第10話これがぼくのグッドシナリオ

グッドシナリオに文章を書きこむぼくを見て、みんなはぼくの方を見つめていた。

『ミライ、果たしてなんて書くか・・・?』

「いよいよ来るか・・・」

そして書き終えると、グッドシナリオが光りかがやいた。

そしてグッドシナリオの光りが消えた、ミライとムナスマンとナイラとエンガーとランヤは、「あれ?」という顔で辺りを見回している。

そしてぼくはムナスマンにむかって優しく言った。

「ムナスマン、ぼくはきみをゆるすことにしたよ。」

ムナスマンはポカンとした顔で、ミライに言った。

「えっ・・・、ミライはそれでいいのか?」

「だって、これを見てよ。」

ぼくはグッドシナリオに書きこんだことをムナスマンに見せた。

『父さんがやり残した願いが叶いますように。』

「父さんが教えてくれたんだ、いいことをすれば自分も相手も楽しくなるって、だからぼくと父さんとムナスマンと村のみんなが楽しくなる願いを書きこんだんだ。だから、ムナスマンはもう何も悪くない、最初から悪者はいないんだ。」

ぼくの声を聞いたムナスマンは、少しだけ涙を流しながら言った。

「ミライ・・・、さすが元気の息子だな。」

ムナスマンは立ち上がると、鎧を装着して剣を持った。

「師匠・・・、ケジメはついたのですか?」

ナイラたちが心配そうな顔でムナスマンに質問した。

「ああ、しっかりとつけてきたよ。」

「よかった・・・。」

ナイラたちはホッと胸をなでおろした。

そしてムナスマンはぼくに言った。

「これからきみのことを、ボスに報告するよ。でも安心して、ボスはきみをグッドシナリオの所有者であることを認める。そしてこれからもきみの近くにいる、困った時はいつでも頼りにしてくれ。それじゃあ、また会おう。」

「うん、またね。」

『さようなら、ムナスマン。』

こうしてムナスマンはナイラたちと一緒にその場を去っていった。

『まさか、自分が代わりに父さんの願いを叶えるとはなあ。ミライらしいといえばそうだが、本当にこれでよかったのか?』

「うん、父さんはぼくがムナスマンを倒すことを願っているわけじゃないし、ムナスマンを倒しても楽しい気分にはならないからね。それならぼくが父さんの代わりに、父さんの願いをかなえてあげようと思ったんだ。」

『なるほど、さすがミライだ。やはり君がグッドシナリオの所有者でよかったよ。』

メイクは顔を少し赤くしてうれしそうな顔をした。

「ねぇ、これからどうしよう?」

『どうしたの、ミライ?』

「ムナスマンにはもう出会えたし、これから何をどうすればいいのかわからないんだ。」

『そうだな・・・、目的なんてなくてもいいんじゃないか?』

「え?どういうこと?」

『とくに何も考えず、使いたい時にグッドシナリオを使えばいいんだよ。』

「そっか・・・、これからいろんなことがあるから、その時にグッドシナリオを使って、みんなを楽しい気分にさせたらいいんだ。」

ぼくはこれからの目標ができて、ウキウキした気持ちになった。







そして家に帰って、グッドシナリオを机に置いた時、メイクがあることに気づいた。

『グッドシナリオが、光りかがやいている。これってまさか・・・!』

メイクはグッドシナリオの裏表紙の後ろを開いた、すると円のなかに複雑な線がたくさんある模様みたいなのが見えた。

「メイク、これはなに?」

『これは、解放の魔方陣だ。魔方陣に手をかざしてみて。』

ぼくは魔方陣に手をかざしてみた、すると魔方陣の中から一枚の紙が現れた。

「メイク、この紙は何?」

『これは更新の契約書だ、これに契約すると、グッドシナリオのルールが大きく変更された状態で、使用することができる。』

「グッドシナリオのルールが変更されるって、どういうことなの?」

『まず、書き込みの制限がなくなる。どんなにたくさん書きこんでも、すぐにページが元通りになる。さらに契約者が許可すれば、他の人にもグッドシナリオを使用することができる。』

