長期休みに帰ってくる生活でも、旭くんは私を忘れることはなかった。
「旭くん、私のこと見つけると、走って来たのよ」
「千歳くんも私を見ると走って来るわ」
「沙織ちゃん、私と寮に行くって泣くのよ」
旭くんは私を忘れていないし、千歳くんもそうだったが、沙織ちゃんは香織ちゃんを困らせているようだ。
まだ入学できる年ではないが、沙織ちゃんも歌劇団の付属学校を目指すことになる。
入学から二年経って、私と千草ちゃんと香織ちゃんと桃ちゃんは初舞台に立った。
学園祭でも舞台には立っていたが、それとは全く違う高揚感があった。
憧れていた夢の舞台に立てている。
夢は現実になりつつあった。
初舞台に立っても、それがゴールではない。
私の夢は歌劇団のトップスターになることだ。
歌劇団の付属学校を卒業しても、毎日練習は続いた。
舞台の稽古の他に、自分の技術力を伸ばすために、基礎練習は欠かせない。
私が残って練習していると、千草ちゃんも香織ちゃんも桃ちゃんも一緒に練習してくれた。
私が頑張れたのは仲間がいたからだった。
千草ちゃんと香織ちゃんと桃ちゃんがいなければ、トップスターになる夢を途中で諦めていたかもしれない。
歌劇団の付属学校を卒業して十年、私は歌劇団のトップスターに選ばれた。
もちろん、ペアは千草ちゃんだ。
香織ちゃんが男役の二番手で、桃ちゃんは娘役の二番手になっていた。
トップスターに選ばれた記者会見で、私と千草ちゃんはこれからの抱負を言った。
「私がここまで来られたのは、応援してくださるファンの皆様と、一緒に舞台に立つ劇団員のみんなのおかげだと思っています。協力して舞台を作り上げる精神を忘れずに、これからも努力していきたいと思っています」
「娘役トップに選ばれてとても光栄です。これが私一人の力ではないことは分かっています。これからもファンの皆様のお力を借りて、劇団員のみんなと共によりよい芝居をしていきたいと思います」
何枚も写真を撮られて、私と千草ちゃんは二人並んで、次の公演のポスター撮りもした。
香織ちゃんと桃ちゃんは、二人でペアを組んで主演の舞台が決まっていた。
トップスターに就任してから初めて家に帰ると、旭くんは光輝くんと部屋で遊んでいるようだった。
旭くんも成長して、思春期になっていて小さな頃とは全く違っている。
私が部屋に戻ろうとすると、インターフォンが鳴った。
「暁ちゃん、遊びに来たわよ」
「歌劇団でも一緒なのに、プライベートも一緒なんて」
「いいじゃない。お隣りの棟なんだから」
やって来た千草ちゃんに笑っていると、私の足元で『きゅぅん』という声が聞こえた。
足元を見ると、子犬さんがいる。
歌劇団の付属学校に入学してから、私は全く守護獣さんが見えなくなっていた。
見えなくても黒い影は見えるのだから、苦労はしたが、黒い影はみんなで協力すれば祓えると分かっていたので、私と千草ちゃんと香織ちゃんと桃ちゃんで協力して祓ってきた。
「子犬さん……ずっとそばにいてくれたのね」
「暁ちゃん、見えるの?」
「見えるわ。今なら、子犬さんと鶏さんの声も聞こえそうな気がする」
部屋に行って私は机にタロットクロスを広げて、タロットカードを混ぜる。
タロットカードの全てに指が触れるように意識して混ぜて行くと、子犬さんや千草ちゃんの鶏さんの声が聞こえてくる気がする。
一枚タロットカードを捲ると、恋人のカードの正位置が出た。
意味は、心地よさだが、恋人のカードは狼の番が描かれていて、子犬さんを表すカードでもある。
『やっと夢を叶えたね。おめでとう。僕の正体も、今ならば教えられるよ。僕はフェンリル。暁ちゃんの守護獣だよ』
子犬さん、もとい、フェンリルさんの言葉に私は驚いてしまう。
フェンリルとは北欧神話の幻獣ではなかっただろうか。
「千草ちゃん、私の子犬さん、子犬じゃなくて、フェンリルだった!」
「すごいわ、暁ちゃん」
続いてタロットカードを一枚引くと、太陽の正位置が出て来る。
意味は、喜びだが、このタロットカードは太陽のカードに鶏が描かれているので、鶏さんのカードでもあった。
『おめでとうございます、暁ちゃん、千草ちゃん。私も本当のことを伝えましょう。私はフェニックスだったのです』
尾長鶏だと思っていた鶏さんは、実はフェニックスだった。
「千草ちゃんの鶏さんはフェニックスだったんだって」
「そうなの!? フェニックスって、不死鳥でしょう?」
私にも千草ちゃんにもものすごい守護獣さんがいてくれて守ってくれていたようだ。
『姿を隠したのは、僕たちの力ではなく、自分の力で暁ちゃんと千草ちゃんに夢を叶えて欲しかったからだよ』
『これからは、また傍にいます。お話もします』
恋人のカードと太陽のカードに触れていると、フェンリルさんとフェニックスさんの思考が流れ込んでくる。
「私、また見えるようになる。また守護獣さんとお話しできるようになる!」
「本当、暁ちゃん?」
「フェンリルさんとフェニックスさんがそう言ってる」
「よかったわ、おめでとう」
このことが私には何よりもお祝いに思えていた。
歌劇団の付属学校入学と同時に完全に見えなくなっていた守護獣さんがまた見えるようになる。タロットカードを介して会話もできるようになる。
これが夢を叶えた結果ならば、努力してきた甲斐があるというものだ。
私はトップスターとして舞台に立つ。
守護獣さんたちに見守られて。
暁に高く翔べ 秋月真鳥 @autumn-bird
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