第6話 新人
私はほんの少しだけ昨日のワインの余韻が体に残ってしまっている事を感じつつも、起床する。今日からギルドに来る新人への期待の方がアルコールよりも上回っているようで、寝起きは意外とスムーズに済んだ。
朝早くから行われる新人達との顔合わせと初日の研修には十分に間に合いそうだ。
研修の初日は「アレ」が定番なので、それが行いやすい格好に寝間着から着替える。
朝食は途中の屋台で何か買って食べていけばいいだろう。
前にも言ったとは思うが[フリーウォーク]は新人冒険者の研修のほぼ全てに携わっている。
そのためほとんどの新人は[フリーウォーク]に感謝の念を抱きつつも、最終的には別のギルドへと所属を変えていく。
故に研修を終えてフリーウォークに残る新人冒険者は稀だ。
とはいえ新人の来訪はそれだけで心躍るイベントなのは間違いないのだ。
それに稀とはいえそのままギルドメンバーとなる新人達もいる。
結果、私は先日にやらかして髪留めを落としたことを忘却して、スキップして玄関を出ていくのであった。
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「は、はじめまして!冒険者志望のネコメ・ナナと言います!よろしくお願いします!」
「はじめまして・・・フゥ・・・です。」
新人をギルドの玄関で出迎えた、私、シャム、エトーの前で青い髪の溌溂とした猫の獣人のネコメと、白い髪のおっとりとした感のある狐の獣人のフウの二人の女性が挨拶をする。
「はじめまして、[フリーウォーク]のギルドマスターをしている、エトー・ナインと申します。お二人には今日からしばらくこのギルドで初心者向けの研修を受けて頂く予定となっています。お二方が今後冒険者としてやっていくにあたっての研修ですから、覚えることも多くあったりで大変なこともあるとは思いますが、できれば楽しく前向きにやってもらえると嬉しいです。」
「はい!」「・・・はい。」
「今日はうちのギルドから二人、お手伝いで来て頂いています。お二人とも自己紹介をお願いしますね。」
「よろしくね、あたしはシャム。特技は武術。わかんないこととかあったら、なんでも聞いてね。」
「え!シャムさんって、ひょっとしてあの「拳舞」のシャム!?さんですか!?すごい!有名人だ!」
「・・・おお・・・有名人だ~。」
「へへへ、そんなことないって・・・おい、さち、なんで笑ってんのかなぁ?」
「ぷっ、ぶふぅ~。なんかシャムが気取ってるぅ~。ついでにちょっと照れてるぅ~。」
「もう、最初は安心してもらうためにも、ちゃんとしなきゃでしょ。はい、次はさちの番だよ。」
「そうだね、ごめんごめん。はじめまして、二人とも。私はサティ・ハルラ。得意なことは弓、ロングボウもショートボウも得意だよ。」
「え!サティさんって、ひょっとしてあの「双弓」のサティ!?さんですか!?すごい!有名人だ!」
「・・・おお・・・有名人だ~。」
「え?えへへ、そんなことないよぉ。へへ、えへへ。・・・ねぇ、シャム、笑うことを我慢しすぎて修羅みたいな顔になってるよ・・・」
冒険者界隈にはこういった二つ名という文化がある。
ある程度の功績を積んでいくと、目立った動きや特徴的な行動に合わせて、二つ名が冒険者組合より正式に贈られるという形だ。
二つ名を持っている冒険者は全体の1割程らしいので、二つ名は一つのステータスであり、冒険者の目標でもあり、仕事を任せる時の一つの担保になり得るとも言える。
「さて、自己紹介も済ませましたので、本日の研修を始めていきたいと思います。ネコメさん、フゥさん、お二人とも準備はよろしいいですか?」
「はい!事前に言われていた通りになるべく軽装で来ました!」
「・・・初めての研修は・・・荷物は少なくって言われてたので~。でも武器も持っていないのは・・・ちょっと不安です~。」
「研修ではその内容に集中してもらうため、余計な要素を省いて準備をしてもらっています。もちろん今回はとある近場に移動をするだけですので、まず危険はありませんし、「もし」が起こった場合でもサティさんとシャムさんがいますので安心してくださいね。」
私とシャムは二人を自信満々の笑顔で見つめる。
それを見て二人は安心したのか
「はい!了解しました!」「・・・はい。」
納得した顔でこちらに返事をする。
「それでは早速移動しましょう。最初の研修は・・・」
勝手知ったる私とシャムもそのあとの言葉に同時に続く。
「「かくれんぼです。」」
私はハルラ・サティ。金髪翠眼。白い肌。少し膨らんでいる様に見える胸。男だ。 自由な速さで歩く花 @satie331
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