父に愛されなかった男の哀しみ

春秋時代、紀元前538年頃の逸話を元にえがかれた作品であるが、時代背景などを深く考えず、ぜひお読みいただきたい。

これは父に愛されなかった哀しい男の話である。

主人公である牛は現代で言う私生児である。当時では珍しくはないだろう。しかし、醜い容貌と共に父がいないというものは、彼のアイディンティティに揺らぎと傷をつけている。母の愛を疑っているわけではない。母の愛を絶対とするからこそ、父が母を愛しんでいたかは重要であろう。

しかし、再会した父親は牛を子として扱わず、現代でいう執事とした。そこに愛は無く、牛の母が死んでも一顧だにしていない。
母を蔑ろにされた傷は彼の心を捻じ曲げていく。牛は母が愛されなかったことと己が蔑ろにされたことがイコールになっており、そこに彼の孤独と哀しみがある。彼はある意味、母と自他未分離のまま、父と相対しているのかもしれない。

牛に誠実な態度で接したのは一人だけであったが、その時の会話がきっかけで、彼の傷は『恨み』という指向性を持った感情となってあらわになる。

彼は、母以外を信じることも愛することもできなかった。その哀しい孤独は、怨毒となり、周囲とそして牛自身を焼き尽くしていく。

最後まで読んで、彼の哀しく愚かな人生を静かに味わってほしい。

それはそれとして、叔孫氏=イケメンなんですよね。有名どころみんなイケメンて気がします。