第6話パワー・ストームのきまぐれ
夏祭りの翌日、ぼくはメイクと一緒に家のテレビで、ビデオカメラで撮影した映像を見ていた。
『ミライ、いい具合に映像は撮れたか?』
「うん、よく撮れているよ。ただ、野良犬たちが来なかったら、もっといいのが撮れたかもしれないね。」
ぼくはため息をつきながら言った、あのさわぎのあと夏祭りはなんとか再開されたが、野良犬のせいでめちゃくちゃになってしまった屋台もあり、にぎやかさが半分減ってしまったように思えた。
ちなみに今回、警察がかけつける事態になったけど、野良犬たちが襲いかかってきた理由については、警察にもわからないようだ。
『まあ、でも夏祭りを楽しめたことはよかったよね。これで美紀ちゃんもよろこぶよ。』
「うん。お母さん、後はお願いします。」
「任せてちょうだい!」
後はこの映像をお母さんがDVDに写して、美紀ちゃんの家に送るだけだ。
ぼくは自分の部屋へ入り、絵を描きだした。
『ミライ、何をかいているんだ?』
「ああ、南の島を冒険している絵を書いているんだ。ぼくもいつか、こんな冒険をしてみたいな・・・。」
『相変わらず、想像力豊かだね。ところで一つ気になることがあるが、話してもいいか?』
「ん?どうしたの、メイク?」
『あの夏祭りで野良犬が大勢飛び出してあばれたことなんだけど、あれはパワー・ストームの仕業にちがいないと思うんだ。』
「えっ!?パワー・ストームがどうしてそんなことをするの?」
『パワー・ストームはきまぐれだからね、おそらくミライにただちょっかいをかけたくてしたかもしれないよ。』
「えーっ、なにそれ?」
ぼくは訳がわからずにいた、どうしてパワー・ストームはぼくにそんなことをしたんだろう・・・?
『それともう一つ、ミライが出会った内藤という男だけど、もしかしたらグッドシナリオについて何か知っているかもしれない。』
「えっ!?グッドシナリオについてって、どういうこと?」
『内藤は初対面なはずのきみの名前を知っていた、つまり内藤は前もってパワー・ストームからきみのことを聞いていたかもしれない。』
「だとしたら、内藤さんは何者なの?」
『おそらく、パワー・ストームの
「従者と能力者って、どうちがうの?」
『従者はパワー・ストームから力を得たり、パワー・ストームが造り出した道具を持つ者のこと。きみもグッドシナリオを持っているから従者だね。能力者は従者がパワーアップしたようなもので、従者よりもいろんなことができる。もちろん強さも段違いになる。』
「そうなんだ、それじゃあ内藤さんはどうしてぼくに近づいてきたの?」
『おそらく、グッドシナリオをねらっているか、もしくはパワー・ストームの命令か。そこんとこは、本人に聞かないとわからないけど・・・』
「パワー・ストームの命令って、絶対なの?」
『ああ、従者も能力者もそこは同じだよ。』
ぼくはまた内藤さんに会いたくなった、パワー・ストームの力を持っているのかどうか、いろんな話を聞いてみたいな・・・。
二日後、ぼくはグッドシナリオにこう書き込んだ。
『今日の夜、流れ星がたくさん見られますように。』
今日は母さんとベランダで、小さなバーベキューをやるんだ。その時に夜の流れ星が見れたらいいなと思って、書き込んだんだ。
「そういえば、父さんがいたころは三人でにぎやかにやっていたわね・・・。」
そういえば、父さんが仕事に行く前日は必ずいつもよりも豪華な夜ご飯が出ていた。とくに美味しかったのがこのバーベキューで、いつもより高いお肉を焼いて食べていたんだ。
「父さんとまたバーベーキューしたかったなあ・・・」
ぼくはさみしい気分で夕焼けをながめていた。
すると電話がなった、ぼくが受話器を取ると美紀ちゃんの声が聞こえた。
