第9話あの日、アフリカで

パワー・ストームから解放された男はなんとマツモンだった、この時はムナスマンのことに夢中で、すっかり気づいていなかった。

そしてぼくとメイクは、『ここはもうすぐ人がたくさん来る、場所を変えて話そう』というムナスマンの提案で、公民館の近くにある公園にやってきた。

『師匠〜っ!』

すると内藤さんとエンガーとランヤが、ムナスマンのところにやってきた。

『おう、来たか。』

『師匠、ついにやるのですね・・・』

『ああ、ケジメをつけなければならないからな。』

『師匠・・・、承知致しました。』

内藤さんが、ムナスマンのことを師匠と呼んでいる・・・?

どうしてと思っていると、メイクが口を開いた。

『やっぱりな・・・。お前、ムナスマンの弟子だったんだな。』

そしてムナスマンは内藤さんに言った。

『もうネタバレしてもいいだろ、ナイラ』

『わかりました』

そして内藤さんの姿が変わった、ムナスマンと同じく鎧を着た剣士になった。

『これが内藤さんの真の姿、私の一番弟子のナイラだ。』

「えっー!?」

ぼくは大声でおどろいたのに、メイクは平然な顔をしている。

「あれ・・・?メイクは、どうしておどろかないの?」

『そんなのとっくに分かっていたよ。』

『ちなみに、メイクはいつから分かっていたの?』

『運動会の日に、君がエンガーとランヤと会っていた時だよ。あの時はまだ確信が持てなかったけどね』

『そうか、簡単にバレてしまうとは・・・、私もまだまだですね。』

『さて、ミライ。これからどうする?父の敵をここで討つか?』

ムナスマンに質問されたぼくは、固まった。

ムナスマンはぼくのことを最初からわかっていた、もしかしてぼくの父さんを殺してしまったことを申し訳なく思っているのだろうか?

そしてぼくは、一番気になることをたずねてみた。

「ねぇ、ムナスマンはどうしてぼくのところに来なかったの?ぼくからグッドシナリオを取り戻してボスのところに届けるのが、ムナスマンの役目じゃなかったの?」

ムナスマンは少し考えると話し出した。

「少し長くなるけど、話を聞いてくれないか?」

ぼくがうなずくと、ムナスマンは語り始めた。






これは私が、グッドシナリオを求めてアフリカへやってきた時の話だ。パワー・ストームが作り出したものは、この地球のどこかに隠されていて、その詳しい場所は従者や能力者のみに知らされる。私のボスが能力者なので、私はボスからグッドシナリオの場所を知らされた。

私がワイバーンに乗って飛んでいるとき、密猟者に襲われていたのが、君の父親・日野元気ひのげんきだった。私は元気を助けたことですっかり仲よくなり、旅の途中の休息のため村まで案内してくれた。

村の人たちは元気のことをとても慕っていた、元気はここで村の暮らしをよりよくする活動をしていることを村の人からきいた。

「実はな、この村には電気が通っているんだよ。各家庭に蓄電池が一つずつ置いてあるんだ。」

村人の一人が、私に言った。

「電気があれば、暮らしがもっと楽になる。そうすれば、子どもたちものびのびと遊べるし、学校にも通えるようになるからね。」

『なるほど・・・、しかし蓄電池の電気がなくなった時は、どうするのですか?』

「よし、それなら元気さんに案内してもらえ。私がお願いしてみるよ」

こうして村人のお願いを聞き入れた元気さんは、私をある場所へと案内した。

そこは村から二百メートル離れたところにある開けた場所、そこにはなんと大きな太陽光電池がたくさんならんでいた。

「この太陽光発電で、村の電気をまかなっているんだ。電池が切れたら、みんなここまで蓄電池を持ってきて充電するんだ。」

「なるほど、画期的な取り組みですね。」

「ほめてくれてありがとう、だけど蓄電池は充電しないといけないから、ここまで蓄電池を度々運ばないといけない。それに蓄電池では使える電気が限られるから、みんな電気の使用は慎重なんだ。都会とくらべるとまだまだ楽とはいえないんだ。」

