紫陽花

紫陽花

私、紫陽花って好きなの。


ひらひらと小さい花がいくつも重なり合って大きな花を作り上げているのが好きで。


雨に濡れて、しっとりと色が柔く重なって変わっていくのもとても好きなの。

雨粒がすぅ、と花びらの上にのって滑り落ちていくのもいいわね。


その紫陽花をね、傘と髪の隙間から見るのが好きなの。

雨で灰色に染まった世界の中で、淡く、それでもしっかりと佇んでいる様子が気品があって綺麗だわ。


どうしてこんな話をするのかって?


ああほら、ここの庭にもあったでしょう?紫陽花。


あちらも素晴らしいわね。手入れが良くされているのがよくわかるわ。

大事にされているのね。


ふふ、こんなこと言っては、貴方は紫陽花を見るたびに私を思い出すかしらね?





……でもそれだけじゃないのよ。


ほら、紫陽花ってよくミステリのトリックに使われたりすることがあるでしょう?


そう、土がアルカリ性か酸性かで花の色が変わるから、でしたっけ。人を埋めるとそこだけ血を吸ったように真っ赤になるから、わかってしまうと。あら、反対だったかしら?


ふふ、ふふ、不思議なものねえ。


それってただ本当に血を吸ってるだけでなくて?と思うのだけれど。


だって、昔は青い薔薇といったら、白い薔薇の茎に青い液体を浸して花弁を染めあげたじゃありませんか。ならば、血で浸せば真っ赤になるのでしょう?


体ひとつで花の色を変えられる、なんて素晴らしいと思いませんか?


ーーええ、ええ。わかっておりますとも。

こんなの、ただの戯言であることくらい。


しかし、少しばかりは夢をみたっていいじゃあありませんか。


自分の体が貴方を構成する一部となる、ーーなんて、恋をすれば一度は思い描くことでしょう?

乙女の、ほんのささやかな願いでございますもの。


死しても尚、貴方に忘れられずにいるためには、こういった、ほんのスパイスを与えなきゃ、ね?


少女はありったけのお砂糖と、ほんの少しのスパイスでてきているもの。それを貴方は今日余すところなく暴くの。


身に包んだ袋を解いて、指を滑らせて。開かせて。穴を開けて、花を散らすの。しとどに流れおつる蜜を絡めとって、丹念に飲み込むの。


ええ、私たち処女(おとめ)たちは血を流して貴方へそのせいを受け止めるのですもの。


貫かれる痛みを、清らかなる貴方に刻みつけたいの。わかってくださる?貴方が私を自分の色に染め上げたいように、私も貴方を染めたいのよ。


だから、そこの障子を閉めてちょうだい。貴方だって、私に詰め込まれた砂糖を月に奪われたくないでしょう?


乱暴はしちゃだめよ?優しく触って、掬って、食んで頂戴な。逃げたりなんて、私には残されたりはしていないのだから。


だから、思う存分にまで味わって。受け止めてね。













「ーーいただきます」





ぐちゃ。

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紫陽花 @Rei_snowleaf

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