第8話ムナスマン参上

運動会が終わってから三日後、教室の中ではあの運動会に現れた巨人のことが話題になっていた。

それも当たり前の話、あの運動会のことはすっかりニュースどころかバラエティー番組にまで取り上げられることになり、運動会の再開が中止になってしまう事態になったからだ。さすがにここまで話題になるとはぼくも思わなかったけどね。

『しかし、妙だな。運動会が中止になったのに、だれ一人落ち込んでいないなんて。』

ぼくの話を聞いているメイクが不思議そうに言った。

「巨人の話で持ちきりだから、落ち込むどころじゃないんだよ。」

『なるほど。ところで、これからどうするつもりだ?』

「どうするって何を?」

『八倉くんだよ、グッドシナリオのこと話したんだろ?』

「うん、昨日『グッドシナリオのことはだれにも言わないで』って言っておいたから。」

『そうか、契約者が信用しているのなら問題ないけどな・・・』

すると母さんが部屋のドアを開けてきた。

「ミライ、お客さんよ。」

「はーい」

ドアに行こうとする前に、母さんが心配そうに言った。

「ねぇ、大きなお友達とどこで知り合ったの?」

「大きなお友達・・・?」

「だって見るからに高校生か大学生みたいな感じだったから、変なこととかしてないよね?」

「だいじょうぶだよ、気の優しいお兄さんだから。」

そう母さんに言った、家に来たお客さんにぼくは覚えがあった。

そして玄関にいたのは、内藤さんだった。

「やあ、ミライくん。久しぶり、元気にしていた?」

「うん、元気だよ。それより、どうして家に来たの?またグッドシナリオを取り上げに来たの?」

ぼくが疑わしげに質問すると、内藤さんはハハハと笑ってから言った。

「ああ、グッドシナリオはもう取り上げないよ。それより君にとびきりのいい話を持ってきたんだけどな・・・。」

内藤さんは意味深につぶやいた、ぼくはとびきりのいい話について聞きたくなった。

「その話ってなんなの?」

「実は、一週間後にムナスマンがこの町のどこかにやってくるんだ。」

ぼくはおどろいて声が出なかった・・・。

父さんの命をうばった憎い相手だけど、父さんと仲のよかったムナスマン。一体、どうして父さんを殺したのか、ぼくはその理由を突き止めたかった。

「ねぇ、ムナスマンはどこに現れるの?」

「うーん、くわしい場所についてはわからないけど、もしかしたらグッドシナリオを持っている君のところに来たりしてね。それじゃあ、またね」

そして内藤さんは帰っていった。

「ムナスマン・・・ついにやってくるんだ!」

またとないチャンスがやってきた、これを逃したらもうムナスマンには二度と会えないかもしれない・・・。

『おい、さっき内藤と何を話していたんだ?』

「あっ、メイク。あのね、ムナスマンが近い内にここにやってくるってさ。」

『何!本当か!?』

「うん、内藤さんが言っていたよ。」

『そうか・・・、やはり内藤は』

「内藤さんがどうかしたの、メイク?」

『ああ、ちょっと気になることがあってな。内藤さんについての秘密を知ってしまったんだよ。』

「えっ!?どんな秘密なの!?」

気になってしまったぼくはメイクに聞いた、そしてメイクはこんなことを話した。






あれは運動会の日のことだった、例の巨人騒動のせいで運動会が中止になり、みんなが早帰りをしようとしている時だ。

あの時ぼくは、ミライくんと待ち合わせとして校門の近くにいた。すると近くでだれかの気配を感じ、そっと近づいてみた。するとそこにいたのは、エンガーとランヤと内藤さんの三人だった。

『そろそろ、決闘の時が来るのね・・・』

『ああ、ミライもだいぶ成長してきたころだとパワー・ストームも言っていた。』

『何でも書いたことがかなう本が相手なんだろ?師匠、勝てるかな?』

『だいじょうぶだよ、師匠なら必ず勝てるはずさ。』

エンガーとランヤと親しげに話す内藤さん、これは一体どういうことなのか・・?

