少女の微笑 下の巻
そして「こんなに綺麗な目をしていたんだ」そう思った少年に、少女は告げた。
「幼稚園の桃組以来、幾多のクラス替え&進学を乗り越え、ずっと同じクラスだったわたしに対して、それはないんじゃない?
今年で10年目だよ!ふぁいの中に愛はあるの?」
「ふぁい」懐かしい響きだ。
幼稚園の頃は、確か呼び捨てだった。
当時【Φ】のTシャツを着ていた少年に、少女が着けたあだ名だ。
幼稚園児が【Φ】の文字を知っていたことに、少年は驚いた。
今でも、少年は『ふぁい』と呼ばれている。
とてもお気に入りなのは言うまでもない。
ふぁいは、長い事考えて答えた。
「ない。思い当たるとこもない」
水浸しの少女は立ち上がると、
「ふぁい、ちょっとその場で跳んでみて」
と学級委員長としてあるまじき台詞を言った。
ふぁいは素直に、ぴょんと跳んで見せた。
するとジャージのポケットから、グラスの中の氷が弾けた様な不思議な音がした。
少女は、ふぁいのポケットから、何かの欠片を取り出した。
見えない何か。
でもそれは、とても大切にしていたモノであることは、ふぁいにも解った。
「あるじゃない、10年分も」
「10年分も?」
「10年分の愛。あなたが贈るべきだった愛。
私が受け取るべきだった愛」
少女は、その欠片を自分に振り掛けた。
すると少女の可愛さが、120%アップしたように見えた。
「ふふん」
少女は微笑んだ。
その微笑に、ふぁいの心の氷河が崩れ去り、ずっと少女に、時めいていた事実に気づいてしまった。
出会った頃から、ずっと好きだったと言う事実を。
照れまくったふぁいに、立ち尽くす以外、成す術はなかった。
野外にある古時計が、0時0分を周り、日付が変わった。
学級委員長の少女はそれが、『人生のシーズン2が始まった』合図だと思った。
おしまい
学級委員長の少女、水たまりで転ぶ。 五木史人 @ituki-siso
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