07.でっかい、でっかい、愛の人。(5+4+1)

 志村貴志。

 名前にふたつの「志」を持つこの男は

 なんというか、初めて出会う類の、不思議な不思議な人種だった。


「ちゃんと歯医者行ったよ、俺」


 歯医者行ったなんて、同級生の男にキラキラ笑顔で報告するようなことではないし。


「おー。偉い偉い」


 あきらかに適当にあしらわれているのに、 だろって、なんかむちゃくちゃ誇らしげだし。


「……シムラってさあ」

「ん?」

「むちゃくちゃ、イチ好きな」


 見ていて恥ずかしくなる、というか。

 正直、よくわからない。


「だってイチが行けって。心配するから」

「だってお前痛い痛いうざいんだもん」

「心配してくれてありがとうね」

「いや、だから。聞け?」


 俺は高校からだけど、他の奴らがいうには、こいつらは中学時代からずーっとこんな感じらしい。

 押すシムラ。

 かわすイチ。

 5年もそんなことしてるいるのに、全く関係が変わらないというのだからそれもまたすごい。


「んでさ、聞いてよ。俺、歯医者すんげー苦手なんだけどさ。行った歯医者、先生がめっちゃ美人だったの」

「そりゃ良かったな」

「うん。もーガン見しちゃった。そしたらあーっという間だったよ」

「ちょ、待て」

「何、ごろー」

「お前女好きなの?」


 そもそも、シムラの「好き」って何なんだろう。


「当たり前じゃん。女の子好きだよ。ふつーに」

「イチのことは?」

「んー? 大好き」

「……だーかーらーぁ。そこんとこがまったく、さっぱわからないんだって」


 女の子への好きと、イチに対する「大好き」が違うのはわかる。

 わかるけどその「大好き」は女の子にむけるそれとどっちがでかいんだ。

 「大」好きなんだからイチ? でも、恋愛ではない? 

 わからない。いくら考えても、わからない。


「悟郎、あんま深く考えんな」

「イチ……いや、お前は考えたほうが」

「……俺は考えても無駄だってわかってるから」

「…お……重い一言だな」

「いや、変な意味はなくて」


 イチは読んでいた雑誌から顔を上ると 

 ふ、と小さく笑いながら、それをそっとシムラの頭に乗せた。


「こいつの頭ん中にはな、でっかいフォルダが2つしかないの。好きか、嫌いか。シンプルイズベスト。種類だの意味だの、そんなのはどうでもいいんだ」


 上手くバランスを取ろうとするシムラを置いて

 そのまま席を立つ。


「俺ちょっと早坂部長んとこ行ってくるから。昼休み中に戻ってこなかったら、鍵返しておいて」

「はーい」

「頼んだよ、副部長」


 副部長、と改めて呼ばれて、頼むよ、といわれて。

 それが余程嬉しかったのか、志村は頭の上の雑誌を忘れ、満面の笑みでイチを見送った。


「……流石」


 流石、扱い方を心得ている。

 それに


「すごいでしょ」

「ん?」

「自分のことをここまで理解してくれる人なんて、一生のうちに何人もいないよ、絶対。ならその人の事をずっとずっと大事にしたくない? 特別だって、思わない?」


 いつもうざいだのキモいだのと言いながら

 自分に一番近い奴のこと、ちゃんと見てた。


「だから。なんでもいいんだよ。俺は」


 わかりにくい優しさや親愛は、受け止める側の技量も問われる。

 床に落ちた雑誌を拾いあげて、にっこりと笑うシムラに

 この時初めて、バカの皮の下の「本質」を見たような気がした。


「……でっけーなあ」


 ああ、でかい。

 でかすぎて、やっぱりよくわからい。


「何が?」


 好きでいることが一番で

 その種類は問わない。


「んー……愛、なのかなあ」


 それはある意味、究極の

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