第四話 ──そして、世界を探検する──



ショウターが衝撃の告白をした数分後、やっとジョセフの意識が追いついた。この数分間、ジョセフは半分くらい意識を飛ばしながら帰路に就いていた。


「神に選ばれたというのはどういうことだい?全く理解が追いつかないのだが…お前の様子もずっとおかしいし…」

まあ、当たり前だよねと。今日6歳になったばかりの息子が、年齢と似つかわしくない言葉を並べ、あまつさえ数分前までずっと百面相をしていたのだから。明らかに別人になってしまったと思うのも無理からぬこと。誰だってそう思う、俺だってそう思う。


「女神様の像の前でお祈りをした結果、どうやら8個ほどスキルを獲得することが出来ました。」

加護やら特殊ジョブやらは、若干気味が悪いので伏せておく。あと、スキル数を正直に言ったのは失敗だったかなとジョセフを見て思った。だってお目目まん丸にして口開いちゃってるもん。だがジョセフも人の親である。務めて明るく、その若干血の気の引いた顔に笑顔を浮かべて、


「やったじゃないか、ショウター!お父さんは誇らしいぞ!」

そう言って、頭を撫でてきた。前世ならば触んなクソ親父と振り払っていたところだが、何を隠そうショウターはジョセフのことが好きだったのだ。少しの気恥しさと擽ったさから、年相応の子供の笑顔になり父と戯れたじゃれた


「それじゃ、お母さん達が待ってる。嬉しい報告をしに行こうか!」

ジョセフはさっきまでのショック顔が嘘のように、ニコニコしながら先を歩く。ここであることを思い出したショウターが父に問うた。


「お母さんに頼まれていたお使いは…?」

ハッとした顔の後しばしの逡巡を経て、諦めたように呟いた。


「…今日は色々あったから、明日行くと伝えるよ。」

ちょっと引き攣った顔をしてジョセフが言った。まぁ、父さんがいいならいいかとショウターは考えることをやめた。後で雷落ちなければいいなぁと一抹の不安を抱えながら。


帰宅すると、ジョセフはいの一番にレコアに謝った。その速さたるや瞬神の名がついてもおかしくないほどだ。残像とか出てたし。レコアは初め驚いていたが、事情を聞くと成程とウンウン頷きながらショウターの方を見た。


「良かったわね、ショウター!私の息子がこんなに素敵な贈り物をいただけるとは夢にも思っていなかったわ!」

レコアは目に涙を浮かべながら、ショウターを抱きしめた。


「お母さん、痛いです。」

ちょっと照れたようにショウターが呟いた。


「あら、ごめんなさいね。ふふっ、まさかテネス家から英雄が生まれるかもしれないなんてね。本当に、人生って面白いわ!」

ショウターから離れると、今にも踊り出しそうなレコア。それを見て一安心したようにホッとため息をつくジョセフ。そんな二人を見てなんのことか分からない顔の可愛らしい兄弟たち。


今日は本当に特別な日になった。


(しかし、この特殊ジョブというのは一体何なのだろうか…そして俺はどこに導かれようとしているのか…)

物憂げな表情を浮かべ遠くを見つめる兄に、まだ小さい弟が屈託の無い笑顔を向ける。




そんなことがテネス家であった数年後、ショウターは10歳になった。この国での成人は15歳であるらしい。まだまだ先の話だ。


なんだか昔の武士の元服のようだとショウターは思う。髷を結い剃髪をしなくていいのが救いだななんて思ったりもした。ハハハ、笑うとこだぞここは。


さて、ここ数年で人が変わったように(まぁ実際変わってるんだけども)内向的でなくなったショウターは、仲のいい友人と呼べる人達も出来た。今日はどうやら近場の森、ハンターが言うところの狩場に探検に行くようだ。


「ねぇ、ショウター…怒られないかな?子供達だけで森なんて入ったら。」

若干ビビってるのが、赤茶色でパーマのような癖のある髪の毛をしているソバカスの子供。1番仲良く遊んでいる子だ。名前をカッツと言う。カッツは後ろをしきりに振り返りながらショウターに言った。


「なんだよカッツ、ビビってんなら広場へ帰りな。士気が下がっちまうからよ。」

ふふんと鼻を鳴らしてそう言ったのが、年齢の割に大きくがっしりした体格をしている、所謂ガキ大将的キャラクターのキースである。

赤髪の短髪でぴょこんとてっぺんのとこだけ盛り上げている。言葉はさておきその性格は面倒見がよく、みんなからも頼られるリーダー的存在だった。ショウターもわりと好きでキースと絡んでいる。


「キース、大丈夫だよ…なんてったって、ショウターが居るんだからね!!」

何故かフフンと胸を張ってふんぞり返っているのが、お調子者のリット。この中では力は無いが1番足が速い子である。ゆくゆくはこの4人でパーティを組み、国一番の冒険者になるという野望を密かに抱いている…のだけどみんな知っていた。要は筒抜けである。


「あんまり頼りにしないでよ?テンパると碌な事にならないから。自己防衛。それが一番大事〜。」

などと気の抜けた声で答えるのが、ご存知ショウターである。

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