『ふぅ・・・、そこにいるのはメイクかな?』

しまった、内藤さんに気づかれてしまった。

こうなるとごまかせない、ぼくは、三人の前に現れた。

『今の話を聞いていたようだね、でも君をどうしようということはしない。いずれ、ミライくんに言わなきゃいけないからね。』

「言わなきゃいけないことって何?」

『それは近いうちにわかる、それじゃあぼくたちはもう行くよ。』

そして内藤さんとエンガーとランヤさんは、どこかへ行ってしまった。






「そういうことがあったんだ、でも内藤さんがどうして二人と一緒にいたんだろう?」

『おそらく、内藤さんとエンガーとランヤは裏でつながっていたと思う。』

「じゃあ、三人は最初から仲間だったということ?」

『そうだ、そしてこれはあくまで私の考えだが・・・、内藤さんはもしかしたら・・』

そういうとメイクはぼくの耳に小さな声で言った。

「えっ、それ本当なの!?」

『まだ確証は無いが、可能性は無いとは言えない話だ。』

内藤さん、彼は一体何者なのか・・・?

あの時聞いておけばよかったと、ぼくは少し後悔した。







運動会から一月後、みんなはある話題で盛り上がっていた。

ぼくが教室に入ると、八倉くんがその話をしてきた。

「ねぇ、一週間後の地域祭りの話なんだけどさ、あのマツモンが来るってさ!」

「え!?あのすごく人気な歌手の!?」

マツモンとは松本慈聞まつもとじもんという有名な歌手で、それはもうみんなが知っている超有名人だ。

そんなマツモンが一週間後の地域祭りにて、なんとライブをすることになったんだ。地域祭りは年に一度というのではなく、この町ができて六十周年を祝うイベントとして行われるんだ。貴重な祭りだから、ぼくも参加するつもりだよ。

「おれの母ちゃん、マツモンのファンでさ。色紙とペン買って、サインしてもらうって楽しみにしているぜ。」

ちなみにぼくの母さんは、有名人とかあんまり好きじゃない方の人だ。そのかわり、お父さんのことはとても好きだったけど。

「ミライは地域祭り行くか?」

『うん、言わなくても行くよ。』

「そうだったな、地域祭りには他にも色んなイベントがあるから見て回れるといいな。」

「うん・・・、あいつにも会えたらいいよね。」

「ん?あいつってだれ?」

ぼくは八倉くんに内藤さんから伝えられたことを話した。

「えっ!?ムナスマンが来るって!?」

「場所はわからないけど、来ることは本当みたいな感じなんだ・・・。でも内藤さんはどうして、ぼくにそのことを話したんだろう?」

少し考えて、八倉くんが言った。

「その内藤さんって、絶対にムナスマンの仲間だよ。ムナスマンはミライが自分のところに来るように、内藤さんに指示を出していたんだよ。」

「じゃあ、どうしてぼくが来るのを待っているの?」

「そうだな・・・、もしかしてグッドシナリオが狙いなんじゃないか?」

ぼくは八倉くんの言うとおりだと思った、元々ムナスマンはグッドシナリオをボスのところへとどけようとしていた、けれど何かしらの理由でなくしてしまい、そしてぼくがグッドシナリオを持っていることを知ったムナスマンは、弟子や内藤さんを使ってぼくを見張っていたということだ。

「でも、どうして自分から取り返さずに、弟子や内藤さんにぼくを見張らせていたんだろう?」

「ミライといつか戦うときのために、対策を立てるためなんじゃないか?」

それじゃあ、ぼくのことはみんなムナスマンに知られているということじゃないか!

