第7話秋の運動会と巨人
グッドシナリオを保管するグッドバンクを作ってから数日後、夏休みはすっかり終わり、また学校に通う生活が始まった。
夏休みの間、あの日から内藤さんが来ることはなかったけど、ぼくとメイクは今でも現れないかと心のどこかで緊張していた。メイクもあの日から、グッドシナリオを守るために家にいることが多くなり、ぼくと一緒に学校に行くことはなくなった。
そして九月のある日、いよいよこの時が来た。
「えー、それではこれより四年生の運動会の種目決めを行います!」
ぼくの学校では、毎年クラスごとに二種目の競技を決めることになっている。ちなみに今回の候補は玉入れ・二百メートルリレー・障害物競走の三つ。
この中からぼくたちの投票で、二種目が決定する。
「なぁ、ミライはどうする?」
八倉くんがぼくに言った。
「うーん、ぼくは玉入れがいいな。」
「えー、玉入れはちょっと物足りないよ。せっかくだから、障害物競走の方がいいぜ。」
確かに障害物競走もいいと思うけど、ぼくはシンプルな玉入れの方がいいな。
「それではみなさんで、投票をとります。みなさんは黒板の前に行って、選んだ種目にチョークで小さくたてせんを書いてください。」
そしてみんなは黒板にたてせんを書いていった。ぼくは障害物競走についてたてせんを入れた。
「えーっ、みんなの選択の結果、障害物競走と二百メートルリレーに決まりました。」
結局、玉入れは選ばれなかった・・・。
「それではみなさん、これからの体育の時間は運動会の練習をすることになります。運動会に向けて、がんばりましょう!」
みんなは「ハーイ」と言った。
そしてその日からの体育の授業は、運動会の練習をすることになった。
ぼくは障害物競走の選手に選ばれた、障害物競走ではネットをくぐり抜けたり、ハードルを飛んだりして進むけど、最後の障害が中々やっかいなのだ。
「ミライ、ぐるぐるバットできるか?」
「うん、初めてだけど上手くできるか、心配だよ。」
グルグルバットとはゴール直前にある最後の障害で、野球のバットを逆さまに地面に立てて、頭をバットにつけて、バットがじくになるように五回転したあと、ゴールまでの十メートルを進むという。
目が回って上手く進めなかったり、とちゅうで転んでしまう人もいる中々やっかいな障害だ。
「よし、それじゃあぐるぐるバットから練習しよう!おれも手伝うよ。」
「ありがとう、八倉くん。」
そしてぼくと八倉くんで、ぐるぐるバットの練習を始めた。ぼくも八倉くんも、バットで回った後に目が回って転んでしまう。
「やっぱり、難しいよ・・・」
「ああ、回転した後に上手く歩くことができる方法はないかな・・・?」
それからぼくと八倉くんは、ぐるぐるバットの練習ですっかり目を回し、もうどこが地面なのかわからなくなっていた。
そして体育の授業が終わると、ぼくと八倉くんは半分気持ち悪くなっていた。
「八倉くん、だいじょうぶ?」
「ミライこそ、だいじょうぶか?」
「うん、でもぼくこの練習はもうやりたくないなあ・・・」
「でも、障害物競走は花形だぜ。これを越えることができたら、みんなからほめられるのは確かだぜ。」
確かに、今までにも障害物競走で一位になった人はクラスのみんなからちやほやされる。
「よし・・・、何がなんでもがんばってやるぞ!」
「おーっ!」
ぼくと八倉くんは気合いを入れた。
それからぼくは、どうすればクルクルバットを攻略できるか考えた。
「どうすれば目が回っても、先に進むことができるのだろう・・・?」
