世界の果てまでどこまでも

黒蜜パンダ

第1話 小さな世界

「僕という存在は何なのだろう?」

黄昏時、海を眺めながら僕はその言葉を口にした。

「突然どうした?」

僕の親友にして幼馴染のベーカーは不思議そうな顔で僕の顔を見た。

「いや、ただなんとなく思っただけ。大人たちはみんなこの狭い島で死ぬまでここから出ることもなく暮らしていくけどもし僕たちがこの島を出てこの島の先の世界を見たとき僕という存在って何なのか気にならないかい?」

「たしかにな。この島に住む人はみんな顔知ってるもんな。島だって2時間あれば島のまわり一周できるもんな。」

僕の島は小さい。人口も1000人いるかいないかといったところだ。

「・・・気になるならこの島を出てみないか?」

「・・・正気か?」

「だけど興味はあるんだろう?ならやってみればいいじゃないか」

「でも二度と帰ってこられないかもしれないんだぞ?いや、その可能性のほうが高いんだぞ?!」

「そんなん分かってる。でも俺はそっちのほうがおもしろそうだと思う。」

「いや、俺はいかん。」

「…せっかく仲間を見つけられたと思ったんだがなぁ」

「そんなん一人で行って来いよ。つーか、お前も島の外がどうなっていたか気になっていたんだな。」

「…まぁな。この島はあまりに狭いのにも関わらず目の前に広がる海はとてつもなく広い。だからこそ海の先の世界がどうなっているのか知りたいんだ。でも冒険は一人では面白くもないしただ危険なだけだ。一人では乗り越えらないアクシデントも何人かいれば乗り越えられることだってある。例えば昔おまえと一緒に向こうの山を登った時おまえは足を滑らせた落ちかけたことがあった。お前は咄嗟に崖にしがみついたが一人ではよじ登れなかった。だけど俺とアクセルのアニキと共に引っ張り上げ助かった。それと同じ理屈だ。」

「とりあえず言いたいことと複数人で行く必要があるのはわかった。だけどいくら親友だからといえどもそんな無茶には付き合わんぞ。」

「そうか。にしても意外だな。お前は昔はあの山の向こうはどうなってるんだろうっていって冒険に出かけたり、此間だって『儀式なんてやる意味あるのか〜』とか『こんな古臭い島嫌だ~』なんて言って回って長老たちを怒らせたというのに。」

「それとこれは別だ。命の危険だってある」

「お前はそんなことを気にするような奴じゃないだろ。普段からかなり高いところにあるバナナを身一つで取りに登り、サメが近くにいるのが分かっているのに目先のいわしの群れに気を取られ平気で海に潜る。お前はそういう奴だろ。」

「確かにそうだけどさぁ…」

「それ以外に何か行きたくない理由でもあるのか?」

「二度とみんなに会えなくなることとかかな・・・?」

「大丈夫だ。きっと帰ってこれる。」

「・・・その根拠は?」

「ない。」

「ないのかよ!」

「根拠はないけれどいつか必ず戻れるさ。そんな気がする」

「そんな気がするって無責任な・・・。でもちょっと面白そうなんだよな・・・。」

「とりあえず今日はもう日が暮れる。一度家に戻って明日また話そう。」

「そうだな。じゃまた明日。」

 その夜僕はひとり考えていた。本当に島の外へ出るのか。家族には話すのか。長老たちはなんていうか。どのようにして島を出るのか。食糧はどうするか。ふたりだけで良いのか・・・。悩みは尽きなかった。

 翌朝、若干の睡眠不足を感じながら桶に貯められた水で顔を洗った。普段ならこんな事しなくても日の光を浴びればすっきりと起きれるものだが昨日は夜延々と悩み続けしまいには悩み続けたまま寝落ちしてしまった。そのせいで頭の働きが少し鈍っているのだ。

「おはよう。…なんかあんた顔が疲れてるけどどうしたん?」

「いや、何も…。」

「そう、ならとっとと朝飯食べて釣りの手伝いの準備せーや。」

「分かった…。」

それから急いで朝の支度を済ませ、波止場へ向かうとベーカーとアクセルのアニキがいた。

アクセルは僕やベーカーよりも一つ年上だが狭いこの島では多少年齢が違っても友達なのだ。ただ、一つ残念なことに彼はお調子者でベーカーの方がよっぽど大人びてるように見えるのだ。それゆえ村の同年代の女子からは旦那にするならベーカーが良いという声が多い。ちなみに僕を旦那にしたいという声は聞いたことない…。(シクシク…)

「おせーぞ〜 お天道様はもう真っ昼間の半分まで登ってるぞ〜」

アクセルは呑気にそう言い、僕の顔をまじまじと覗きこんだ。

「俺の顔に何かついてるか?」

そう僕が問うと、

「い〜や何も。ただでさえ普段から眠たげな顔してるのに今日はよりいっそう眠そうな顔してるなと。」

「普段から眠たげな顔なんてしてない!」

「まぁまぁいイザイ、アクセルのいつもの軽口だ。そうムキになるな。普段から眠そうな顔してるのは本当だけど。」

「ひどい!」

「いや、眠そうというか呑気というか危険に鈍感というのか。まぁそこがお前らしいところだけどさ。」

「それどちらにしろ褒めてないだろ…。」

「そんなことないぞ。その鈍感さが今度の冒険で役に立つかもしれん。」

その言葉を聞いた僕は思わず「あのさ…本当に行くの?」と聞いた。

そしたらベーカーは「何を言ってるんだ?」という顔をして、

「もちろんだとも。行くに決まってるじゃないか。お前が来てくれれば明日にでも行くさ。」

と答えた。本当はもっと色んなことを聞きたかったけどちょうど島のおっちゃんが「お前らいつまでそこで突っ立てるんっじゃ!」と怒鳴り散らしたので僕は我に帰り、いそいそと船に乗り込んだ。

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