「じゃあ、八倉くんもグッドシナリオが使えるようになるということだね!」

『ただし、一度に許可できるのは一日三人までだ。そして君にも、ぼくと同じく管理者権限を使うことができる。』

「へぇー、さらに使いやすくなるんだね。」

『それと、願いの解釈も少し変わったよ。』

「えっ、願いの解釈が変わったってどういうこと?」

『前にきみは死んだ父さんに会おうとしたよね、あの時は君が死ぬことで願いを叶えるという解釈だったけど、今ならこの場に死んだ父さんを呼ぶことができるよ。』

「えっ!?本当なの?」

『試してみたかったら、更新の契約書にサインをすることだ。』

「うん、わかったよ。」

ぼくは契約書にサインをして手形を押した、すると契約書はグッドシナリオの中に吸い込まれていき、グッドシナリオは再び閉じてぼくの机の上に置かれた。

「これで、更新が完了したということだね。」

『ああ、そうだ。書いてみてごらん』

ぼくは更新したばかりのグッドシナリオに、願いを書きこんだ。

『死んだ父さんに会えますように。』

するとグッドシナリオが光だして、ぼくのすぐ近くに魔方陣が現れた。

「これは何?」

『これは、死んだ者を呼び出す魔方陣だ。』

そして魔方陣から少しずつ人の姿が現れた、そしてその姿はぼくのお父さんの姿になった。

「お父さん・・・」

「久しぶりだな、ミライ。お前に会えなくなってしまい、申し訳ない・・・。」

「いいよ、ぼくにはメイクとグッドシナリオがあるから。」

「グッドシナリオ・・・、たくしてくれたんだ。」

「父さん、どういうこと?」

「実はな死ぬ前に、お願いしたんだよ。ミライに、このグッドシナリオをたくしてくれって。ムナスマンにはすまないことをしたなあ・・・」

「だいじょうぶ、ムナスマンも父さんを倒してしまったこと、申し訳なく思っていた。もうだれも悪者はいないから。」

「よかった、これで心残りはない。ミライ、父さんはこれからもミライのことを見守っている。そしてグッドシナリオを大切にするんだぞ。」

「うん、大切にするよ。」

すると魔方陣の光が弱まり、お父さんの姿が薄くなってきた。

「ごめん、ミライ。行かなきゃいけない時が来たようだ。」

「父さん・・・、会えてよかったよ・・・」

だけど父さんはもうすぐ消えてしまう、さみしくてなみだがこぼれてきた。

「ミライ、泣くな。父さんはいつでもお前を見守っている、お前がいいことをして自分もみんなも楽しませているならな。」

「父さん、ぼくこれからがんばるよ・・・」

「ああ、その意気だミライ!」

そしてお父さんは、魔方陣と一緒に消えた。

『よかったな、ミライ。』

「うん、父さんに会えたよ・・・」

ぼくはうれしくて、しばらく泣いていた。








それから翌日、ぼくは学校に行くと八倉くんが声をかけてきた。

「なあ、あれからムナスマンはどうなったんだよ?父さんの敵は討てたのか?」

「ああ、八倉くん。敵を討つのはやめたよ。」

「えっ?なんで止めたの?だってそのために、ムナスマンに会いたがっていたじゃないか。」

「そうだよ、だけどムナスマンの話を聞いていたら、敵を討つ気分じゃなくなってさ。」

ぼくは八倉くんに、ムナスマンから聞いた話を話した。

「つまり、ムナスマンはお父さんと村のために仕方なく父さんを倒したのか・・・、なんだかせつないなあ・・・」

「うん、父さんが始めにグッドシナリオを使って願いを叶えようとしていたとは、おどろいたよ。だから、ぼくが父さんの代わりに願いを叶えてあげたんだ。」

「そうか、それはいいことしたなミライ。」

「後ね、グッドシナリオが更新されたんだよ。」

「えっ、グッドシナリオが更新ってどういうこと?」

「今まではぼくしかグッドシナリオに願いを書きこむことはできなかったけど、これからは三人までなら他の人にも書きこめるようになったんだ。」

「えっ、ということはおれもグッドシナリオを使えるのか?」

「うん、友だちだもん。使っていいよ」