ぼくは母さんに聞いてみたり、ネットで調べてみたりした。だけどいい方法がうかばない。
『どうしたんだ、何かなやみがあるのか?』
メイクが声をかけてきた。
「ねぇ、どうしたらグルグル回った後に歩くことができるかな?」
『グルグル回った後、歩く?そんなこと知ってどうするの?』
ぼくはメイクに運動会のことを話した。
『ふーん、そういうことね・・・。目が回ったのなら、どこか日の当たらないところで休むか、楽な体勢で休んだほうがいいぞ。』
「いや、そうじゃなくてさ、回転した後にどうしたら走れるのかなって」
『回転した後に走る・・・、人って時々バカバカしいことをするもんだ。』
メイクはため息をついた、確かにメイクの言うとおりだけど、運動会の種目だからやらなくちゃいけない。
「ねぇ、どうにかする方法ってないかな?」
『うーん、目が回った後にすぐ目を元通りにする方法ならあるけど。』
「えっ!?それを教えて!」
『それはね、回転の後手を肩までの高さに上げて、親指を立てて、それを見つめながら進むことだ。』
「本当にそれで、すぐに走れるの?」
『それならすぐに試してみたら?ゴールは部屋のドアでいいだろ』
そしてぼくは五回転したあと、右手の親指を立てて、それを見ながらドアに向かって進んだ。
すると上手くドアのところまで進むことができた。
「本当だ、ありがとうメイク!」
『これで問題は解決したか?それじゃあ、ぼくの話をしてもいいかい?』
「どうしたのメイク?」
『実は今日のお昼頃、ここにランヤが現れたんだ。』
「えっ!?ランヤが?」
ランヤはムナスマンの弟子の一人だ。
「なにしに来たの?グッドシナリオはだいじょうぶ?」
ぼくはあわててメイクに聞いた。
『落ちつけ、グッドシナリオは無事だよ。今回ランヤは、報告に来ただけだと言っていた。』
「報告・・・?」
『どうやら君の学校で運動会がある日に、パワー・ストームがまた何かするから気をつけてという報告だ。』
「何かするって、何をするの?」
『そこまではわからない、ランヤもくわしいことは話さずに帰ったからな。』
パワー・ストームのきまぐれが、また起こるの・・・。
前回、その気まぐれで空がくもって雨が降りだしたせいで、せっかくグッドシナリオに書いた流れ星が見えなくなるかもしれないところだった。
もしも運動会でパワー・ストームがまた気まぐれに何かしたら、パニックになるのは確実だ。
「ねぇ、メイク!パワー・ストームのきまぐれを止める方法はないの?」
『難しいな、何をしてくるかわからない以上、あらゆることを想定してグッドシナリオに書きこむことができたらいいが、あらゆることを想定すること事態難しいし、それにグッドシナリオがしばらく使えなくなることになるからな、連続でこられたらもう止められない。』
「そっか・・・、それはそうだよね。」
ぼくは不安になった、パワー・ストームのきまぐれで運動会がめちゃくちゃになったら、どうしよう?
グッドシナリオでもどうすることのできない事態にどうしたらいいのか、ぼくはメイクに聞いてみた。
「ねぇ、一体どうしたらパワー・ストームのきまぐれを乗りこえられるのかな?」
『うーん・・・、グッドシナリオの力でもできないことは、ぼくとミライで補おう。そうするしかない。』
メイクはぼくの手を力強く握りながら言った。
「うん、そうだね。ぼくとメイクでがんばって、パワー・ストームのきまぐれを乗りこえていこう!」
こうなったら、ぼくたちでがんばるしかないと思った。
雨でも雪でもふらせてみろ、すぐに晴れにしてやるからな。待っていろ、パワー・ストーム!
