第5話夏祭りと父の秘密

その日の夜、寝る前にぼくはメイクに聞いてみた。

「ねぇ、グッドシナリオがあってもムナスマンに勝つことは難しいってどういうこと?」

『それだけムナスマンが強いということだよ。』

「強い・・・、ムナスマンってそんなに強いの?」

『ああ、ムナスマンにはとにかくいろんな事ができるからね。剣だけでなく、水を操ったり、ワニみたいに噛みついたり、神の力を使えたりと、とにかく万能な戦士と言われているんだ。』

ぼくはムナスマンの強さがどれくらいのものをなのか、想像できなかった。

だけど、グッドシナリオがあれば必ずムナスマンに会うことができ、そして父の敵をとることができると、ぼくは信じている。






そして梅雨の季節はすっかり過ぎて、夏が始まった。

昨日、ぼくはグッドシナリオにこんなことを書いた。

『明日、みんなが色んな味のかき氷を食べられますように』

そして今日はその書きこみが、事実になる。「さあ、どうなるのかな?」

と思っていたぼくだったけど、その日は学校でとくに何もおこらなかった。

ぼくはとたんに不安になり、昼の放課後メイクに相談した。

「ねぇ、何も起こらないけど、大丈夫かな?」

『だから大丈夫だってば、学校の時間でおこらなかったということは、学校が終わってからおこることだから。』

学校が終わるのは午後五時なので、みんながいるのはおそらく登下校中の時間だけだ。

その間に書きこみが現実になるのかどうか、ぼくはドキドキした。

そして下校の時間、ぼくはふだん一年から六年までの生徒およそ二十人のグループで登下校している。そのグループには、ぼくと一緒に八倉くんもいる。

ぼくたちは規則正しく並びながら下校する、そして真っ直ぐ道を歩いていると、何かの屋台のようなものが、道を塞いでいた。

「なんだろう、あれ?」

「なにかの屋台じゃないか?」

ぼくたちがさらに進むと、屋台のとなりにこまった様子のおじさんがいた。

ぼくはおじさんに声をかけた。

「あの、どうしたのですか?」

「ああ、実は屋台の車輪しゃりん側溝そっこうにハマってしまったようで、抜けなくてこまっていたんだ。」

「それじゃあ、ぼくたちで引っこ抜いてあげるよ。」

ぼくはみんなに「いっしょに手伝ってくれる人は?」と呼びかけると、八倉くんたち七人が参加してくれた。

そしておじさんといっしょに屋台を持ち上げると、車輪は側溝から外れた。

おじさんはぼくたちにお礼を言った。

「きみたちには迷惑をかけたな、お礼にかき氷でも食べていかないか?」

「えっ!?かき氷!」

「ああ、もちろんタダだ。きみたちだけの特別だよ。」

ぼくたちは大喜びした。そしておじさんから一つずつかき氷をいただいた。

「うめぇ、かき氷が食べれてラッキーだぜ!」

グッドシナリオに書いたことがかなうかどうかの不安は、かき氷の美味しさと冷たさですっかり無くなっていた。






そして家に帰ってくると、母さんから報告があった。

「ついさっき、田部さんが家に来たわよ。」

「えっ!?田部さんが来ていたの!?」

「ええ、お父さんの遺品を渡しに来たのよ。ミライも見る?」

お父さんの遺品と聞かれて、ぼくはとても気になった。

「見せて、見せて!」

ぼくが母さんにせがむと、母さんはダンボール箱をぼくの前に持ってきた。

ダンボールの中には、父さんがかぶっていたぼうしや着ていた服が入っていた。

「父さん・・・。」

ぼくはなつかしくなって、父さんを亡くした悲しみがよみがえった。

昔、父さんといっしょにアフリカに行った時のことを思い出した・・・。暑いサバンナで生きる動物たち、そしてサバンナで生きる人々の生活。そこでふれたことは、ずっとぼくの頭の中から消えることはないだろう。

