切半
えだまめ
前章
木々が冬めき、陽が沈みかけるなか、男は山道をくらりくらりと歩く。
目的もなく。少し汚れた着物を身につけ、腰には刀。男は20代半ばといったところだ。
「ハラ減ったなぁ、、、もうここ何日も食べてない。どうにかなりそうだ。
どこか近く村でもないかな、、、」
男はここ数日なにも口にしていない。この山には何故か動物が見当たらず、食料が見つけれずにいた。ここ数日の記憶があまりない。ふらふらになりながら歩き続けると、遠くに小さな村が見えてくる。しかし、それより先に目に入ってくるものがあった。
「これはやばいんじゃないかぁ、足が痛すぎて動けないや、、どうしよう、、」
そう言いながら獣用の罠に引っかかり、足から血を流しながら、呑気に声を挙げている10歳ほどの見た目の少年が一人。男には気付いていないようだ。男はチャンスだと思い、声を掛ける。
「少年、大丈夫か?手を貸そうか?」
「!、、ちょっとだめそうなので、、できれば手を貸していただきたいです、、」
「任せろ!俺が家まで送ってやる!」
(そして、家まで行って食いもんにありついてやる、、!)
そう言い、その場で自分の着物の一部を破り、簡単な止血を行い、不純な思いとともにその少年を背中におぶる。そして少年の住むであろう先ほど見つけた村の方向に足を進める。
「ありがとうございます、、見ず知らずの自分に手だけじゃなく背中まで貸して頂いて、、」
冗談を言えるほどには元気な様子だ。
「なんでこんなところにいるんだ?」
「山に獣を狩りに行ってまして、、自分の設置した罠に引っかかってました、、、おじっ、、お兄さんはなんでこんなところいるんですか?村の人じゃないでしょ。」
「お兄さんはね、、、旅っていうのかなー、うーん、自分でもよくわかんないな。」
最初は少し口調強めに後は少し言葉を濁すように答えた。この少年は抜けている部分はあるが礼儀正しく、初対面の大人に対しても抵抗なく話せるようだ。そしてもう一つ質問をする。
「なんでこの山には動物が少ないんだ?おかげでここ何日か何も食べてなくて倒れそうだよ。お前も何も取れてない様子だし、、」
「それは僕にもよくわかりません、、、けど、この山には鬼が出るらしくて、、その鬼が動物を食べちゃうらしいんです。」
「、、、鬼か。それは怖いな。というか、そんな噂のある山によく一人で入ってきたな、お前。」
「それはおじっ、、お兄さんも一緒じゃないですかー?お兄さんも変な人ですよ、こんな山にいるし、刀あるし。」
「これはなんとなくつけてるだけだよ。あれだよ、護身用。おい、危ないからあんまり触ろうとするな。静かにおぶさっててくれ。」
少年は「は〜い。」と気が抜けた返事をし、そのままに静かになったと思ったらそのまま背中の上で寝てしまっていた。
そしてそこから少し時間が経ち、村の入り口に着いた。すると、
「ワンワンッ!ワンワンッ!」
と、いろんな方向から自分に向けて吠えられる。するとそのうるささから背中の少年が起きた。
「う、、うーん、、あっ村についた!!みんなこの人は多分大丈夫!!怪しいけど悪い人じゃないよ〜。」
敵意剥き出しで吠えまくる犬たちに対して少年が声をかける。その言葉が通じたのか、犬たちはだんだん静かになった。
「犬多すぎないか、、、?普通に怖かったぞ?」
「この村はみーんな犬が大好きでどの家も犬と一緒に生活しているんだ!だから、この村は
「犬恩村か、、なんか仰々しい名前だな、、犬になんか恩でもあるのかこの村は、、」
少年から村の軽い説明を受けながら、少年の家へ向かった。村の中心には大きめの鐘があり、少年が言うように本当にどこの家にも最低1匹は犬がいて、家に首輪で繋がれている。少年が背中にいるからか、村の人たちも特に自分に抵抗なく話しかけてくれた。少年は勝手に村から外に出たらしく、色んな人に怒られてた。珍しくも暖かな村だなと思いつつ足を進めると、