「なるほど、もっとよりよい生活にはまだまだ遠いですね。」

私は元気の理想に心から共感した。





そして翌日、私はグッドシナリオを探しに乗り出した。元気にグッドシナリオのことを話すと、興味を持ち『私も連れていってほしい!』と強く参加を希望した。

私は「グッドシナリオのことは、だれにも言わない、そしてグッドシナリオは盗まない」と約束をさせ、元気を同行させた。

道なき道を進み、道中に出てくる猛獣をかわして、ついにグッドシナリオが埋められているバオバブの木を見つけた。そして元気と一緒に根元を掘り起こすと、グッドシナリオを発見した。

「やった、これだ!」

「これがグッドシナリオ・・・、何が書かれているんだ?」

「グッドシナリオは基本何も書かれていない、願いを自分で書きこんで使うものだからな。」

「そうなのか・・・」

「では、これは私が持つ。約束のこと、忘れないでくれ。」

「もちろん、冒険に連れていってくれてありがとう。」

元気は満面の笑顔で言ってくれた。

そしてその日は、翌日私が帰るということでお祝いをしてくれた。

「みなさん、私なんかのために・・・。」

「いやいや、あなたに会えて私も村のみなさんもすばらしい経験ができました。本当にありがとうございます。」

そしてお祝いは、夜おそくまで続いた。







そして翌朝、私が村にある家で寝ていると、ワイバーンの騒がしい声で目が覚めた。

「どうした・・・?」

すると突然家がゆれるほどの地ならしが起きた。

びっくりしていると、家の主人が私に助けを求めてきた。

「ムナスマン、タスケテクダサイ!ゲンキサンヲ、ドウニカシテクダサイ!」

元気になにかあったと思った私が、荷物を持っていこうとした時だった。

「あれ!?グッドシナリオが無い!」

いくら捜しても、グッドシナリオは見当たらない。そして私はあるイヤな予感を感じた。

「ジジョウハアトデハナス、イマハゲンキサンヲ!」

私は主人と一緒にワイバーンに乗って、元気のところへと向かった。

ワイバーンから見下ろした光景は、ひどいものだった・・・。

穴だらけの地面、壊れた家屋、そして無惨に倒れている人や家畜・・・。まるでついさっきまで戦争があったかのようだった。

そして後ろに乗っていた主人が、申し訳なさそうに話した。

「ゴメンナサイ・・・、ジツハゲンキサンニタノマレテ、グッドシナリオヲモチダシテシマッタ・・・。」

「何だと、元気さんが・・・?」

一体、どうして元気は約束を破ってグッドシナリオを持ち出したのか?

その理由は主人が教えてくれた。

「ジツハ、太陽光発電所カラ村マデ、電線ヲヒク工事ヲスル計画ガアル。電線ガトオレバ、蓄電池ヲ運ブ必要ナクナル。ソウスレバ、村ノ生活ガモットラクニナル。」

つまり元気は太陽光発電所から村まで電線を引いて、村に電気を供給しようとしているということだった。

「ダケド問題ガアル、電線ヲ通ス工事ニカカル金ガタリナイ。他ノ村トモ協力シテ金集メテイルケド、全然タリナイ。ダカラ元気サンハ、団体ニ交渉シテ金ヲ出シテモラオウトシテイル。ケド上手クイッテイナクテ、悩ンデイタ。」