「父さん・・・、もっと父さんと一緒に冒険したかったよ。」

「そうね、私ももっと一緒にいたかったわ。そうだ、たしかこんなものがあったわ。」

そして母さんは一冊のノートをぼくに渡した、表紙がボロボロでかなり使い込まれているノートだった。

「そのノートは、アフリカでの仕事を始めてから死ぬまでの記録を書いた日記なの。」

父さんがつけた日記・・・、なにが書いてあるのか気になり、ぼくは息を飲んだ。

「ねぇ、この日記読んでもいい?」

母さんは二つ返事で「いいよ」と言った、それからぼくは自分の部屋に行って日記を読んだ。

『ミライ、そのノートはなんだ?』

「ああ、ぼくの父さんが書き残したノートなんだ。今から読むところ。」

そしてぼくは父の書いたノートを開いた、父さんがアフリカに行った日から書かれた記録が書き記されていた。

現地での生活、自然の豊かな景色、そして援助されて喜ぶ人たちと、アフリカでの記録が書かれていた。

しかしぼくは見つけてしまったんだ、父さんの日記にあの名前を・・・!

「セベク・ムナスマン・・・」

それは父さんが亡くなる一ヶ月前の日の日記に書き残されていた。

『私がシマウマを観察していると、ショットガンの音が聞こえた。気になってしげみからのぞきこむと、密猟者がシマウマを一頭しとめていた。とんでもないものを見てしまい、後退りしようとしたらやつらに見つかってしまったんだ・・・、私はショットガンの先を向けられ、今にも私を撃ち殺そうとする密猟者たち。するとそこへヒーローが現れた、ワニの頭をした堂々とした姿の剣士、彼は密猟者たちをその剣でバッサリと倒した。まるで時代劇の主役さながらの彼は、「だいじょうぶですか?」とやさしく声をかけてくれた。幸い撃たれたシマウマは、麻酔で寝ていたようで、起きあがると走り去っていった。彼はセベク・ムナスマンといって、この地にあるものを回収しにきたという。私は助けてくれたお礼に、彼を村まで案内してあげた。案内する時に、ムナスマンはなんとワイバーンに乗せてくれた。空を飛ぶワイバーンからの景色はよかった。』

ムナスマンは父さんを助けてくれた・・・、だとしたらムナスマンはどうして、父さんを殺したんだろう・・・?

それから続きのページを開くと、父さんがムナスマンと楽しく過ごす日々が書き残されていた。

『ほぅ、きみの父さんはムナスマンと一緒にいたようだな・・・。』

メイクは日記をのぞきながら、興味津々に言った。

そして父さんは、ムナスマンと冒険をしていたことを書き残していた。

『私とムナスマンは、サバンナのどこかにある「グッドシナリオ」を探していた。それは願いを書きこむことで、その願いをかなえてくれるという魔法のような道具。ムナスマンの目的は、グッドシナリオを回収してボスのところにとどけることだ。ボスはグッドシナリオが悪用されないように、厳重に管理することが目的だそうだ。サバンナのど真ん中を進んでいく、ライオンやハイエナを振り切って、ワニのいる川を越え、静かで怖い夜を何度も過ごした。そしてついに、あるバオバブの木の根本を掘り返すと・・・、だれかが埋めた本のようなものが出てきた。ムナスマンはこれがグッドシナリオだと言った。ページを開いてみるとなにも書かれておらず、本というよりはノートみたいな感じだった。』

父さんはムナスマンと一緒に冒険をして、このグッドシナリオを手に入れた。

グッドシナリオは本来、ムナスマンが持って帰るはずだったものだが、ぼくが持っている。

「つまり父さんはムナスマンから、グッドシナリオをもらったということかな?」

『それは違う、ムナスマンはボスからの命令を放棄するようなやつじゃない。考えられるとすれば・・・、父さんがグッドシナリオを持ち出したんだ。』

「父さんがグッドシナリオを持ち出した?」

『願いをかなえられる代物だからな、そんなのがあったら、魔が差して盗み出したくなるのも当然だよ。もしかしたらムナスマンは、きみの父さんがグッドシナリオを持ち逃げしたことを知って、取り返すためにやむなく殺した。』

「父さんはそんなことしないよ!」

『どうだか・・・、グッドシナリオには、人の欲望をわき上がらせるほどの魅力があるからな。』

メイクは父さんがグッドシナリオを持ち出したと思っているみたいだけど、ぼくはそんなこと信じない。

そんなことしないよね・・・、ぼくは父さんの日記につぶやいた。







そしてそれから月日は過ぎていき、ついに夏休みが始まった!

