第2話 出航準備1日目 朝〜昼

「イガイ、なにぼうっとしてんだ。糸引いとるぞ。」

あくびが出るか出ないかのギリギリをほっつき歩く睡魔と昨日の誘いについて思考を巡らせ続けていたせいで魚がかかったことに気づかなかった。

「あぁっ・・・おっちゃん。教えてくれてあざっす!それっ!」

釣れたのはそれなりの大きさのスズキだった。

「いい大きさのスズキだな。・・・とにかく釣れたのはいいんだがお前、今日ちょっと調子おかしいぞ?」

「いやぁ、昨日あまり寝れなくて・・・」

「そうかい、お前にしては珍しいな。でもとにかく今日は30匹釣らんと帰れんぞ?」

「「「えぇ〜!!」」」

さすがに30匹は多くないかと思ったが

「30は冗談だ。それでもこの大きさのが15は欲しいなぁ。だからつべこべ言わずさっさと釣った釣った〜。」

とあっけなく言われてしまい、返す言葉も出なかった。

その後そそくさと餌をつけようとしてたらベーカーから、

「お前、さっきも昨日のこと考えてただろ。」

とこっそり指摘され一瞬顔を引きつらせてしまった。それを見たベーカーは「やっぱりな」という顔をして

「で、どうだ?答えは決まったか?」

と聞いてきた。「まだ・・・。」と伝えようと口を開いた瞬間アクセルが

「な〜に2人でこそこそ話し合ってるんだ?」

と聞いてきた。

僕はおっちゃんの前ではなかなか話しづらいことなのではと思ったが驚くべきことにベーカーは堂々と

「アニキはこの海の向こう側がどうなってるか気にならないか?」と問いかけた。

「考えたこともねぇや! だけど言われてみれば気になるな」とアニキは答えたがおっちゃんは

「何言ってんだ!この島を出るなんて正気の沙汰じゃねぇ。そんな危ないことするよりこの島でのんび〜りと暮らすのがええんや。この島なら時々漁にでて、山菜をとってこの島で家族を儲けて家族と暮らす。それこそが幸せだよ。」

「そんな決まり腐った幸せなんかに興味はないですね。」

「それは決まり腐った幸せを楽しんでる俺への当てつけか?でも、悪いことは言わない。この島で過ごすのが一番だ。」

「・・・ではこの島で過ごすのが一番な根拠はなんですか?おっちゃんはこの島を出たことがないのにそう言い切れる根拠があるんですか?」

「…だとしてもだ。そんな危ないことをする必要はない。島んなかで冒険するのは構わんが島を出るのはやめとけ。」

おっちゃんはそう言うと釣りに集中した。一方ベーカーは特に気する様子もなくアクセルと話をしていた。

 僕らは5時間ほどかけて20匹ほどの魚を釣った。その後島に戻ると、おっちゃんは釣った魚を引き揚げながら

「お前ら、俺が話をした後も島を出る計画を立てていたみたいだが本当にやめとけ。長老は許さんやろうし家族も悲しむからな。」

と言い、釣った魚を処理しに調理場へ持っていった。僕らは各々の家に戻り遅めの昼食を取った。昼寝でもしようかと思ったが昨日の誘いについて話したかったしアクセルはどうするのか気になったので僕らがいつも遊んでいる砂浜に向かった。するとアクセルとベーカーがいそいそと木を切り倒してた。

「お、お前ら何をやっているんだ!?勝手に木を伐るのはまずくないか!?」

「何をしているって船造りだよ。冒険に船は欠かせないからね。」

確かに海に囲まれたこの島で泳いで冒険するのは無理がある。しかし冒険のためとはいえ長老たちに黙って木を伐るのは怒られるだろうし、そもそも僕たちだけで組んだ船は安全なのだろうかと不安にも思った。