つまり、電線工事のための資金集めに行き詰まり、それでグッドシナリオの力で工事をするということか。

しかし理由はどうあれ、勝手にグッドシナリオを使うのはよくない。グッドシナリオを使うには、正式な契約が必要だ。

もし契約をしないで使うと、パワー・ストームの怒りを買い、膨大なエネルギーに飲み込まれることで理性が崩壊し、肉体が膨張し巨大化した魔神になってしまう。

そうなると命がつきるまで暴走し、命が完全につきた時、肉体がパワー・ストームとなって砕けちり、世界中に散らばってしまう。

「とにかく、もし元気がグッドシナリオを使ったとしたら一大事だ・・・。早く止めないと・・・」

私はワイバーンを早く飛ばして、元気のところへ向かった。

「ウガアアーーッ!」

「うわぁ、遅かったか・・・!」

ついに上空から元気を発見したが、元気はすでにパワー・ストームのエネルギーに飲み込まれ、暴走していた。このまま放置すると、魔神になるのは時間の問題だ。

「ここで食い止めるぞ!」

私はワイバーンを着陸させると、速攻で暴走する元気のところへ向かった。

「元気ー!」

「ウガアアーーッ!」

私は元気と衝突した、パワー・ストームの影響で元気の力はけた違いにはね上がっていた。

「ウオオーッ!」

「うりゃーーっ!」

私の剣が、元気の左腕を切り落とした。しかし元気の左腕は、すぐに再生してしまった。

「くっ、やはり化け物みたいな体になっている・・・。」

この状態から、元の人間に戻すことはできる。しかしその方法は、パワー・ストームの力が集中している心臓に、穴を開けてパワー・ストームの力を放出すること。

つまり、ことは不可能なのだ。

エネルギーにあふれている元気を相手に消耗戦は不利だ、一気にカタをつけなければならない。

私が覚悟を決めて剣を構えた時、私の後ろから声が聞こえてきた。

「ムナスマン!ゲンキサンヲ、コロサナイデクレ。カレハ大切ナ恩人ナンダ!」

確かに元気はここの人たちにとって恩人だ、今後の彼らにとっても、元気は必要だ。

しかしこのまま生かしておくことは、正直のぞめない。いずれ元気は完全な魔神になってさらに暴れ、結果的に甚大な被害が出てしまう。

私は元気を殺すべきか悩みながら、戦っていた。

「ウガアアーーッ!」

「グフォッ!」

しかし一瞬の隙をつかれた私は、元気の打撃で吹っ飛ばされててしまった。

なぐられた自分を心配した村の人たちがかけよってくる。

「ダイジョウブデスカ?」

「だいじょうぶだ、すぐに離れろ!」

私はすぐに立ち上がった、なぜなら元気が追撃のためにこちらへ勢いよく走ってくるのが見えたからだ。

元気がジャンプして攻撃、私は居合い抜きの体制を取った。

そして私が剣を抜いた瞬間だった、元気の様子が変わったのだ。

結果、元気の攻撃より早く私の居合い抜きがきまった。

一体どうしたんだと身構えると、元気の声がかすかに途切れ途切れに聞こえてきた。

「は・・やく、・・私を止めて・・くれ。グッド・・・シ・・ナ・・リオ・・を・・勝手に・・・使・・った私・・の・・せいだ。もう・・・、村を・・・壊・・し・・た・・くない。」