「やったー、夏休みだ!そして三日後は、夏祭りだ!」

『ミライ、すっかり張り切っているな。ところで、夏祭りでやることはもう書いたのか?』

「うん、いくつか候補が浮かんだから、メイクも選ぶの手伝ってよ。」

「ああ、いいよ」

そしてぼくとメイクは部屋にもどって、夏休みに起こすキセキについて話し合った。

「最後にいつもより派手な花火をあげた方がいいと思う、祭りのしめくくりはハデな方が印象的でいいからね。」

「うーん、やっぱり夏祭りは全体が楽しい方がいいと思う。だからパレードで、より楽しく盛り上げた方がいいよ。」

最後に花火を派手に上げるか、パレードを行って最初から盛り上げていくか、ぼくとメイクは話し合っていた。

「ミライ、ちょっといいかしら?」

母さんがぼくを呼んでいる、ぼくはドアの前にいる母さんに話しかけた。

「どうしたの母さん?」

「友だちの倉田さんから電話よ。」

そういえば倉田さんは、毎年夏祭りを楽しみにしていたっけ。もしかしておさそいの電話だと思ったぼくは、電話の受話器を持った。

「もしもし、美紀ちゃん?」

「ああ、ミライくん。夏祭り、楽しみだね。」

「えっ・・・うん、そうだね。」

美紀さんはどこか暗い・・・、何かあったのかな?

「美紀ちゃん、何か変だよ?一体、どうしたの?」

「実はね、私今年の夏祭りに行けないみたいなの・・・。」

「えっ!?どうして?」

「実は、今年は父さんと泊まりで長野へ旅行へ行くことになったの。わたしだけお留守番したいってお願いしてみたけど、ダメだって言われて・・・」

「そっか、それは残念だね・・・。」

「うん、とても残念よ。ミライだけでも、楽しんできて!」

美紀ちゃんは元気にそう言うと通話を切った。

「美紀ちゃん、夏祭りに行けなくて残念そうだったなあ・・・」

ぼくはそう思いながら自分の部屋に戻ろうとした時、母さんが声をかけてきた。

「美紀ちゃんからの電話、なんだったの?」

「美紀ちゃん、今年は夏祭りに行けないようなんだ。」

「あら、残念ね・・・。そうだわ!」

そう言って母さんが出したのは、父さんが使っていたビデオカメラだ。

「これで夏祭りの動画を撮影して、美紀ちゃんに贈ってあげるのはどうかしら?」

「それ、いい考え!さすが母さん!」

「撮影はミライにまかせるわ、いい映像を撮影してきてね。」

母さんはそう言うと、カメラをぼくに渡してキッチンへと向かった。

「ぼくが撮影するのか・・・、でもそれならぼくが夏祭りを盛り上げるところも撮影して、美紀ちゃんに見せてやろ!」

そしてぼくは自分の部屋へと戻っていった。








そして夏祭り当日になった、ぼくが昨日の夜にグッドシナリオに書いたのはこんなことだった。

『明日の午後七時に、夏祭りに盛大なパレードをして、大きくあざやかな花火が打ち上げられますように。』

夏祭りまで後六時間、ぼくはウキウキしながら祭りの日が来るのを楽しみにしていた。

そして午後六時、ぼくはカメラを持って出かけた。行き先は近くにある光明神社こうみょうじんじゃ、行く途中で八倉くんと合流した。

「今日は楽しもうな、ミライ。ところで、そのビデオカメラはどうしたの?」

「今年は夏祭りに行けない美紀ちゃんのために、夏祭りの様子を撮影してビデオにして見せてあげるんだ。」

「それいいな、せっかくだからおれも映らせてよ。」

そしてぼくと八倉くんは、光明神社へやってきた。すでに夏祭りは始まっていて、浴衣を着た人やいろんな屋台があって、ふだん人気のない神社がとてもさわがしくなっていた。

「よし、まずはかき氷を買おうぜ!」

「あっちにみたらし団子もある、どれから買おうかな?」

ぼくと八倉くんは、ビデオカメラで撮影しながら祭りを楽しんでいた。

時刻は午後六時五十五分、そろそろグッドシナリオの時間だ!

持ってきたスマホの時計が、少しずつ七時に近づく度にしてぼくはウズウズした気持ちになった。

そしていよいよ七時になった・・・、花火が突然大きく派手になった!