「美紀ちゃん、久しぶり。ぼくが送った動画見た?」
『見たわよ、わざわざ撮影してくれてありがとう!』
「どういたしまして、そっちは楽しかった?」
『うん、最初は不安だったけど自然と楽しくなれてよかったわ。それはそうと、テレビで言っていたけど夏祭りが大変なことになっていたそうだね。』
「うん、まさかあんなことになるなんて思わなかったよ。」
『ミライ、けがはしてないよね・・・?』
美紀ちゃんは心配そうに言った、ぼくは「大丈夫」と返事をした。
『それならよかった、また会おうね。』
「うん、またね。」
ぼくは電話を切った、お母さんが「そろそろ始めるわよー」とぼくを呼ぶ。
ぼくはベランダに置かれた小さなテーブルに座った、お母さんはそのテーブルの上にあるホットプレートに油をひいている。
「さっきの電話、だれから?」
「美紀ちゃんからだよ、撮影のお礼を言われた。」
「よかったわね、父さんのビデオカメラが役にたって。それじゃあ、肉を焼きましょう。」
母さんは温まったホットプレートの上に肉を置いた、それからウインナー、タマネギ、ピーマン、ニンジンと食材を並べていった。
日が暮れて、空が暗くなってきた。
「もうすぐ、流れ星が見えるぞ・・・」
ぼくが夜空を見上げながら期待していると、突然空が曇りだした。
そして、ポタポタと雨がふり、やがてザアザアと雨の勢いが強くなった。
「あれ?雨がふってきた!?」
「まあ、大変!早く部屋に避難しないと!」
母さんはホットプレートの電源を切ると、ホットプレートとテーブルを持って、家の中へ入っていった。
「ミライ、食材を運んできて!」
母さんに言われて、ぼくは食材を部屋の中へ入れた。
「そんな・・・、急に雨が降るなんて・・」
「天気予報では一日晴れるって言っていたのに・・・、夕立かしら?」
『いや、これはパワー・ストームのきまぐれだな。』
ぼくのとなりにいたミライが言った。
「えっ!?そんな、どうして・・・?」
『おそらく、何かしようとしているんだろう。それが何かはわからないが・・・。』
でも、このままじゃせっかくの流れ星が見えない!
「ねぇ、メイク。一体、どうしたらいいの?」
『グッドシナリオに書きこまれたことは、必ず起こる。パワー・ストームはそれを理解して、流れ星が見えないようにしている。つまり、あの雲をどかすか消すことさえできたら流れ星は見える。』
「それなら、どうすればいいか考えよう!」
ぼくは首をひねって考えた、そしていいことを思いついた。
「大きなつむじ風を起こして、雨雲をどかすのはどう?」
『うーん、つむじ風じゃ雨雲はどかせないどころか、逆に夕立が酷くなるだけかもしれない。どかすならせめて竜巻くらいはやらないといけないが、それだと夕立以上の被害が出るかもしれない。』
「そっか・・・、じゃあグッドシナリオに『今すぐ晴れる』って書くのはどうかな?」
『それならできる、今すぐやろう!』
そしてぼくは自分の部屋にあるグッドシナリオを取りに行った、ところが部屋のドアを開けると、なんと内藤さんがいた。
「内藤さん!どうしてここにいるの?」
「ああ、ミライくん。パワー・ストームの命令を受けて、ここにやってきたんだ。」
内藤さんの手にはグッドシナリオがあった。
「それ、ぼくに返して。それがないと、困るんだ!」
「ごめんね、それはできない。きみはこのグッドシナリオに、今夜は流れ星がたくさん見えますようにと書いたけど、パワー・ストームはそれを見てきみにイタズラを思いついたみたいだ。明日の朝方まで、きみのグッドシナリオを持っておくようにと命令された。だから悪いけど、すぐに返すわけにはいかないよ。」
そんな・・・、そんなのあんまりだよ!