どうしよう・・・、ムナスマンを倒せないかもしれない。

「なぁ、どうしたらムナスマンに勝てるのか考えようぜ。」

「作戦があるの?」

「だから、それについて話し合うの。今日、おれんちに来いよ。」

そしてぼくは八倉くんにさそわれるまま、八倉くんの家にやってきた。

八倉くんの家は、学校から歩いて二十分のところにあるマンションの三階だ。家に上がったことがあるから、なんの遠慮もなく入ることができた。

「それで、ムナスマンを倒す作戦会議を取り行う、ムナスマンがどういうやつなのか教えてくれ。」

「うん、わかった。」

ぼくは八倉くんにムナスマンについて説明した、話を聞いていた八倉くんは頭を抱えだした。

「とんでもないやつだな・・・、ごめん、もしかしたら作戦思い浮かばないかも・・・」

「えっ!どうするの、八倉くん?」

「本当にごめん、ムナスマンのこと甘く見ていたよ・・・。ただ、相手がワニの顔をしているのなら、弱点があるぜ。」

そして八倉くんは、本だなから一冊の本を持ってきた。そこには「大自然への対処法」というタイトルがあった。

「この本は?」

「これはな、自然のなかでもしもこんな目に遭ったらどうすればいいかってということが、書かれているんだ。確かこのページにワニに襲われた時の対処法があるんだ。」

そのページにはこう書かれていた。

『ワニに襲われたら、目や頭蓋骨やアゴの側面を攻撃する。また水中でワニに襲われたら、可能な限り陸に上がることを最優先にしたほうがいい。』

「水中で襲われることはないにしても、ムナスマンでも目とか頭を攻撃したらいいんだよ。」

「あっ、そういえばワニって口を開ける力が弱いから、簡単に口を押さえ込められるって。」

「なるほど、つまりグッドシナリオでどうにかムナスマンの口を封じつつ、目やアゴを攻撃したらいいということかな・・・?」

「うーん、でもムナスマンって剣を持っているからな・・・。そっちもどうにかしないとなぁ・・・。」

確かにそうだ、相手は武器を持っているからね。

「うーん、やっぱりグッドシナリオで動きを止めて、ぼくたちで口をしばって、目や頭を攻撃するしかないようだ・・・。」

「口をしばるって、どうやるの?」

「ロープみたいな長いもので、口をグルグル巻きにするんだよ。何かいいもの無いかな?」

「あっ、そうだ!こういうの、どうかな?」

八倉くんは少しの間部屋からでると、ビニールひもを持ってきた。

「これをロープの変わりにして、ムナスマンの口をふさいでやるんだ!」

「おお、それすごくいい考え!」

そしてぼくと八倉くんは、ムナスマンを倒す作戦会議を続けていくのだった・・・。







そして一週間後、ついに運命の日がやってきた。

ぼくはグッドシナリオを持って玄関へ向かう、となりにいたメイクが言った。

「ミライ、内藤の言うことが本当かウソかはわからない。お前を誘い出して、何か仕掛ける魂胆かもしれない・・・。それでも行くのか?」

「うん、父さんの敵をとらないと、ぼくがなっとくできないよ。」

そしてぼくはムナスマンを探し回って歩いた。しかしムナスマンの姿もカゲも見えない。

「どこにもいないな・・・。」

『そうですね、気配も無いようです。』

「おーい、ミライ!」

すると八倉くんの声が聞こえてきた。

「八倉くん、どうしたの?」

「一緒に地域祭り行こうかなと思ったんだけど、家に行ってもいなかったから探していたんだ。」

「ごめん、ムナスマンを探していたんだ。」

「それで、ムナスマンはいたの?」

「ううん、まだ見つからない。」

「そっか、それじゃあ地域祭りへ行ってみようぜ。もしかしたら、そこにいたりして。」

「うん、行こう!」

こうしてぼくとメイクは、八倉くんと一緒に地域祭りへと向かった。

地域祭りの会場は公民館にある、公民館の出入り口の開けた場所では、バザーやキッチンカーなどがたくさん並んでいてにぎやかだ。

「うわー、本当にいろいろやっているね。」

「ここにムナスマンが来ているかもしれない、探してみようぜ。」

ぼくとメイクと八倉くんは、よく目をこらしながらムナスマンを探した。しかしその姿を見つけることはできなかった。

「どこにもいないな・・・」

「うん、もしかしてここにはいないのかな?」

