学級委員長の少女、水たまりで転ぶ。

五木史人

少女の微笑 上の巻

林間学校最中の23時45分。 

無口な少年は夕方から降り始めた雨が、止んだことに気付いて、バンガローの外に出た。雨上がりの森の空気は、とても透き通っていた。


夏の終わり、秋の始まりに、虫の音が闇夜に鳴り響いていた。

来年は高校受験が始まる。結果によっては人生が変わる。

その切迫感を虫の音が紛らわしてくれていた。


無口な少年は、バンガローを抜け出すと、自販機の明かりの方へと向かった。

寝静まった訳ではないのだろうが、バンガローの外に出て来る生徒の姿はなかった。


見かけたのは、学級委員長の少女だけだった。

学級委員長として、やることが色々あるのだろう。


その、いつも生真面目な雰囲気を漂わせている学級委員長の少女が、何かに躓いて水たまりに勢いよく転んだ。


無口な少年は、学級委員長の少女と、そんなに親しくはなかったので、水たまりで水浸しの学級委員長の少女をよけ、無言で立ち去ろうとした。


ふと振り返ると、学級委員長の少女は、少年を見上げていた。


そして真面目な学級委員長の少女とは、思えないほど、ホラーじみた視線を送った。

美しさと生真面目さが入り混じったその表情は、少年を恐れさせた。



つづく

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