「そこ!あの目の前の寝ている犬がいる家が僕の家だよ!」
少年を指を差しながら言った。小さな犬が戸の前で寝ている家が見えた。適当な返事をして、その家に近づく。犬はすぐに起き、俺に向かって大きな声で吠え始める。しかし、先ほどとは異なり自分に吠えると言うより、背中にいる少年が帰ってきたのが嬉しいのか「キャンキャンッ」と明るい声で出迎えをしているようだった。
「ただいま、なぎ〜。ごめんね、ちょっとお出かけしてた!」
「凪」という名前には合わず、声、体全てを使って少年が帰ってきた喜びを表現していた。少年と犬が触れ合えるほどの高さになるまで腰を落とした。少年と犬が再会の喜びを噛み締め合っていると、戸が開きそこから14,5歳ほどのまだ少し幼さを残した少女が出てきた。その少女はとても可憐でどこが儚げのある顔をしていた。
「お前また勝手に村の外に行ったでしょ!!」
「あ、姉ちゃっ、、」
少年が話終わるまでに少年の頬には彼女の手のひらが飛んでいた。空気を叩いたのかと思えるほどいい音がして、状況を察したのか犬はそそくさと物陰に隠れた。
「本当に心配したんだから、、。」
心配しているのか、怒っているのかわからないが、自分を挟んだ状態で説教が始まりとても気まずかった。少女は心配と怒りからか男に気付いていない様子だ。
(俺ここにいるんだが、、気づかない、、?そんなことはあるか、、、?)
このままだと本当に気付かなそうであったので、勇気を出し声を出す。
「あのぉ、、」
「え、、」
少女はこちらに気づき驚き、少し慌てた様子で
「どちらさま、ですか、、?」
ことの経緯を話した。少女は感謝を繰り返し、そして男を家の中に上げた。
「弟を助けていただいて本当にありがとうございます、、なんとお礼を言ったら良いのか、、」
「いやいや大丈夫だよ。ただ運んできただけだし、、でももしよかったら何かご飯をいただきたいな〜」
少年、少女にたかるのは少し気が引けたがお腹の空きに負け食事を懇願してしまった。
「もちろんです!是非食べてってください!夜も遅いですし、今夜はうちにとまっててください。」
「ありがとう、お言葉に甘えるよ。」
「やったー!!おじさんともう少し一緒にいれるや〜。」
「、、もう、なんでもいいや。お前はなんで村の外に出たんだ?」
「それは、、最近村のみんながお肉食べれていなから、、みんなにお肉食べさせたくて、、」
「そうか、、そんなに動物が獲れていないのか?」
男は少女に顔向け、問いかける。
「そうですね、、でも、山菜だったり、魚は獲れるので食べ物に困ってはいないのですが、、村では山に鬼が出たなんて噂が流れてますよ。」
そう言いつつ裏戸の近くにある食材を持ってきて、料理を始める。少女は包丁を持ち、手際良く料理を進める。
この兄弟は親は物ごごろついた時からおらず、
「ねーちゃん、ちゃんと料理三等分できる〜?今日はこの人もいるから三等分だよ〜。ねーちゃんは料理も料理を二等分するのがちょー得意なんだよー!ちょっと味濃いけど!」
「へーそうなのか、そんな上手なのか楽しみだな。」
「そんな期待しないでください、、。」
その後、他愛のない話しをし、食事ができるまでの時間を潰した。少年は男が物珍しいのか質問攻めにしていた。
食事ができ、それぞれの前に配られた。
美味しそうであることはもちろんが先に少年が話したようにまるで全く同じ見た目、量、大きさの料理が並んでいる。ここまで綺麗に同じだと少し不気味なくらいだ。
「すごいな、、とても美味しそうだ、、。」
「いただいちゃってください!」
少女は元気よく食べるのを催促した。
「じゃあ遠慮なく〜」
「ちょっと待て、」
少年が箸をもち、食事にありつこうとしたが、男が制止した。
「?、、何どうしたの?」
「俺の出身の風習でな、食事をいただく前に作ってくれた人、そしてこの食物の命をいただくことに感謝して手を合わしてこう言うんだ。『いただきます』ってな。挨拶みたいなもんだ。」