それからぼくは八倉くんと一緒に、運動会の練習にはげんだ。
メイクから教えてもらったことを八倉くんに話すと、八倉くんも効き目があり、教えてくれてありがとうと言われた。
そして家では、パワー・ストームのきまぐれが一体なんなのか、いろいろ考えてグッドシナリオにどう書きこんで対処するか話し合った。
「やっぱり、雨を降らせてくるのかな?」
『いや、同じやりかたはもうしないだろう。だとすると、運動会に合わないものを出してくると思う。』
「とすると夏祭りの時みたいに、また野良犬みたいなやっかいなものを送りこんでくるのかな?」
『うーん、動物じゃないとすると、現実的にあり得ないやり方で来るかも・・・。』
「あり得ないやり方って、何なの?」
『たとえば、ゲームや漫画に出てくるモンスターで運動会を襲撃するとか・・・』
ぼくは運動会の日に、いろんなモンスターたちが校庭で騒ぐ様子を思い浮かべた。確かにみんな大パニックになるね・・・。
「えーっ、そうなったらどうやって止めよう?」
『そうだな・・・、ドラゴンみたいな大きなモンスターで対抗するとか?』
「えーっ、それじゃあもっとパニックになるよ。それよりもさ、モンスターたちも運動会に参加させてあげようよ。」
メイクはぽかんとした表情になった。
『ミライ・・・、それどういうこと?』
「だって、モンスターたちと戦ったら運動会が中止になるもん。だったらいっそのこと、モンスターたちも楽しめるようにしたらいいんだよ。」
『ププ・・・、ミライらしいな。』
メイクは口元を押さえて笑いだした。
「それでさ、ゴブリンやオークと一緒に綱引きをしたり、妖精たちとみんなを応援したり、スライムに障害物になってもらって、ふれないように上手くよけながら進むとか。」
『なるほど、モンスターたちが来たら逆に運動会に参加させるということか、これはおもしろい。いやあ、本当に想像力が豊かだね、ミライくん。』
メイクはおかしそうに笑った、ぼくもメイクにつられて笑った。
そして何のために話し合っているのか、すっかりわすれてしまった。
そしていよいよ、運動会当日がやってきた。
今回はメイクもグッドシナリオを持って、運動会に来ている。
『もし、何か異変を感じたらすぐにぼくを呼んでね。』
教室に入る時、メイクは念押しした。
教室にはすでに体操着を着ていたクラスのみんなだ。
「おーい、ミライ!」
八倉くんが声をかけてきた。
「あ、八倉くん。いよいよだね」
「ああ、絶対に負けないからな。」
今回、ぼくは赤組で八倉くんは白組で戦うことになった。白組には絶対に負けない、ぼくと八倉くんは互いに拳を合わせた。
そして校庭に出て整列し、開会式が始まった。放送室から聞こえる音楽に合わせて、ぼくたちは行進する。
そして行進が止まると、選手宣誓が始まった。
「えーっ、われわれはスポーツマンシップにのっとり、正々堂々、そして全力で悔いのない戦いをすることを誓います。」
するとなぜかぼくたちのいるところが暗くなった、一体どうしたと上を見上げると、なんとそこには校舎よりも大きい巨人の姿があった。
「うわーっ、巨人だ!」
「逃げろーっ!!」
生徒も先生もパニックになって、校庭から逃げ出した。
「おい、ミライ!急いで逃げるぞ!」
「待って、ぼく行かなきゃいけないところがあるんだ!」
「えっ!?行かなきゃいけないところってどこなの?」
八倉くんに言われて、ぼくは思いとどまった。どうする、八倉くんにグッドシナリオのこと話した方がいいのか・・・?
でも、友だちに隠し事はよくないと父さんが言っていた。友だちなら、どんな秘密でも伝え合えるもんね。
「わかった、ぼくについてきて。そこで全て話すよ。」
「えっ、ちょっとなんだよそれ!?」
ぼくは八倉くんの手を引っ張りながら、急いでメイクのところへ向かった。
『おーい、こっちだ!』
「メイク、グッドシナリオは!?」
『ここにあるよ、というかそいつだれ?』
「うわっ、お前だれだよ!?」
メイクと八倉くんが互いに顔を見合わせた。
ぼくは八倉くんにグッドシナリオのこと、メイクのこと、今まで学校にあったラッキーなできごとについて全て話した。
「つまり、そのグッドシナリオがあれば、あの巨人をなんとかできるということだね。」
『ああ、ただ問題はどう書き込めばいいかなんだ。私も巨人が現れることは、予想していなかったからな・・・』
「じゃあ、ゴジラかウルトラマンか戦隊ロボットでも呼ぼうぜ!もしかしたら、あの巨人を倒せるかもしれないし!」
『バカ、そんなことしたら被害がもっと出るぞ!今、巨人は校庭であぐらをかいているからいいが、あばれだしたらどうなるか・・』
「そっか、それじゃあ巨人をどこかへ移動できないかな・・・?」
「どこかって、どこへ?」
「山の中とか、海の上とかかな・・・?」
『それで、どうやって巨人を移動させるんだ?』
「うーん・・・そうだ!こういうのはどうかな?」
八倉くんはぼくの耳にささやいた、ぼくは八倉くんの言った通りのことを書いた。
「さあ、どうなるのかな・・・?」
すると巨人の目の前に、巨人よりも大きいロケットが現れた。
巨人はロケットを興味津々に見つめている。
「よし、いいぞいいぞ!そのままロケットに乗れ!」
校舎の陰にかくれていたぼくと八倉くんは、ハラハラしながらそう思っていた。このまま巨人がロケットに乗ったら、ロケットが動いて宇宙の果てまで巨人を飛ばす作戦だ。
そして巨人がロケットに乗った時だった、突然ロケットの一部が爆発した。
「うわぁ!?一体、どうしたんだ?」
巨人がおどろいてロケットから離れると、ロケットがみるみるうちに壊されていき、最終的にがれきの山になってしまった・・・。
「そんな、せっかくのロケットが・・・」
「一体、どうしてこんなことに・・・」
『おい、あれを見てよ!』
メイクが指さす方向を見ると、そこにはエンガーとランヤの姿があった。
『ふぅ、なんとか壊せたな・・・』
『それにしても、ミライくんの妨害をしろだなんて、あまり気乗りしないわね。』
『まあ、仕方ないよ。これもパワー・ストームの命令だしね。』
どうしてエンガーとランヤがこんなところに、そしてどうしてロケットをこわしたの?