それは明らかに元気の悲痛な叫びだった。

村の人たちにも聞こえたようで、元気が酷く苦しんでいるのを理解した。

「ゲンキサン・・・」

そして私は呆然としている村の人たちに向かって言った。

「元気さんを元に戻すには、・すなわち心臓に穴を開けて、元気さんの中にあるエネルギーを放出するしか、方法がありません。」

「ツマリ、ゲンキサンハモウタスカラナイトイウコトデスカ?」

「はい、もうそうするしか方法がありません・・・。」

村の人たちは私の言葉に、どうするべきか迷う表情になっていた。

「ヴガアーーッ!」

「ぐっ・・・!」

再び狂暴になった元気の攻撃を防ぐ、力で押してくる元気の攻撃に、私の体力の限界が近づいてきた。

するとまた、元気の動きが止まった。

「は・・やく・・・、倒し・・・てくれ。」

そして私の後ろにいる村の人たちが言った。

「ムナスマン、ゲンキノ言ウオリニシテクレ。コレ以上、ゲンキノ辛ソウナ姿ハモウミテラレナイ・・・。ハヤク楽ニシテクレ。」

村の人たちも、とうとう覚悟を決めた。

「わかった・・・、行くぞ。」

私は剣を構えた、ゲンキが私に向かって突撃してくる。

「覚悟、青龍牙突せいりゅうがとつ!」

私は目にも止まらぬ早さで、ゲンキの胸に剣をさした。

「グォオオオオオーー、ギャアアアア!」

私が剣を抜くと、元気はものすごい叫び声を上げて、胸に空いた穴からエネルギーが抜けてくのがわかった。

そしてエネルギーが全て抜けて元の元気に戻った・・・、しかし元気はすでに死んでいた。

「元気、お前の気持ちはよくわかるよ。だけど、グッドシナリオを使わなければ、お前の気持ち通りに生きていくことができたのになぁ・・・」

私はなみだがこぼれる元気の死に顔を見て、静かに手を合わせた。








それから私はグッドシナリオを捜したが、荒れ果てた村のどこかにも、元気の荷物の中にも、グッドシナリオはなかった。

私はワイバーンに乗ってアフリカを後にし、ボスのところへもどってきた。

「この度は、グッドシナリオの回収に失敗し、真に申し訳ございません!」

頭を下げる私にボスは言った。

「まぁ、いい。また、グッドシナリオについて何かしら報告がある。その時は任せたぞ。」

しかしボスの言うその時は、意外にも早く来た。

あれから二日後、私はボスから呼び出しをうけた。

「どうしました?」

「グッドシナリオについてのことだ、グッドシナリオの所有者が決まったそうだ。」

「えっ!?だれか契約したんですか?」

「ああ、所有者の名前は日野ミライという」

日野・・・、その名前に私はあることを思い出した。あの日の祝いの席で、元気は自分の家族について話した、確か息子の名前がミライだったはずだ。

「・・・複雑な気分だな、ムナスマン」

ボスは私がいつどこでなにをしたのか、手に取るようにわかる。あの日の出来事を知ることも簡単だ。

「お前が暴走を止めた人の息子がグッドシナリオを持つことになるとは・・・。」

「はい、私もおどろいています。それで私にどうしろと?」

「ムナスマンには、ミライの監視を任せる。」

「ミライの監視ですか・・・」

「そうだ、所有者が決まったということは、その所有者次第でグッドシナリオがすばらしい宝になるか、逆に非情な武器になるか、どっちになるかわからない。だから所有者の同行をしばらく監視する、もし大きな災いが起きることになるなら、ミライからグッドシナリオをうばう。」

「・・・承知しました。」

そして私は弟子たちと一緒に、影ながらグッドシナリオを持つミライを監視していたということだ。






「これが今までの私のことだ・・・。」

ムナスマンは静かにうつむいた・・・。

ぼくは、もう敵を討つ気分ではなくなっていた・・・。ムナスマンは村のため、そして力に飲み込まれて暴走し苦しむ父さんのために、父さんを殺した・・・。

「それじゃあ、どうしてぼくには本当のことを話してくれなかったの?」

「きみを、悲しませたくなかったんじゃないかな?きみの好きな父さんが、村を壊して暴れているなんて想像したら辛いだろ?」

確かにそうだ・・・、そんな父さん信じられなくて、悲しくなるよ・・・。

「さて、ミライ。きみはこれからどうする?グッドシナリオを使えば、きみは私を倒すことができる。きみへの攻撃はしない。」

そう言うとムナスマンは、剣を地面においてあぐらをかいてその場に座った。

「師匠!どうしてそんなこと・・・」

ナイラが質問する。

「理由はどうあれ、私はミライの父親を殺したんだ。そのケジメをつけさせてくれ。」

ムナスマンの目は決意を決めた目になっていた、今ならグッドシナリオでムナスマンを倒すことができる。

だけどぼくの心にモヤモヤがうずまいていた、ムナスマンを倒しても、ぼくは父さんには会えない。

それに父さんを助けてくれたムナスマンを倒して、父さんはよろこぶのか・・・?

ぼくはどうしたらいいのだろう・・・、そう考えているとぼくの頭に父さんの言葉が思い浮かんだ。

『いいことすれば、自分も相手も楽しくなる』

わかったよ、父さん。

そしてぼくはグッドシナリオに文章を書き込んだ。





























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