「素敵な言葉ですね、、。是非みんなでしましょう!」
「あぁ、そうだな。」
「「「いただきます。」」」
三人で話をしながら食事を取った。
「おじさんご飯美味しい??」
「あぁ、とても美味しいよ。作ってくれてありがとう。」
「えー少ししょっぱくない??」
「うるさい!もっと感謝して食べなさい!」
三人で会話をしつつ食事をした。
食事を取り終え、少女と一緒に片付けを行う。少年は疲れからか既に寝ていた。
「すみません、片付け手伝っていただいちゃって、、」
「いいんだよ、一宿一飯の恩ていうしな。あんたら親はどうしていないんだ?」
「はい、、物心ついた時から二人で村の人に支えながらですが二人で生きてきました。親は村のきまりを破って死んでしまったと聞いています、、。」
「村のきまり??そんなやばいきまりがあるのか、、。」
「私たちもよくわからないのですが、、、。」
男は少し間が悪くなり、言葉が詰まってしまった。しかし、それを察したのか、
「よしっ!片付けも終わったし床に就きましょうか。お兄さんは明日この村をででいかれるんですか?」
「、、うんそうしようかと思ってる。長いしても悪いしな。今日は本当にありがとう。ご飯おいしかったよ。あんたはいいねーちゃんだ。」
「ありがとうございます、、!弟も懐いてますし一日と言わず何日でもいて良いですからね。」
「あぁ、考えておくよ。」
少し話し、互いに距離をとり床に就こうとしたときだった。
カランカラン!!!!!カランカラーン!!!!!
村の中心から大音量の鐘の音が聞こえた。男と少女は飛び起きた。
「なんだこの鐘の音は、、!近所迷惑だろ。」
「これは村の緊急の鐘です!何か異常があったら鳴らされるそうです。」
「異常ってなんだよ。」
「わかりません。だけどこの鐘がなったら絶対に家から出てはいけないっていう村のきまりがあります。」
「緊急だったら逃げなきゃダメなんじゃ、、」
男が戸に手をかけ外に出ようとすると、
「ダメです!!私の両親はこのきまりを破って命を落としたそうです、、!」
「!?」
男の行動が止まる。何がなんだかよくわからない。
「ワンワンッ!ワンワンッ!」
鐘の音に呼応して犬たちも何かを知らせようとしているのか一斉に吠え始めた。
「キャーーン、、、!!!」
ただ吠えているだけではない。その咆哮の中に犬の助けを求めるようなな叫び声が聞こえる。この不気味な現象とこんな異常事態でも家の外に絶対出てはいけないというきまり、きまりを破って死んだ両親。これらの情報が男を一つの結論へと導く。男は刀を握り締めながら、少女に声をかけ、導いた結論を伝える。
「だから
少女は男が何を言っているのか理解できない。
「今、この村には鬼がきている。」
「え、、!鬼、、?そんなのただの噂話じゃ、、。」
「、、鬼は実在する。奴らは傷ついても、切られてもその場から再生して、そして食欲が収まるまで目に入る生き物の骨まで喰らい尽くす。ほぼ災害みたいなもんだ。誰も敵わない。」
「そんな、、じゃあ私たちの両親は、、」
「そうだな、、鐘が鳴ったら絶対に家から出てはいけないっていうきまりは村人を守るためのきまりだったんだ。鬼に生贄を差し出して。」
「生贄、、?生贄って、、なんですか、、?」
「、、犬だよ。鬼は食欲が満たされれば食事をやめ、どこかに消えていく。奴らは目は良いが鼻はあまり効かないし頭もよくない。つまり、村人たちは家の中に隠れやり過ごし、鬼の食欲が満たされるまで生贄の犬たちを鬼に差し出す。こんなとこだろう。これが犬たちへの恩なんだろう。」
「そんな、、!!そんな話しあり得な、」
「キャンッ!キャーーン、、」
犬の悲痛な叫び声の発生源が近づいてる。何かがこの家に近づいてきている。
男が戸の隙から外を覗くとこの世のものとは思えない異形の姿があった。