「ひゃっほーっ!グッドシナリオが使えるなんて夢みたいだぜ!さて、何に使おうかな・・・?」

八倉くんはページをめくりながら、ニヤニヤした顔をしていた。

「あっ、でも自分勝手なお願いはダメだよ。そんなことを書きこんだら、使えなくなってしまうからね。」

「そっか、わかったよ。」

「ねぇ、二人で何を話しているの?」

「あっ、溝口くん。」

溝口くんが声をかけてきた、実は溝口くんにはさみしい話がある。

「あっ、そうだ!溝口、グッドシナリオ使ってみないか?」

「グッドシナリオってなに?」

「ちょっと、八倉くん・・・」

「いいじゃん、ミライ。もうすぐお別れなんだし、最後に何か願いを叶えてもらってもいいじゃないか。」

実は溝口くんは、親の都合で後一週間後には引っ越ししてしまう。なので最近の溝口くんはとてもさみしそうな様子だった。

「ねぇ、このグッドシナリオって本は願いを叶えてくれるの?」

「ああ、そうだよ。溝口の願いを書きこんでみなよ。」

「ぼくの願いか・・・、今すぐにはうかばないよ。後でいいかな?」

「そっか、いいの考えてこいよ!」

そして溝口くんは席から離れた。

「溝口くん、なんて書くんだろう?」

「さあね、ところで溝口のお別れ会のプレゼント、考えて来たか?」

実は引っ越しする前日、五時間目の授業を使って溝口くんのお別れ会をすることになっている。そこでクラスでグループに分かれて、溝口くんに渡すプレゼントを考えてくるようにと担任の先生から言われているのだ。

「ぼくはまだ何も考えてないな・・・、八倉くんはどう?」

「おれもまだだぜ、どうせなら溝口くんと遊んだゲームのカードを一枚プレゼントしたいけどよ。」

「なに言っているの八倉くん、プレゼントとはいえカードは学校に持ってこれないわよ。」

美紀さんが話しに入ってきた。

「そうか、それじゃあ美紀のグループは何をプレゼントするんだ?」

「ハンカチよ、手作りの。」

「手作り!?すごいなぁ・・・」

「すごくないわよ、私が手作りのハンカチがいいって言ったら、みんながそれでいいとなっとくしてくれただけよ。」

美紀ちゃんは裁縫が得意で、部屋に飾る小物や雑巾・ハンカチなどの日常で使うものまで作ることができる。でもぼくは美紀さんみたいに、何かを手作りすることはできない。

「やっぱり、ぼくはこのグッドシナリオで何かあげたいな・・・」

でも何をプレゼントすればいいのかわからず、家に帰る時に溝口くんに直接聞きに行くことにした。

そして下校の時間、ぼくは溝口くんに声をかけた。

「ねぇ、溝口くん。ちょっといい?」

「ん?どうしたの、日野くん?」

「溝口くんは、もしもらったらうれしいものって無いかな?」

「もらったら、うれしいもの・・・。」

溝口くんは少し考えた後で、ぼくに言った。

「あるにはあるよ、だけどそれはみんなの力を借りても、もう手に入らないから。」

「だいじょうぶ、どんなものでもグッドシナリオがあれば手に入るから。」

「グッドシナリオって、さっきみんなに言っていた本のこと?あれ、本当にその通りになるの?」

溝口くんはグッドシナリオのことを全然信じていない。

「だいじょうぶ、ぼくを信じてよ!」

ぼくは溝口くんに顔を寄せて、強く訴えた。

溝口くんはおどろきつつも、小さな声で言った。

「・・・東西堂のお好み焼きかな。」

「ああ、あそこのね。」

東西堂は昔ながらの建物が立派なお店で、そこで食べれるお好み焼きはお店で一番のメニューだった。だけど今から二年前に、東西堂は閉店してしまったんだ。あのお好み焼きが食べられないのは、もう残念だよ。

「あの味がどうしてもわすれられなくて、自分で作ってみたけど東西堂みたいな味にはならなかったなぁ・・・。」

「わかったよ、ぼくがもう一度東西堂のお好み焼きを食べさせてあげる。」

「えっ?でも、東西堂はもう無いんだよ?」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ!必ず食べさせてあげるから。」