「おい、あいつら何者だ?もしかして、あの巨人の仲間なのか?」
『仲間というか、あの巨人を校庭に差し向けたやつの手下と言ったほうがいいかな。』
「あれ?ミライはどこだ・・・?」
『あっ!?あんなところに!』
ぼくはいてもたってもいられずに、エンガーとランヤのところへやってきた。
「ねぇ、どうしてロケットを壊したの!?あれで巨人を遠くに飛ばすはずだったのに!」
ぼくが講義すると、エンガーとランヤは持っていた武器をぼくの方に向けた。そしてこう言った。
『ミライくん、ごめんね。この巨人を校庭からどかすわけにはいかないの。』
『どんな手を使おうが、おれたちがじゃまするぜ。』
二人の目は真剣だ、これじゃあ話を聞いてもらえない。
巨人はぼくと二人の会話など気にすることなく、校庭にドスンと腰を落とした。
「そんな・・・、ぼくは運動会を再開したいだけなのに・・・、みんなが楽しみにしていた運動会を・・・」
それなのにこんな巨人が現れたら・・・、巨人?
モンスターたちと運動会をする・・・、巨人と運動会をする・・・。
そしてぼくの頭にひらめきが起こり、ぼくは笑いだした。
「そうか、そういうことだね。それなら少し待っていて!」
ぼくは急いでメイクのところへもどってきた、エンガーとランヤはポカンとしたまま顔を見合わせた。
「メイク、グッドシナリオを貸して!」
『ああ、けど何を書くのだ?』
そしてぼくはグッドシナリオにこう書き込んだ。
『巨人と綱引きができますように。』
すると校庭にとてつもないくらい長いロープが現れた。
巨人はロープを持って首をかしげている、ぼくは大声でみんなによびかけた。
「おーい!みんな、こっちに来て!綱引きをしようよ!」
突然のよびかけに、メイクも八倉くんもエンガーもランヤも、そしてみんなも口をあんぐり開けておどろいた。
『えっ、何を言っているんだ?』
「巨人と綱引きって、本気かよ?」
『おいおい、本当にやるというのか?』
おどろいているみんなに、ぼくはさらによびかけた。
「だいじょうぶだよ、この巨人さんはみんなと遊びたいんだ!だから一緒に綱引きをしようよ!」
『それじゃあ、行くとしよう。』
「そうだな、何だか楽しそうだし。」
メイクと八倉くんがぼくと一緒にロープを持った。
『どうする、ランヤ?』
『私たちも、参加しようか。なんだか楽しそうだから。』
エンガーとランヤも参加した。
すると見ていた男子と女子が、続々と集まってきた。そして左右から抱えるようにロープを持った。
「さあ、巨人さん。ロープをもって」
巨人は両手でロープを持った。
「よし、いくよ・・・!」
そして綱引きが始まった。巨人の強い力に引っ張られそうになりながらも、ぼくたちは踏みとどまりながら引っ張った。
そして互角の勝負が続くなか、ついに巨人が耐えられなくなって先に倒れてしまった。
「やった!ぼくたちの勝ちだ!!」
ぼくはみんなと一緒に勝利をよろこんだ、すると巨人が立ち上がるとぼくたちに向かって拍手してくれた。
そして巨人はすぅと、透明になって消えていったのだった。
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