『他を当たってみるか・・・?』

ぼくたちが話していたとき、八倉くんのお母さんがぼくたちのところにやってきた。

「母ちゃん、もしかしてあれを見に来たの?」

「もちろんよ、早く席をとらないとマツモンに会えないわ!あ、ミライくんも興味があるなら見に来てね。」

八倉くんのお母さんは足早に公民館の中へ向かっていった。

「これからどうする?」

「ムナスマンを探す、けど少しつかれた。」

『じゃあ、少し休むか。』

「あそこにアイスクリームを売ってるキッチンカーがあるぜ、食べながら休むか。」

そしてぼくとメイクと八倉くんは、アイスクリームを買って、近くのベンチに三人並んですわった。

アイスクリームを食べ終えて、ムナスマン探しを再開しようとした時だった。公民館の奥から人たちがものすごい勢いでかけだしてきた。

「おい、なんだこれ!?」

『この気配・・・!!ミライ、八倉!逃げるぞ!』

「えっ!?どうしたの、メイク?」

すると、公民館の奥から「ウガアアーッ!」という粗い叫び声が聞こえた。そして扉を突き破り現れたのは、筋肉がとても盛り上った体つきで、頭に二本の角が生え、大きな牙をむいた男の姿だった。

「なにあれ・・・、なんだかとても恐くて、ぼくの体が動なないよ・・・。」

「おい、ミライ!大丈夫か?」

すると内藤さんが公民館から出てきた、しかも八倉くんの母さんを背負っている。

「母ちゃん!無事なの?」

「ええ、内藤さんが助けてくれたから・・、本当にありがとう」

「どうということは無いですよ、それよりも早く安全なところへ避難してください。」

「わかった、さあ行くわよ!」

「ミライ、お前も早く逃げろよ!」

八倉くんとお母さんは、すぐにその場から走り去っていった。だけど、ぼくはすぐに逃げずに、あばれる男の方を見た。

「あの人をどうにかしないと・・・」

『そいつはパワー・ストームのせいで、魔神になりかけている。このまま放置すれば、甚大な被害が出る。対策があるなら、こいつの体内からパワー・ストームを全て抜き取ることだが・・・』

「だったら、グッドシナリ・・」

ぼくが言った時、男がぼくとメイクに向かって突っ込んできた、ぼくとメイクは突き飛ばされ、その衝撃でグッドシナリオが手元から離れてしまった。

「あ、グッドシナリオが!」

ぼくがグッドシナリオを拾いに行こうとした時、男にえりくびを捕まれて持ち上げられ、そして男はぼくの首をしめた。

「ミライ!」

『ミライ、今行くぞ!』

男がぼくの首を力強くしめていく、苦しくて意識がなくなってきた。

もう、このまま死ぬんだ・・・。ムナスマンにも会えず、父さんのことを何も知れずに、死んでしまうんだ。

そしてぼくの目の前が暗くなる瞬間だった、男の後ろから声が聞こえた。

『うりゃあーっ!』

何者かが剣で男の背中を斬りつけた、男は悲鳴を上げてぼくを離した。

ぼくがゲホゲホとむせていると、何者かは男の後ろから剣を首筋にあてた。

そしてぼくは、何者の姿を見た。

その顔はまさにワニそのもの、鎧を着たするどい眼差しの剣士、それはまぎれもなくムナスマンだった。

『早く、グッドシナリオを使うんだ!』

「えっ・・・うん、わかった!」

『ミライ、持ってきたよ!』

メイクがグッドシナリオをぼくに渡した、そしてぼくはグッドシナリオに書き込んだ。

『暴れている男が元に戻りますように』

すると男からものすごい勢いで風が吹きはじめて、男は少しずつ元に戻りはじめた。

『おお、パワー・ストームの力が少しずつ抜けていく・・・。』

「やったのか・・・。」

そして男は元の姿に戻ると、そのまま気を失って倒れた。

『よし、これで元通りだ。なんとか殺さなくてすんだな。』

男が元に戻ってよかったとホッとする、だけど目の前にはムナスマンがいる。

大好きな父さんと仲良しだったはずなのに、その父さんを殺したワニの騎士・・・。

ぼくは確認のために、彼に質問した。

「あの、あなたはムナスマンですか?」

『・・・ああ、そうだよ。』

ぼくはついにムナスマンと出会った、その衝撃で言葉が出なかった。


































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