残機なんていらねェんだわ。

長月瓦礫

残機なんていらねェんだわ。


異世界に転移したが魔王が強すぎる。


 何度も勇者長月瓦礫のチートスキルである死に戻りを駆使して、魔王との戦いをやり直しているが勝てる気がしない。


 死に戻りとは、死ぬと少し前に戻りやり直せる能力だ。

もっとも戻れるのは魔王と戦う直前に固定されている。


 だいたい大陸が吹き飛ぶ威力の隕石を当てても、完全物理無効によりノーダメージだし、異世界転移させるにも完全魔法無効で効果なし、もちろん攻撃魔法もノーダメージだ。


 完全状態異常無効で、デバフも毒も石化も変化も何もかも、そう封印さえも完全無効だ。オマケに超回復で細胞が一つでもあれば数秒で元に戻るらしい。

そもそもかすり傷すら与えられないけど。


 対話しようにも見た目は、毒々しいでっかい恐竜で、食うか、殺るか、どちらしかないという知能もない生き物だ。


 しかし放置していては、世界中の生き物が食い尽くされてしまう。

 そこで勇者長月瓦礫のアイディアの出番だ。


***


「俺……いや、に考えがあるッ!」


残機なんていらねェんだわ。自分の手の中に収めてしまえば、それで十分だろ?


今この瞬間から、勇者の人格は消し飛んだ。

勇者が消えたからか、死に戻りのスキルも消えた。

は新たにグーゴル教授アカシックレコード揚げ足取りアライバルオブフィアーを手に入れた。


グーゴル教授アカシックレコードは宇宙の始まりからすべてを記録している媒体だ。

どんなことでも即座に検索でき、知識を得ることができる。


思考を持て余した現代の暇人には最高のブツオモチャなんじゃないか? 知らんけど。


揚げ足取りアライバルオブフィアー、それすなわち文章に隠された作者の思惑を意図的に探るものだ。

国語のテストで見かける割に、誰も得しない例のアレだ。


割とマジで誰も幸せにならないと思うんだけど、何でやってんだろうな。

まあ、今はどうでもいいや。


魔王の足元に紫色の池が広がりつつあるし、余計なことを考えている暇はない。


グーゴル教授アカシックレコードを開いた。

魔王はでっかい恐竜ということらしいけど、

いわゆるとして考えるなら、30m以上はあるらしいけど。

そうなると、10階建てのマンションくらいか。


これが揚げ足取りアライバルオブフィアーだ。

作者エイルさんが考えてなさそうなところに食らいつき、想像を意図的に膨らませる。

この企画を持ち込んだ作者エイルさんには悪いけど、ここはの領分だ。好きにやらせてもらう。


さて、勇者がいて世界を破滅する魔王がいる。

には剣と魔法の王道系ファンタジーかな。


死に戻りというチートスキルを持っているとことから、これは21世紀前半の若者向けの娯楽小説ということでまちがいないだろう。

世界をひっくり返すイカサマは主人公の特権だしな。


中世ヨーロッパ風の世界観に現代的エッセンスを加えたアトラクション的文学作品!

今のはなんちゃってヨーロッパな世界観にいるということ! 

そこから導き出される答えはこれだ!


私は指を鳴らした。

グーゴル教授アカシックレコードがあれば、どんな魔法も使いたい放題だ。

恐竜の頭上に魔法陣が現れ、10トントラックがいくつも落ちてきた。


だったら、どうにもできないだろ?」


10トントラックなんてこの世界には存在しないはずだ。世界観をぶち壊すからな! 

なんちゃってヨーロッパには馬車やチャリオットがお似合いってなもんだ!


トラックを綺麗に整列させ、魔王を蹂躙する。

運転手はだいぶ慌てているようで、好き勝手に走っている。

異世界転生するとは思うわけがないだろうし、業務妨害もいいところだ。


どれだけトラックが走っていても、絶対に事故は起きない。

運転手をスキルで手懐け、操っているからだ。

こうでもしないと、勝てない相手なのだ。


元々、勇者のスペックはかなり高い。

覚えなくてもいい魔法まで覚えてしまっている。


てか、単騎特攻とかコイツ死ぬ気か?

ただの自殺志願者でしたってオチだけはやめてくれよ?


「ま、どうでもいいか」


魔王、すでに息絶えてるし。

タイヤの跡がくっきりと体中に残り、魔王は絶命していた。


10トントラックをすべて元の世界に返し、はこの世界を後にした。


***


こうして、世界に平和が訪れた。

魔王の脅威は去り、勇者を讃えた。


「魔王と戦っているときのことは何も覚えていない。

気がついたら、魔王は死んでいた。あの奇妙な傷跡も何も知らない。

知らない間に神の一手が下されたような……そんな感じだ」


見えない何かに怯えながら、勇者は語っていた。


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