そしてぼくは溝口くんに小声で言った。

「お別れ会が終わったら、校舎裏に来てね。」

そしてポカンとした表情の溝口くんを残して、ぼくは帰宅した。

そして机の上にグッドシナリオを置いて、こう書きこんだ。

『溝口くんがお別れ会の後に、東西堂のお好み焼きが食べられますように。』

さあ、当日が楽しみだ。








そしていよいよ、溝口くんのお別れ会をむかえた。

グループごとに溝口くんへ、プレゼントが渡されていく。

ちなみにぼくたちのグループは、文房具の詰め合わせを渡した。

「ありがとう、うれしいよ!」

プレゼントをもらう度に、溝口くんはみんなにお礼を言った。

そしてお別れ会が終わった後、メイクが言った。

『もうすぐ、願いがかなう時が来るぞ!』

ぼくはうなずいて、溝口くんのところへ向かって走り出した。

そして溝口くんを見つけた、彼はとてもおどろいた顔をしていた。

「ミライくん、これ見てよ!」

溝口くんの目の前には、光かがやく穴があった。

『この先に、願いをかなえるものがある。さあ、くぐっていけ』

「うん、わかった!」

そしてぼくは溝口くんの手を取ると、穴の中へと走り出した。

「うわぁ、一体どうなっているの?」

「だいじょうぶ、これで君の願いがかなうから!」

そしてぼくと溝口くんは、穴の中へと入っていった。






穴の中へ入ると、ぼくと溝口くんはなつかしい気分を感じた。

「ここは・・・、東西堂!?」

「うん、まちがいないよ。」

「そんな、だってもう閉店したはず・・・。もしかして、タイムスリップした!?」

溝口くんは辺りを見回しながらビックリしている。

すると奥の方から、優しそうなおばあさんが現れた。このおばあさんは冬美さんと言って、東西堂の店主だ。

「あら、いらっしゃいませ。」

「こんにちわ、冬美さん。」

「お好み焼き二つね、今焼きますから待っていてください。」

「えっ!?でも、ぼくお金持ってないし・・・」

「そんなこと気にしないで、待っていてね。」

そう言うと冬美さんはお好み焼きを作り始めた、ぼくと溝口くんは席にすわって待つことにした。

「ねぇ、冬美さんにもうしわけないよ。やっぱり、家に帰ってお金持ってくる。」

「いいよ、気にしないで。せっかく君の願いがかなうから、待っていようよ。」

「・・・ミライ、ありがとう。」

そして待つこと十五分、「お待ちどうさま」と冬美さんがお好み焼きを二つ持ってきた。

「ああ、このいいにおいがたまらないよ。」

「うん、そうだね。」

そして溝口くんとぼくはお好み焼きを食べ始めた。

「お・・・美味しい!この味だよ!」

「うん、とても美味しいね。」

口に入れると、香ばしい美味しさが広がってくる。やわらかいだけでなく、キャベツやぶた肉が歯ごたえをよくしている。

ぼくと溝口くんは、お好み焼きを最後まで堪能した。

「美味しかったよ、ありがとう!」

「うれしいね、ほいじゃあまたね。」

すると冬美さんの姿がすぅと消えてしまった。

「あれ!?冬美さんが、消えちゃった」

『そろそろ時間だぞ、ここから出よう』

「うん。溝口くん、行こうよ!」

そしてぼくは溝口くんの手を引いて、また穴をくぐって元の世界へともどってきた。

ぼくたちが出ると、穴はすっかり消えてしまった。

「ミライくん、ありがとう。もう一度東西堂のお好み焼きが食べられて、とてもうれしいよ。」

「うん、どういたしまして。」

「あー、これできみとお別れか・・・。もっと早く出会いたかったよ・・・」

「だいじょうぶだよ、もうぼくたちは友だちだから。」

そしてぼくと溝口くんは、一緒に話しながら楽しく家へと帰っていった。





そして一週間後、溝口くんは引っ越し行ったけど、溝口くんとは手紙でやり取りしている。

そして溝口くんへの手紙を出しに行った帰り、ムナスマンに出会った。

「久しぶりだな、ミライ。」

「ムナスマン、久しぶり。またぼくのこと見に来たの?」

「ああ、そのことなんだが、しばらく私は外れることになった。」

「えっ、なんか用事ができたの?」

「ああ、ボスからの命令でな。しばらく君には会えなくなりそうなんだ。」

「そうか、それはさみしくなるね。」

「ああ、そうだね。でも君がグッドシナリオを持っていれば、また会えるさ。それじゃあね。」

「うん、またね!」

そしてムナスマンは去っていった。家に帰ると、メイクにムナスマンと会ったことを話した。

『そうか、あいつもミライのことを気にかけてくれているのだな。さて、次は何を書こうか?』

「うーん、何を書こうかな・・・」

ぼくとみんなの毎日に、願いをかなえるすばらしい本。

これがぼくのグッドシナリオだ。

終わり



































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ザ・グッドシナリオ 「ワニの騎士」 読天文之 @AMAGATA

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