「で、お前はどうするんだ?行くのか?行かないのか?」

僕の心配をよそにベーカーは僕に選択を迫ってきた。しかし僕は行くかどうかまだ決めかねていた。なので僕は、

「もうちょっとだけ考えさせて」と伝えた。

ベーカーは少しも表情を変えることなく「そうか」と一言呟き、

「せっかくここに来たんだ。船作りの手伝いでもしてくれないか。…お前だってこの船に乗るかもしれないからね。」

と言うと木の長さを整えに行ってしまった。

しかし船作りを手伝うよりもアクセルがどうするのか気になり話しかけようと踏み出した。

すると

「あぶねぇ〜から近寄るなぁ〜」

というアクセルの声が聞こえたと思うとメリメリメリッと大きな音を立ててヤシの木が倒れてきた。

幸い木は僕のそばに倒れたためけがをすることはなかったが、

「危ないっ!」

反射的にそう叫んでしまった。アクセルは僕に近づきながら

「わりぃ、わりぃ。そっちでぽけーっとベーカーと話していたからこっちに来るとは思わんくてね。ところでイガイは冒険に来るんか?」

といつもの軽口で聞いてきた。

「・・・まだ、悩んでる。」

「そうか、準備があるから早めに決めろよ。ちなみに俺は行くからな~」

アクセルはそういうと伐採に戻っていった。

何をすべきかベーカーに聞こうとしたらさっきの叫び声を聞いたのかはたまた木が倒れる音が聞こえたからなのか。村の大人たちが飛んできた。

大人たちは僕、ベーカー、アクセルの三人と倒れた木々を見て、

「何やってるんだ!お前たち!」

「木々を切り倒して何する気だ!」

大人たちは僕たちを見て怒鳴り散らしてきた。

大人たちに一番近かった僕は真っ先に迫られ、

「何をしていた?」

「子供だけで木々を切り倒したら危ないに決まっているじゃないか。」

「なんのために木を切り倒しているの?」

と矢継ぎ早に聞かれた。

僕は何も言えず、黙ってると

「黙ってないで何か言え!」

とさらに怒鳴られてしまった。

どう答えれば良いのかと考えていると、ベーカーがやってきた。

「ねぇ、ベーカー!これは何なの?」

「おい、ベーカー!木を伐って何に使う気だ?」

ベーカーも矢継ぎ早に聞かれたため、僕はベーカーがさばききれるか心配したがそれは杞憂だったようだ。大人たちに堂々と受け答えをしていた。

「僕たちはこの島の外の世界が気になるから島を出るための船を作っているところです。それを作るため木を伐採しています。」

これを聞いた大人は目を丸くした。

「・・・何を考えてるのあなたたちは!」

「・・・島を出るなんてとんでもない!考え直せ!」

「・・・そんなことしてみろ!死ぬぞ!」

「あ、悪魔にでも憑りつかれたのか?!」

方々から反対の声が飛び交う。しかし、ベーカーはそんなことにも臆せず、

「悪魔に憑りつかれたわけではありませんが、この島を出てみたいのです。」

と堂々と言い切った。

あまりの荘厳さにまわりの大人たちも身を引き、

「これは言っても聞かんな。」

「ほとぼりが冷めたらもう一度説得しよう。」

「長老たちはなんと言うかな。」

と言って次々と住処へ戻っていった。

「あんな風に騒がれちゃったけどいいのか?」

木の長さを整えに戻るベーカーに聞くと

「構わないね。僕らは僕らだ。臆病者の大人たちには見つけられない何かを僕は見つけたいんだ。」

そう言い切るベーカーに僕は惹かれた。そして、この島の人々が知らないものを探すという事実に改めて気づき、なんともいえぬ高揚感に襲われた。そして僕は、


「・・・行く。俺も一緒に行く!」

思わず口を開いていた。

ベーカーはぱっと顔を輝かせて、

「そうこなくっちゃ!」

と叫んで砂浜を駆け出した。


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世界の果てまでどこまでも 黒蜜パンダ @jr17137

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