「そんなのこまるよ、返して!!」
「じゃあ、力ずくで取り返してみてよ。きみがこのグッドシナリオを持つのにふさわしいかどうか、見せてごらん。」
内藤さんはせせら笑った、ぼくは内藤さんに向かって体当たりをしたが、サッとかわされてしまいぼくは転んでしまった。
「いたた・・・、まだまだ!」
『おい、ミライ!挑発に乗るな、何も考えずに向かったところで、なんの意味も無いぞ!』
メイクに言われてぼくは冷静になった。
『内藤さん、それは契約上ミライの所有物になっている。つまりお前はグッドシナリオを使えない、そんなお前がもしグッドシナリオに書きこんだら、パワー・ストームの怒りを買うことになり、お前の命がどうなるか・・・』
「そのことはあらかじめ知っている、だからおれはこのグッドシナリオに願いを書きこむことはできない、ただ持っているだけだ。」
『それなら、管理者権限で・・・!』
メイクはグッドシナリオを自分のところへ引き戻そうとしたが、突然メイクの手がビリビリとしびれだした。
『そんな、管理者権限が使えない・・・』
「ごめんね、とにかく朝方になるまでこのグッドシナリオはぼくが持っていることになるようだ。」
『そんな、パワー・ストーム様・・・』
メイクにはもうどうしようもなく、お手上げだった。
こうなったらぼくが取り返すしかない・・、だけど内藤さんを相手にどうすればいいんだろう・・・?
ぼくは考えに考え・・・、ある方法を思いついた!
「ねぇ、メイク。ぼくにいい考えがうかんだよ!」
『えっ、本当かミライ!?』
ぼくは作戦の内容をメイクに小さな声で話した。
『でも、その作戦じゃ上手くいくかわからないぞ。』
「うん、でもぼくたちにはこれしかないよ。」
『よし・・・、それじゃあ行くぞ。』
そしてぼくは内藤さんにこう言った。
「内藤さん、せっかくグッドシナリオがあるから、内藤さんも使ってみませんか?」
「おれがか?いや、それはできないはずだが・・・?」
『それがね、条件次第で管理者権限を使えば、契約者ではない内藤さんでも使えるようになるのです。』
「・・・本当?」
内藤さんは少し食いついた顔になった。
『はい、実はグッドシナリオの裏表紙のところに手のひらをあてることで、あなたでも使えるようになるのです!』
「うーん、どうもあやしいなあ・・・」
内藤さんは疑いの目でぼくたちを見ていた。
「大丈夫だよ、メイクが保証するから!」
『ああ、管理者であるぼくを信じて!』
内藤さんはグッドシナリオを見ながら考えた、そしてぼくとメイクに言った。
「よし、それじゃあきみたちを信じよう。」
そして内藤さんはグッドシナリオの裏表紙に、手を置いた。
「よし、それじゃあページを開いて。」
そして内藤さんがページを開いたとたん、グッドシナリオが赤く光りながら激しくふるえだした。
「なんだ、なんだ?」
そして内藤さんはグッドシナリオを落としたすきに、ぼくはグッドシナリオをとりもどした。
「やった、取り返した!」
「だまされたか・・・!それを渡せ!」
内藤さんはぼくに向かってきた、するとメイクが内藤さんに飛びついた。
『ミライ!はやく書きこむんだ!』
「あっ、こら!離せ!」
内藤さんとミライが戦うなかで、ぼくはグッドシナリオのページを開いて書きこんだ。
『雲がはれて、夜空がかがやいて見えますように』
そしてぼくが空を見ると、雨が止んで空が晴れてきた。
そしてぼくはしばらく空を見上げた。
「うわぁ・・・、きれいだな・・・」
空には光る星がたくさんかがやいていて、まるで空に無数のイルミネーションがついているようだった。さそり座も白鳥座もその星をつなぐ線がくっきりと光り、夜のなんてことのない景色が、今夜はいつもより人一倍輝いていた。
さらにここで、空に流れ星が流れ出した。
流れ星が夜空にラインを引くように光り、それは夜空をよりいっそうきれいにかがやかせていた。
「すごい、すごい景色だ・・!星たちがまるで生きているみたいだ!こんなの、プラネタリウムみたい、いやそれ以上だよ!!」
そして内藤さんもメイクも、今までの争いをすっかりわすれてしまい、夜空をながめていた。
「ふふふ、ハハハハ!」
突然、内藤さんが笑いだした。
「どうしたの、内藤さん?」
「いやあ、まさかこんな絶景に出会えるなんて思わなかったよ。君とメイクには完敗したよ・・・」
そして内藤さんはその場から去ろうとした、ぼくは内藤さんに声をかけた。
「内藤さん、どこに行くの?」
「家へ帰るんだよ、パワー・ストームも『もうお前の役目は終わった』って言ったからね。だけど近い内にまたミライに会いに行く、その時まで待っていてね。」
そうして内藤さんは去っていった。
「メイク、結局何だったんだろう。」
『おそらく、パワー・ストームのきまぐれだったんだろう。きみにちょっかいをかけろというね』
やれやれ・・・、もうこんなことは止めてほしいな。
だけどそのおかげで、これほどすごい絶景を撮影することができた。だからぼくとしては、結果オーライかな?