少女も戸の隙間からこの世の残酷で悪夢より恐ろしい現実を目にする。少女の表情はぐちゃぐちゃになり、目には涙が溜まっていた。
鬼はだんだん近づいてきている、もう目と鼻の先だ。鬼は何かに興味を示したらしい。
「世の中が残酷だ。思っている以上にな。生きたけりゃ静かにやり過ごすしかない、、。」
「で、でも、こんなこと弟が知ったら、、凪は私たちにとって家族なんです、、!」
「仕方ねぇな、、少年は、、」
二人は少年のいた布団を見る。そこには少年はいなかった。裏戸が空いており、月の光が部屋に差し込んでいた。
「まさか、、!!」
「やめろーーーー!!」
家の外から少年の声が聞こえる。必死に何かを守ろうとしている。その何かとはもちろん彼の家族である凪だ。彼は怪我した足を引きずりながら必死で犬に覆い被さる。彼の怪我をした足では凪を守ることはできるが逃げることはできない。鬼は少年に襲いかかる。首元に噛み付く。
「うあああぁぁぁぁーーーー!!!!」
少年の叫びとともに血が飛び散る。その場にいた凪が鬼の腕にに噛み付く。鬼はすぐに犬を地面に叩きつける。凪は「キャンッ」と叫び、動かなくなってしまった。噛みつかれた腕はすぐに再生されていた。鬼が二口目を口にしようと口を離した隙に男が鬼の頭部に飛び蹴りをし、鬼を少年から遠ざける。男は腰の刀に手をかけ、腰を少し下げ、背筋をしっかりと伸ばし、体勢をとる。少女が叫ぶ。
「鬼には誰も敵わないんでしょ、、!弟を連れて逃げましょう!」
「少年、よく凪を守った。お前は立派な男だよ。後は任せろ。」
「あ、、りがとう、、おにぃさ、、ん、、おねえを、、守って。」
その言葉を聞いた男は刀に力を込め、刀を抜く。
刹那、男は鬼に右腕を切り落とす。相手が切られた腕を再生するのと同時に男は左腕を切り落とす。男は再生するよりも早く体の部位を切り落としていく。その速度は指数的に速くなり、全く目で追えない速度まで達した。それと同時にその場に風が巻き起こる。風が強く少女は目が開けられない。風が止み、少女が目を開けた時にはそこには男、倒れている少年、愛犬の他何もいなかった。先までいた何かを見つけることはできなかった。塵一つ。最初からそんな存在がなかったようにそんな感じがした。まるで夢でもみているかのような不思議な感覚であった。しかし、目の前に倒れる弟の姿が夢ではなくこれが現実であることを思い出させる。
「大丈夫!?しっかりして、、!!」
「ね、、ちゃん今日のご飯もおいしかった、、。ありがとう、、。」
そんな他愛のない感謝の言葉を残し、少年は目を閉じる。
時間が経ち、ことの異常に気づいた村人たちが少しずつ外に出てきた。そこには無惨に転がる犬の肉片や血溜まり、倒れる少年、そこに泣き崩れる少女、少女に寄り添う男、あまりも悲惨な光景が広がっていた。先程までの村の姿はもうそこにはなかった。
次の日______
村のはずれで火葬が行われた。そこには少女、村の住人そして男がいた。
村人の中からすすり声が聞こえた。少女は泣いていなかった。男は、
「まただ、いつも間に合わない、、。」
呟いた。少女には意味がわからなかった。
火葬が終わり、墓を立てた。
「これで弟も凪も安らかに眠れると思います、、。」
男は少女に寄り添って行動していた。一通りが終わり、少しの落ち着きができた。
「つらいと思う。だが、これからも地面踏みしめて精一杯生きないといけない。これは少年の願いだ。これを叶えないわけには行かない。わかったか?」
「はい、、わかってます。」
「また、この村に戻ってくるよ。それまで元気でいるんだぞ。」
そう言い、男は少女の頭の撫で、村の出口に足を進める。
村の出口に差し当たった時、後ろから甲高い声が聞こえる。
「私も、、私もあなたの旅に一緒に連れてってください!」
切半 えだまめ @edemame
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