「おお〜!これはおどろいたなあ・・・」

「こんなに大きい花火は、例年まれに見るなあ」

「ねぇ、なんか今年の花火かなり派手じゃない?」

みんなは打ち上げられた花火に目が釘付けになっている。

そしてさらに花火の打ち上げに合わせるように、にぎやかな音楽とかけごえが聞こえてきた。

「おおっ!?これは来たぞ・・・」

「ミライ、何が来たんだ?」

「パレードだよ、パレード!」

ぼくは八倉くんの手を引いてパレードを見にやってきた、パレードの近くはすでに多くの人たちでうめつくされていた。

「うわーっ、ディズニーに負けないくらいのパレードだな・・・!」

「だよね、これはすごいぞ・・・!」

ぼくはグッドシナリオのすばらしさによろこびながら、ビデオカメラで撮影を続けた。

このまま、楽しい時間が続くと思っていたんだ・・・・、だけど悲劇が突然起きた。

「ワンワン、ワンワン!」

「うわーっ、野良犬だーっ!」

突然、どこからか野良犬がやってきたようだ。

「えっ、野良犬が出たの?」

「君たち、早くにげなさい!襲われるぞ!」

町内会のおじさんがぼくと八倉くんに言った。

「あの、襲われるぞってどういうこと?」

「野良犬がむれで襲ってきたんだよ、噛まれたくなかったら早く逃げるんだ!」

そう言うとおじさんは逃げていった、ぼくと八倉くんはあわてて走り出した。

そしてぼくは、悲惨な光景を見たんだ・・・。

するどい目付きでにらむ野良犬たち、そして野良犬が荒らした屋台、夏祭りの全てが台無しになってしまった。

「そんな・・・、みんなの夏祭りが、どうしてこんなことに・・・?」

ぼくはパニックになった夏祭りの会場を後に去ろうとした時だった・・・。

「くそっ、大人しくしろ!」

一人の青年が、木刀を持ってたくさんの野良犬を相手に戦っていたんだ。

青年は野良犬に取り囲まれながら、こんなことを言った。

「今日は夏祭りなんだ、みんなのじゃまをするんじゃない!」

その勇ましい姿を見ていると、ぼくはこうなりたいという思いが強くなった。

「ぼくが盛り上げようとした夏祭りを、めちゃくちゃにされてたまるか・・・!」

そしてぼくは何も考えずに、青年のところへ走り出した。

「おい、ミライ!あぶないぞ!」

八倉くんが後ろからよびかけるが、それを振り切って青年のところへやってきた。

すると一匹の野良犬がぼくに向かって飛びかかってきた、ぼくはあわてて顔を手でかくすと、青年が木刀で野良犬を払いのけた。

「おい、早く逃げるんだ!ここにいたら大ケガを負うことになるぞ!」

「ぼくも戦う・・・、この夏祭りはぼくが盛り上げたんだ!」

「きみは、日野ミライくんだね。だったら、この状況を打開できるはずだ!」

えっ、どうしてぼくの名前を知っているの?

そう思ったけど、今はこの野良犬たちをなんとかしないと・・!

と言っても頼りのグッドシナリオは、家に置いてきている。武器もないぼくに、野良犬たちを止める方法はない。

『ミライ、持ってきたぞ!』

するとメイクが、グッドシナリオとペンを持ってきた。

「えっ!?どうしてメイクが持ってきたの?」

『これも管理者権限だ、必要な時に持ってくることができる。』

これでなんとかできる!

ぼくはとっさにグッドシナリオに書き込んだ。

『神社の狛犬が今ここで、ものすごい大きな音でほえる。』

すると「グワァーッ!!」とものすごい音が聞こえた。

「すごい声だ・・・!」

声のする方を見ると、神社の狛犬がいつもより恐ろしい顔でにらんでいた。

もう一度「グワァーッ!!」と音がなると、野良犬たちはみんなしっぽをまいて神社から逃げ出した。

「やった・・・、追い払えた。」

「さすがグッドシナリオだね、すごい力だ。」

「あの、野良犬たちを追い払ってくれてありがとう。あなたの名前はなんというの?」

「おれは内藤ないとうというんだ、よろしく。」

「ぼくはミライ、よろしく!」

さんざんな夏祭りだったけど、新たな出会いがあってよかったと思う出来事だった。





















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