「ねぇ、ミライ!ちょっと、こっちに来てよ!夜空がすごいことになっているから!」
母さんがぼくを呼ぶ声が聞こえた。
そしてぼくは母さんのところへやってきた。
「ねぇ、見てよ!この星空、今までどしゃ降りの雨だったのがウソみたいだわ。」
「そうだね。母さん、もう一度バーベキューしない?」
「そうね、この景色を見ながら食事するのも悪くないわ。ミライ、用意するの手伝って」
そしてぼくと母さんは再びバーベキューの用意をして、満天に輝く星空を楽しみながらバーベーキューを食べたんだ。
翌日、朝のニュースで昨日の満天の星空がニュースで流れていた。
「みんな、この星空をながめていたんだ。」
さらにニュースでは、雨上がりの後の絶景ということもあり、SNSでこの星空の映像を投稿が相次いだという。
「いやあ、やっぱりこれは絶景だったね。」
『ああ、そうだな。ところで、ミライに話しておきたいことがある。』
「どうしたの、メイク?」
『内藤のことだよ、あいつは近い内にまた来ると言っていた。だから来る前に、何かできることをしておかなければならない。』
「そうだね、またパワー・ストームのきまぐれに協力するかもしれないし。どうにかしないと」
でも一体、どうしたらいいのかわからない。
『とりあえず、まずはグッドシナリオを安全な場所へ保管しないと。せめて金庫みたいなものでもあればいいんだけど・・・』
「金庫・・・、そうだ!ぼくたちでつくればいいんだよ!」
『え?金庫をか?』
「うん、グッドシナリオをしまうための金庫だよ。名付けて、『グッドバンク』というのはどうかな?」
『グッドバンク・・・、それだと銀行という意味だけど、まあ似たようなものだからいいか。』
こうしてぼくとメイクは、グッドシナリオをしまうための金庫を作ることになった。
まず箱だけど、これはお菓子の入っていた鉄の箱にした。そして問題はカギである。
「カギ、どうやって作ろうかな?」
『そうだな、グッドシナリオで作るか、それともだれかに頼んでつけてもらうか、一体どうしたら・・・』
「ひとまず、母さんに相談しよう。」
ということでその日の夕方、ぼくは母さんに相談した。
「あのね、大切なものをしまうための箱を作ろうと思うけど、そのための鍵がほしいんだ。」
「えっ、鍵!?まるで金庫じゃない、本格的ね・・・。あっ、それなら丁度いいのがあったわ。」
そしてお母さんは、家の駐車場にある一台の自転車のところにいった。
この自転車は、お父さんが使っていた自転車で、元々ついている鍵の他にも、ダイヤルをそろえると開くチェーンキーがつけられている。
母さんは自転車からチェーンキーを外すと、ぼくのところに持ってきた。
「これを金庫のカギに使ったら?もうこの自転車、処分するから。」
ぼくにはぼくの自転車があるし、母さんは車が運転できるから、もうこの自転車は使わないんだ。
ぼくは母さんと一緒にチェーンキーの番号を設定した。
番号は381、自分の名前を鍵にしたんだ。
ぼくはチェーンキーを箱に巻きつけ、鍵をかけた。
「ふぅ、これで金庫の完成だ。」
ぼくはホッとすると、グッドバンクを自分の部屋のテーブルの引き出しにしまった。
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